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9、飴は甘い

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 陛下が私の部屋を訪れてから、一週間が過ぎていた。あれから毎日、陛下とは調理場で会っている。あの日見せた真剣な表情は、その後見ることはなくなっていた。

 今日は、身分関係なく子供達を王宮に招待したパーティーが庭園で行われていた。

 「沢山の子供達が来ていますね」

 エリーは子供が好きなのか、嬉しそうに子供達を見ている。

 「そうね、でもこれって子供達は本当に楽しいのかな?」

 沢山のお菓子が用意されてはいるけど、貴族達や貴族の子供達は平民の子供達に見向きもしていない。そして貴族達は、王妃様に媚びを売るために必死になっている。これでは、つまらなかった王妃様主催のお茶会と変わらない。
 子供達を楽しませるイベントのはずなのに、主役の子供達を蔑ろにしているこのパーティーに、何の意味があるのだろうか。

 「エリー、後宮の調理場に行こう」

 昼間に調理場に行ったことはなかったけど、中に入ると沢山の使用人達が料理の下ごしらえをしていた。

 「アイシャ様!? 何かごようでしょうか?」

 話しかけて来たのは、本当の料理長だった。歳は四十歳くらいの普通のおじさん。何だかおかしくて、笑ってしまった。

 「あの……」

 困っている料理長に、調理場を貸して欲しいとお願いをした。

 注ぎ口が付いている手鍋に、砂糖と水を入れて溶けるまで混ぜる。それから、飴色になるまで煮詰める。
 細い棒に苺と林檎を一つずつさして、煮詰めた飴の中に棒にさした苺と林檎を回しながら飴でコーティングして出来上がり。

 料理長始め、調理場に居た使用人達がいつの間にか食い入るように見ていた。

 「運ぶのを、手伝っていただけます?」

 使用人達に手伝ってもらい、パーティーが行われている庭園へと運ぶ。

 「それは熱いので、気をつけてください」

 メインはイチゴ飴やリンゴ飴じゃない。
 手鍋に入っている飴が固まらないように、お湯を張ったボールに入れて湯せんしたまま運んでもらった。苺や林檎をさした棒と、アルミのトレイを持っていく。

 テーブルを一つ借りて、そこにイチゴ飴とリンゴ飴を並べてもらい、余ったスペースに固まっていないべっこう飴の入った鍋とアルミのトレイを置いた。

 「これなあに?」

 女の子が、イチゴ飴を指差してそう言った。

 「食べてみる?」

 「うん!」

 女の子にイチゴ飴をあげると、

 「パリパリしてて、甘くて美味しい!」

 喜んでくれた。
 その様子を見た他の子供達も、次々に集まって来た。

 「あなたのお名前、教えてくれる?」

 女の子に名前を聞いて、アルミのトレイに棒を置いてその上に飴を垂らしていく。飴が固まったら、トレイから剥がして……

 「はい、どうぞ」

 女の子に差し出すと、

 「すごーい! これ、あたしの名前だあ!」

 飴で女の子の名前を書いた。感動してくれたようで、イチゴ飴よりも喜んでくれた。

 「私も欲しい!」
 「僕も!」
 「ずるいー! あたしもー!」
 
 次々に子供達が集まって来て、あっという間に行列が出来ていた。

 「お名前は? ……って、陛下!?」

 「私にも、作ってくれ」

 陛下も子供達と一緒になって、列に並んでいたらしい。私は気付かなかったけど、護衛や臣下達が何度も注意していたと、こっそりエリーが教えてくれた。

 「陛下は子供ですか?」

 呆れたように言うと、拗ねたように口を尖らせた。

 「仕方がないだろう? 君の作るものなら、何でも食べたいんだ。それに、名前を書いてくれるなんて素晴らし過ぎる!」

 諦めるつもりはなさそうだから、仕方なく作ってあげると、子供達と一緒に喜んでいた。
 
 「いつの間に、陛下はアイシャ様と仲良くなったのだ?」
 「陛下はアイシャ様を冷遇していたのでは?」
 
 周りの貴族達は、私と陛下のやり取りを見て驚いていた。そして、貴族の子供達も並び始めた。

 「国王様も並んでいたのだから、僕達も欲しいです!」
 「私の名前も、書いてください!」

 目を輝かせながら、私を見てくる子供達が可愛い!

 「もちろん! お名前は?」

 エリーに新しい飴を何度も交換してもらいながら、子供達全員分の名前を飴で書いた。その頃には、王妃様の周りに誰もいなくなっていた。

 「素晴らしいですね! アイデアも奇抜ですし、何より子供達が楽しそう」
 「私達、アイシャ様を誤解していましたわ。こんなに行動的な方だったなんて」
 「うちの子も、こんなに楽しそうにしているのを久しぶりに見ました」

 子供達だけでなく、貴族達まで私の周りに集まっていた。

 「このパーティーは、子供達が主役ですからね。みんなの笑顔が見られて、本当に良かったです」

 王妃様の方を見ると、ものすごーく悔しそうな顔をしていた。

 「このようなことをして、大丈夫なのでしょうか……。王妃様がまた何かしかけて来るのでは?」

 不安がるエリー。あの鳥を思い出したようだ。

 「大丈夫。考えがあるの」

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