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1、私が側妃!?
しおりを挟む苦しい……な……に……これ……?
私……死ぬの……? 死に……く……い……
………………死にたくない!!
***
「………………ん……」
私……生きてるの?
目を開けたら、見知らぬ天井が見えた。
「アイシャ様!? お目覚めになったのですか!?」
アイシャって誰?
この女の人も誰? 看護師さん……にしては、変な格好をしてる。今日って、ハロウィンだっけ?
「……お腹…………空いた……」
このよく分からない状況で、なぜか口から発せられたのはそれだった。
「お、お食事ですね!? すぐに用意させます!」
女の人は、慌てた様子で部屋から出て行った。
ご飯を用意してくれるなんて、親切な人だなあ。
ゆっくり起き上がり、ベッドから降りてみる。辺りを見渡すと、すごく豪華な部屋だった。
大きなベッドにふかふかなソファー、高級そうなテーブルに大きなクローゼット。めちゃくちゃ高そうなドレッサーまである。
もしかしてここは……天国!?
やっぱり私は、死んだのね……って、待って!
私、とっくに死んでるじゃない!!
私の名前は、桐谷 杏。十八歳の時、お父さんが借金を作って逃げ出した。その後すぐに、お母さんが病死。
借金取りに捕まって、借金を返す為にキャバ嬢になった。逃げられないように寮に入れられ、貰った給料は全額持っていかれた。ご飯を食べられるのは、お客さんとの同伴の時とアフターの時だけ。ずっと見張られていて、逃げ出すことも出来なかった。ガリガリにやせ細って行く私に魅力を感じなくなったのか、お客さんはどんどん居なくなって行き、同伴やアフターだけでなく、指名もなくなった。
稼げなくなった私は用済みになり、借金取りは私を路地裏に捨てた。お腹が空いて動くことも出来ず、一月の寒空の下で私はそのまま死んだ……はずだった。
気付いたら、私は水の中に……居た?
息が苦しくて、もがいていた記憶がある。餓死したのか、凍死したのかと思っていたのに、何で水の中なんかにいたんだろう……
「アイシャ様、お食事をお持ちいたしました」
さっきの女の人が、テーブルの上にめちゃくちゃ豪華な料理を並べている。
「これ……食べていいの?」
並んでいる料理を見ながら生唾を飲み込む。いい匂い……
「? はい、お召し上がりください」
女の人は不思議そうな顔をしていたけど、そんなのどうでも良かった。
「いただきます!」
パンを頬張りながら、お肉を一口……
美味し~~~!!!
こんな豪華なご飯、何時ぶりだろう。
お肉の次は、スープ。スープにパンを浸してパクリ。
用意された料理を全部食べ切り、紅茶を飲んで一息つく。
「ご馳走様でした~! はぁ……美味しかった」
「あの……アイシャ様、お聞きしたいことがあるのですが」
女の人は空になったカップに紅茶を注ぎながら、そう言って来た。
そういえば、アイシャって誰のことなんだろう? さっきからずっと、私のことをそう呼んでるけど……まさか、人違いしてるんじゃ!?
ご飯、食べちゃった!!
これは、謝るしかないよね。お金なんか持ってないし……
「あの……ごめんなさい!! お金はないんですけど、いつか(多分)返します! 私は、アイシャなんて人じゃありません!!」
イスから立ち上がって、思いっきり頭を下げる。お母さんが死んでから、こんなに優しくされたのは初めてだったのに、騙すような形になってしまった。
「アイシャ様……? 何を仰っているのですか? アイシャ様で間違いありません。後宮に居るのが、何よりの証拠ではありませんか。まさか池に身を投げた時に、頭をぶつけてしまったのですか?」
後宮? 身を投げた?
この人、何を言っているの?
私は誰がどう見ても、日本人なのに……
その時、目の端に映った鏡に、自分の姿が映り出されていた。そこに映っているのは、銀色の長い髪に緑色の瞳の美少女……………………これは誰なの!???
頭がパニックになった。この姿は、私じゃない!
どう見ても、日本人でもない!
「ねえ、あなた! 私、どうなっちゃったの!?」
とりあえず、誰かに聞くしかなかった。女の人は、『なんだろうこの人』みたいな目で私を見ている。
「アイシャ様は、どこまで覚えておいでなのですか?」
「……………………何も、覚えてない」
アイシャの記憶なんて、全くない。
とりあえず、もう一度イスに座ってみた。
「では、私が知っていることをお話します。アイシャ様はキース侯爵様の長女で、二年前に国王陛下の側妃におなりになりました。私、エリーはアイシャ様にお仕えする侍女です。ここまでは、よろしいでしょうか?」
「う、うん」
本当は、全く話が頭に入って来ない。
侯爵とか国王陛下とか側妃とか……どこの国よ!?
何だか、小説みたいな世界。こんなことが実際に起こるなんて……
「二年間、陛下は一度もアイシャ様にお会いしにいらっしゃいませんでした。そのことで、アイシャ様は思い悩んでいたご様子でした。昨夜、お休みになっているとばかり思っていたアイシャ様のお姿がなく、お探ししたところ、池の中に……」
あれは、池の中だったのか。アイシャって人は、その王様が好きだったのかな? こんなに贅沢な暮らしをしてるのに、死ぬなんてもったいない。
「えっと、エリー? だったよね。どうして、身を投げたんだと分かったの? ただ、足を滑らせて落ちただけかもしれないじゃない。それに、殺されかけたという可能性もある」
死ぬほどこの生活が嫌だなんて、私には全く理解出来ない。
「それは、あのような夜更けに、お一人で部屋をお出になられたからです。二度と、あのようなことはなさらないでください!!」
エリーは涙目になりながら、怒鳴るように叱りつけて来た。
「エリー……そんなに心配してくれたの?」
こんな風に心配されたこと、一度もなかった。胸が、ジーンとした。
「当たり前です! アイシャ様がお亡くなりになられたら、私の責任になってしまいます! 良くて追放ですよ!? 下手したら、死罪です!!」
「…………」
涙目だった瞳から、涙が流れた。私が心配だからじゃなく、自分の身が心配で。正直な人だ。
「取り乱してしまい、申し訳ありません」
一気に、平静に戻った。何だろう、この人。
まあでも、嘘で誤魔化されるよりはこの方が好きかな。
「とりあえず、私が側妃なのは理解した。少し、一人になりたい」
私がそう言うと、エリーは頭を下げて部屋から出て行った。
考えられるのは、生まれ変わり……かな。
だって私、死んでるし。
だとすると、私はアイシャだったことになる。でも、その記憶は一切ない。
自殺しようとして池に飛び込んだら、前世の記憶が戻ったとか?
アイシャは、死にたかった。だけど、前世の記憶を持つ私は死にたくなかった。そう考えると、少しだけ納得は出来る。
よし! 深く考えるのはやめよう!
側妃? 贅沢出来るんだから、上等じゃない!
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