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33、卒業式、そしていよいよ……
しおりを挟む学園の卒業式が行われ、私達は無事に卒業することが出来た。この学園で、色々なことが起こった。一番印象に残っているのは、私の作った木の被り物をアンソニー様が背中に括り付けた姿だ。沢山嫌な思いをしたのに、思い出すのは楽しかったこと。もうあの思い出の場所に行くことがなくなるのかと思うと、すごく寂しい。あの場所は、アンソニー様と出会った場所で、安らぎの場所だった。
最後にもう一度だけと思い、あのベンチに腰を下ろす。ここから見る景色が、本当に好きだった。ぼーっと空を見上げていると、聞き覚えのある声が聞こえた。
「ここに居ると思った」
その声を聞くと、とても安心する。声の主は、もちろんアンソニー様だ。彼はゆっくりと私の隣に腰を下ろし、一緒に空を見上げた。
「ここに来ることがもうないのだと思うと、なんだか切ないです。私にとって、本当に大切な場所でした」
「俺達が出会った場所だしね。君に出会えて、良かった。俺の人生で、最高の出来事だった」
私にとっても、最高の出来事だった。
「これから先も、最高の出来事が沢山起こりすよ。私が、起こしてみせます」
彼の方を向いて、ドヤ顔をして見せた。
「頼もしいな。期待してる」
アンソニー様とこの場所で、何気ない話をするのが大好きだった。いつから彼への気持ちが愛情に変わったのかは分からないと思っていたけれど、本当は出会った時から恋をしていたのかもしれない。これから何があったとしても、彼への想いは変わらないだろう。
私達は、手を繋ぎながら思い出の場所をあとにした。
とうとう、この日がやって来た。
今日私は、十八歳になった。つまり、正式な侯爵になったということだ。朝早くから役所に行き、手続きは全てすませてある。
結婚式は、午後から教会で行われることになっていて、結婚式の準備はローズに任せていた。
私達……私とアンソニー様、ブラント公爵と夫人とマーク様、そして情報を集めてくれたディアナは、バーディ侯爵邸にあるパーティー用のホールに集まっていた。ここで何が行われるかは、言うまでもないだろう。
ホールに、貴族達が続々と集まって来ている。この場に招待したのは、サンドラの誕生日パーティーに出席していた貴族達だ。彼らは、私達の結婚式だと思い、この場に集まっている。
この場所、バーディ侯爵邸を選んだのは、天国に居る母に見てもらいたかったからだ。ここで、全ての決着をつける。
「モニカ! 誕生日おめでとう!」
父は私を見つけ、満面の笑みでお祝いの言葉を言った。父の笑顔を、久しぶりに見た気がする。
私の誕生日パーティーだと思っている父と義母。父は、待ちに待ったこの日が来たことを喜んでいる。
「お父様、ありがとうございます。ようやく、十八歳になることが出来ました」
「ワインはどこにあるの? 早く飲みたいわ」
義母は私が十八歳になったことなどどうでもいいようで、ずっと飲むことが出来なかったワインを探している。今日、お酒は用意していない。もっというと、料理も用意していない。彼らには、罰を与える為に集まってもらったのだから、もてなす必要などない。
「お義母様、ワインはありませんよ。お義母様に、お伝えしなければならないことがあります。実は、先日お父様に会いに女性が邸にいらしたんです。ご紹介しますね、リンダさんです」
リンダさんは、父から連絡がないからと邸を訪ねて来た。彼女には、「娘のモニカが十八歳の誕生日を迎えたら邸に呼ぶ」と、約束していたそうだ。その日が近付き、連絡がないことが不安になり、邸までやって来たというわけだ。正直意外だったけれど、最近の父は義母に冷たかった。その理由は、他に愛する人が出来たからだったようだ。
「リンダ? お前がなぜ……」
まさかリンダさんが現れるとは思っていなかった父は、頭をフル回転させても、次の言葉が出て来ないようだ。父の様子に気付いた義母は、リンダさんが愛人なのだと察したようだ。
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