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19、波乱の誕生日パーティー1

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 パーティーの準備に、私もローズも、一切口出ししなかった。使用人達にも、今日は私達のことよりも、パーティーの準備を優先するように話してある。

 「今日は、学園の生徒達も出席するのよね? サンドラの為に、何人来るのかしらね」

 ローズはワクワクしながら、私の部屋でパーティーの為のドレスに着替えている。

 「多分、大勢出席すると思うわ。出席する生徒達は、サンドラの取り巻きがほとんどだろうけれど」

 ルーファス様のあの爆弾発言以来、サンドラから距離を取る生徒達が増えた。かといって、私に味方するわけでもない。どちらにつけば得なのか分からないなら、傍観していようと考えたのだろう。正直、サンドラにそのままつこうと決めた取り巻き達の方が潔く思える。やっていることは、褒められたものではないけれど。

 「そういえば、モニカの愛しの君も来るのよね?」

 「な!?」

 愛しの君とか……どこからそんな話を聞いたのか、ニヤニヤしながら私の顔を覗き込んでくる。

 「顔が赤くなってる! モニカったら、可愛い!」

 「そんなんじゃない! からかわないでよ! 誰? ローズにそんな話をしたのは」

 侍女達を睨みつけると、目をそらされた。犯人は、二人共ということらしい。

 「いいじゃない! 私は、ルーファス様が苦手だったのよね。あの笑顔が、胡散臭かったというか、本性を隠してます……みたいに思えて。愛しの君は、モニカの為に邸に乗り込んで来たのでしょう? なんて素敵なのかしら!」

 ローズは、恋愛話が好きなようだ。目を輝かせながら、根掘り葉掘り聞いてくる。

 「話しは後で! 今日は、大切な日なのよ? そろそろ、ディアナが来てしまうわ」

 エイリーンのことを考えると、恋愛話で盛り上がるのは気が引けた。それに、今日は本当に大切な日だ。
 ローズは、緊張してガチガチになっている私の肩の力が抜けるように、気を使ってくれている。それにしても、『愛しの君』って……アンソニー様が聞いたら、大笑いしそうだ。

 パーティー開始の時間に近付くにつれ、続々と招待客が到着している。父も義母もサンドラも、これから起こることを知らない。三人は笑顔で招待客を接待している。
 ローズが邸に来てから、三人は邸で目立たないように日々を過ごしていた。父は大好きな高いお酒を飲むことが出来ず、義母は仕立て屋を呼んで買い物することも出来なかった。そしてサンドラは、私に会うのを避けていた。アンソニー様が、あの時サンドラに何を言ったのかは分からないけれど、サンドラは私を恐れているように見えた。

 「モニカ!」

 そのサンドラが、誕生日パーティーが行われる会場に入った瞬間、笑顔で手を振りながらこちらに近付いて来た。可愛らしいドレスに身を包んだ彼女。ドレスは、義母が三ヶ月前から作らせていた物だ。それに合わせたアクセサリーや靴も、先日届いていたのは知っていたけれど、これでもかというくらいにキラキラ光っていて眩しい。

 「……サンドラ、お誕生日おめでとう。ドレス、似合っているわ」

 私の目の前で足を止めたサンドラに、お祝いの言葉を言う。その言葉に、嬉しそうに私の手を両手で握る。

 「ありがとう! モニカに祝ってもらえるなんて、こんなに嬉しいことはないわ! 私ね、モニカの姉に生まれたことを感謝してるの! 今までは、誤解があったのよ。少し、意地悪だったと思う。ごめんなさい」

 私の目を見つめ、手を握りながら微笑む彼女は、まるで別人のようだ。
 サンドラは、私が侯爵だと理解し、取り入ることにしたのかもしれない。けれど、そんなことをしても、もう遅い。サンドラは、決して反省などしない。たとえ、反省の言葉を口にしていても。

 「今日は、あなたが主役なのだから、私にばかり構っていないで、皆さんにご挨拶をしたら?」

 これ以上、サンドラの作り物の笑顔を見ているのが苦痛だった。彼女を信じるほど、私はもう純粋じゃない。

 「モニカがそういうなら、そうするわね! ディアナは招待した覚えがないけれど、モニカの親友ですものね。来てくれてありがとう。じゃあ、また後でね!」

 ディアナも、ローズも、サンドラの変わりように開いた口が塞がらなくなっている。エイリーンをあんな目にあわせておいて、幸せそうに笑顔を振りまいているサンドラに嫌悪感を抱いている。

 「鳥肌が立っているのは、私だけ?」

 ローズは身震いしながら、サンドラの姿を目で追っている。

 「ローズ様、私もです!」

 アンソニー様……いったい、サンドラに何をしたの?

 「そういえば、モニカの愛しの君はどこ?」

 会場内を、キョロキョロと見渡すローズ。

 「愛しの……君って、アンソニー様のこと?」

 ディアナまで、愛しの君を知ってしまった。
 その呼び方、やめて欲しい……。

 「アンソニー様っていうのね……あれ? アンソニー様って、ブラント公爵家の?」

 「知っているの?」

 「公爵家の人間で、知らない者はいないわ。彼のことを、公爵家に必要だと思う人もいるけれど、危険だと言う人の方が多い」

 あの事件が、原因なのだろう。
 彼が、危険だなんて私は思わない。彼はただ、必死で家族を守ろうとしただけだ。

 「その顔を見る限り、全て知っているのね。それなら、モニカが信じたいと思える人を信じなさい。私も、あなたに従うわ」

 ローズは、私を信じてくれる。そして、私の信じる人も。

 「そろそろ、挨拶の時間ね」
 
 今日のパーティーの主催者は、父だった。もう侯爵代理でもない父が、バーディ侯爵邸で、バーディ侯爵家の血を引いていないサンドラの誕生日パーティーを開いているという、不思議な状況。
 そしてそこに、ルーファス様も姿を現した。彼は私の元婚約者で、サンドラの元恋人。そんな彼が、なぜか父親と共に、サンドラの誕生日パーティーに出席して来た。

 「モニカ!」

 先程のサンドラと、同じ行動。ルーファス様は私の姿を見つけると、何事もなかったような笑顔を向けてこちらに近付いて来た。
 今思えば、サンドラとルーファス様はお似合いだ。長年連れ添った夫婦のように、全く同じ行動をしている。

「今日は、とても綺麗だ!」

 悪気はないのだろうけれど、『今日』なんて失礼極まりない。

 「モニカ、久しぶりだな。ずいぶん綺麗になった。ルーファスには、もったいないくらいだ」

 ドナルド侯爵の言葉に、大きなため息が漏れる。ルーファス様は、私との婚約を破棄したことを、侯爵に伝えていなかったようだ。


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