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番外編 悲劇のヒロイン(自称) サンドラ視点
しおりを挟むおかしいおかしいおかしいおかしい……こんなの、おかしいわ!!!
私が、バーディ侯爵家を継げるんじゃなかったの!? やっと幸せになれると思っていたのに、こんなのおかしいじゃない!!
あの惨めな貧乏暮らしに戻るなんて、耐えられないわ!!
「お父様、私達はどうなってしまうの!?」
公爵令嬢だかなんだか知らないけど、あの女のせいで、私の部屋をモニカに奪われた。ルーファス様まで奪われたのに、これ以上奪われるなんて耐えられない。モニカは、私から全てを奪うつもりなのよ。
「安心しなさい。私には、奥の手がある。モニカは、私には逆らわない。ローズが代理を務めるといっても、モニカが十八歳になるまでだ。そうなれば、ローズは必要なくなり、今まで通りの暮らしに戻れる」
お父様は、私の頭を撫でながら、心配ないと言う。幼い子供のように扱われて、更に苛立ってくる。
そもそも、代理ってなんなのよ……。
お父様が侯爵だと思っていたのに、モニカが実は侯爵でしたなんて、こんなの悪夢でしかない。
「それは、本当なの? お父様が偉そうにしていたから、あのおばさんが娘を連れて現れたんじゃない? たかが、『代理』でしかないなんて、偉くもなんともないじゃない」
「サンドラ!? いい加減にしなさい!! 旦那様は、奥の手があると仰っているじゃない。信じていれば大丈夫よ」
お母様は、お父様の言うことなら何でも信じてしまう。まるで心酔しきった目で、お父様を見つめている。お母様だって、お父様が侯爵だと思っていたはずなのに、どうしてまだ信じようと思えるのか不思議で仕方ない。モニカに一番恨まれているのはお母様なのだから、このままなら追い出されることになると想像出来そうなものなのに。何を言っても無駄なら、自分でなんとかするしかない。
「……分かったわ。そういえば、部屋をモニカに取られてしまったけど、私の部屋はどこになるの?」
「しばらくは、客室を使いなさい」
あんな狭い部屋で暮らさなければならないなんて、あまりにも惨めだわ。服もアクセサリーも香水も、何も持ち出せなかった。全部私の物なのに……。何もかも手に入るはずだったのに、一瞬でなくなってしまった。どうして私が、こんな目にあわなければならないの?
「そんな顔をするな。大丈夫だ」
その言葉を信じるほど、私はお父様を愛していない。この人のせいで、愛人の娘だと言われ、虐められてきた。学園に入っても、それは変わらなかった。ルーファス様と付き合い始めて、ようやく虐めから解放されたのに……またあの地獄に戻るなんて絶対に嫌よ!
客室に行こうと廊下を歩いていると、ローズがこちらに向かって歩いて来た。この女のせいで、お父様は代理からおろされたのかと思うと腹が立つけれど、今は大人しくしていよう。
「待ちなさい」
無視して通り過ぎようとしたのに、ローズから呼び止められた。
「何ですか?」
「あなた、自分がどういう立場か理解しているの? これ以上、モニカを苦しめるようなことがあれば、私が許さないから覚悟しておいてね」
ローズはそれだけ言って、部屋に戻って行った。
たかが代理の分際で、何様のつもりなの!?
私の立場がどうだというのよ……待って、私はお父様の実の子でモニカの姉よ。ローズはただの代理で、いずれは公爵家を継ぐ。ということは、モニカが居なくなれば、私が侯爵になれるじゃない!! そうよ、邪魔なモニカを排除すればいいのよ! モニカが居なくなれば、ルーファス様もきっと私の元に戻って来てくれる。これで、何もかも上手く行く。
私が手をくだす必要はない。確か、エイリーンだったかしら? あのバカ女を利用すればいい。
翌朝早起きをして、エイリーンの邸に向かった。
「サンドラ様? どうされたのですか?」
「一緒に登校したいなと思って、迎えに来たの」
エイリーンは不思議そうな顔をしていたけど、それ以上わけは聞いて来なかった。一緒の馬車に乗り込み、さりげなくモニカの話をする。
「最近、モニカとはどう?」
「サンドラ様のご命令通り、今は関わらないようにしております」
そうだった。
お母様があまりに怯えていたから、エイリーンにも今は何もしないように命じていた。
「そう……けれど、あなたがしたことが騒ぎになっていてね、庇いきれなくなっているの」
「そんな!? あれは、サンドラ様が……」
「私が何だと言うの? 私はただ、モニカに突き飛ばされたと言っただけ。嫌がらせしたのは、あなたでしょう? 私に責任を押し付けるつもりなの?」
「いえ……そんなことは……」
エイリーンは、本当に扱いやすい。
「モニカは、あなたに復讐するつもりよ。私はね、エイリーンが好きなの。だから、あなたがモニカに酷い目にあわされるところなんて見たくない。モニカが居なくなれば、私もあなたも幸せになれると思わない?」
「サンドラ様……」
「あなたの家、大変なのでしょう? モニカを排除してくれるなら、借金を肩代わりしてあげてもいいわ。私はただ、エイリーンを守りたいの。だって、親友だもの」
「あの……もし私が捕まっても、借金の肩代わりをしてくださいますか?」
「そんなことにはならないと思うけど、もしもあなたが捕まって、私のことは一切話さなかったら、あなたの家は全力で守ると約束するわ」
エイリーンはしばらく考えていたけど、了承してくれた。こんなバカ女を、守るつもりなんかさらさらない。バカなんだから、直接自分で手をくだすでしょうね。でも、自分の家を守る為に、何も話したりはしない。私の計画は、完璧よ!
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