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全部知っています。
しおりを挟む「俺の事は分かるな? マリアンヌに、夫が会いに来たと伝えろ。」
朝早く、ロード侯爵邸の前で、マリアンヌに取り次ぐよう門番と話すスチュワート。
「申し訳ありませんが、お嬢様はまだお休みですので、時間を置いて来てください。」
まだ、日が昇っていない時刻に訪れたスチュワートに時間を置くように言った門番を、
「門番のくせに、俺に指図する気か!? 俺はスチュワート・デブリン侯爵だ! マリアンヌの旦那だぞ!? 妻を起こせばすむ話だ!!」
「……少々お待ちください。」
朝早くから門の前で大声を出すスチュワートに困り果てた門番は、執事のフリードに相談しに行った。しばらくすると、フリードがやって来て、
「大変申し訳ありませんでした。お嬢様は支度をされていますので、応接室でお待ちください。」
と、スチュワートを応接室へと案内した。すでに離婚が成立しているのにも関わらず、こんなに朝早くに妻を呼べなどと、非常識極まりなかったが、契約結婚だったとはいえ、借金を肩代わりしてもらった事を考慮しての対応だった。
「お待たせして申し訳ありません。今日はどうされたのですか?」
応接室へと入ってきたマリアンヌは、以前とはスチュワートを見る目が違って見えた。
「朝早くにすまなかった。君に会いたくなってしまって、自分をおさえることが出来なかったのだ。」
以前なら、こんな言葉を言われたら嬉しくて仕方なかったかもしれません。
ですが、今までスチュワート様に感じていた感情が、もう私には残っていませんでした。
「スチュワート様、私達は3年間の契約結婚を終えました。なぜまだ、私を妻だと仰ったのですか?」
「ど、どうしたのだ? 人が変わったようではないか? 君はあんなに、私を愛していたではないか!」
「やっぱり私の気持ちを、ご存知だったのですね。ご存知だったのに、契約結婚の最後の日に、わざわざ愛する人がいる事を私に告げたのですね……」
あの時、私がどんな気持ちだったのか、スチュワート様にはお分かりにならないのでしょうね。
「あれは……作り話だ! 愛する人などいない! 俺は君とまたやり直したいんだ!」
「……作り話ですか。私が何も知らないと思っているのですか? スチュワート様とやり直すことなどありません。そもそも、やり直すとはどういう事でしょうか? 私達は契約結婚をしていただけで、本当に結婚していたわけではありません。借金を返済して頂いた事には、感謝しておりますが、私との契約結婚でスチュワート様はそれ以上のものを得ましたよね? 」
「君は……本当に、あのマリアンヌなのか? あいつに入れ知恵されたのだな!? あいつが言ったことを信じるな! 俺は君を愛している!!」
それはこちらのセリフです。あなたは本当に、スチュワート様なのですか?
「全部知っています。スチュワート様が、どうして私に契約結婚を持ちかけたのかも……」
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