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実家に帰ります。

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 悲しいのは私だけ。この3年間は、幼なじみとしてではなく、ちゃんと夫婦になれたように思っていました。夜の営みはなくても、スチュワート様の良い妻でいられたと思います。
 私はダメですね。最初から決まっていたことなのに、あの幸せだった日々がスチュワート様のお心を変えてくれるかも……という、僅かな望みを持ってしまっていました。
 そんな私に、スチュワート様ははっきり引導を渡してくれたのですから、感謝しないといけませんね。

 自室に戻ると、それまで我慢していた涙が溢れ出してきた。

 「……ぅ……ぅぅ……っ……」

 部屋の外に聞こえないように、声を押し殺して泣くマリアンナ。

 スチュワート様は、すぐに出て行かなくてもいいと仰ったけれど、明日には出ていこう。
 私がいつまでもいたら、スチュワート様の想い人がいい気はしないでしょうし。
 旦那様がいる方だと仰ってましたけど、この3年で離婚したのでしょうか。2年で私は用済みになったはずなのに、3年間続けたのは、まだその女性の準備が出来ていなかっただけだったのですね。
 スチュワート様の口から、愛する人がいると聞いてしまい、私の心は嫉妬という醜い感情に支配されそうになっています。こんな感情があったことに、自分自身がビックリしています。
 この感情は、絶対に表には出しません。スチュワート様が幸せになる事が、私にとっての幸せだから。

 その日は眠ることが出来ず、夜が明けていた。

 荷物を整理し、邸を出て行く。

 スチュワート様に頂いたものは、全て置いて行こう。未練もこの邸に置いて、実家に帰ります。
 挨拶は昨日すませたので、何も言わずに出て行きます。スチュワート様のお顔を見てしまったら、涙を我慢する自信がありません。

 マリアンナは、『さようなら。』と一言だけ書いた手紙を置き、馬車に乗り、実家へと帰って行った。

 
 実家に帰ったマリアンヌは、邸の前で馬車を降りた。

 「マリアンヌ、おかえり。」

 声がした方を振り向くと、幼なじみのロナルドが立っていた。

 「ロナルド様? どうしてここにいらっしゃるのですか?」

 「昨日が契約完了だったから、君は今日帰ってくるんじゃないかと待っていたんだ。」

 ロナルド様はケイブル侯爵の長男で、私とスチュワート様の幼なじみなのですが、数年前からスチュワート様とロナルド様はあまり話をしなくなりました。理由はきっと、契約結婚だと思うのですが、昨日スチュワート様から聞いた既婚女性との不倫を知っていたからかもしれません。
 ロナルド様はとても真面目で誠実な方で、そのような不実な事が大嫌いな方だから。
 それに、ロナルド様は私の気持ちを知っている。

 「私が泣いていないか、心配してきてくださったのですか?」

 「いや……君が辛い時に、ここぞとばかりに優しくして、あわよくば俺を好きになってくれないかという下心で来た。」

 「ふふっ。それを話してしまったら、上手くいかないと思いますよ?」

 ロナルド様が私を元気付けようとしてくださっているのが、すごく伝わって来ます。

 「俺とした事が!! 最初からやり直そう! マリアンヌ、おかえり。」

 ロナルドは何もなかった顔をして、もう一度おかえりと言った。

 「ふふっ。ただいま。」

 実家に着くまでは、一人でいたいと思っていたけど、ロナルド様が来てくれていて本当によかったと思いました。彼のおかげで、辛い気持ちが少しだけ消えたような気がします。

 
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