2 / 9
実家に帰ります。
しおりを挟む悲しいのは私だけ。この3年間は、幼なじみとしてではなく、ちゃんと夫婦になれたように思っていました。夜の営みはなくても、スチュワート様の良い妻でいられたと思います。
私はダメですね。最初から決まっていたことなのに、あの幸せだった日々がスチュワート様のお心を変えてくれるかも……という、僅かな望みを持ってしまっていました。
そんな私に、スチュワート様ははっきり引導を渡してくれたのですから、感謝しないといけませんね。
自室に戻ると、それまで我慢していた涙が溢れ出してきた。
「……ぅ……ぅぅ……っ……」
部屋の外に聞こえないように、声を押し殺して泣くマリアンナ。
スチュワート様は、すぐに出て行かなくてもいいと仰ったけれど、明日には出ていこう。
私がいつまでもいたら、スチュワート様の想い人がいい気はしないでしょうし。
旦那様がいる方だと仰ってましたけど、この3年で離婚したのでしょうか。2年で私は用済みになったはずなのに、3年間続けたのは、まだその女性の準備が出来ていなかっただけだったのですね。
スチュワート様の口から、愛する人がいると聞いてしまい、私の心は嫉妬という醜い感情に支配されそうになっています。こんな感情があったことに、自分自身がビックリしています。
この感情は、絶対に表には出しません。スチュワート様が幸せになる事が、私にとっての幸せだから。
その日は眠ることが出来ず、夜が明けていた。
荷物を整理し、邸を出て行く。
スチュワート様に頂いたものは、全て置いて行こう。未練もこの邸に置いて、実家に帰ります。
挨拶は昨日すませたので、何も言わずに出て行きます。スチュワート様のお顔を見てしまったら、涙を我慢する自信がありません。
マリアンナは、『さようなら。』と一言だけ書いた手紙を置き、馬車に乗り、実家へと帰って行った。
実家に帰ったマリアンヌは、邸の前で馬車を降りた。
「マリアンヌ、おかえり。」
声がした方を振り向くと、幼なじみのロナルドが立っていた。
「ロナルド様? どうしてここにいらっしゃるのですか?」
「昨日が契約完了だったから、君は今日帰ってくるんじゃないかと待っていたんだ。」
ロナルド様はケイブル侯爵の長男で、私とスチュワート様の幼なじみなのですが、数年前からスチュワート様とロナルド様はあまり話をしなくなりました。理由はきっと、契約結婚だと思うのですが、昨日スチュワート様から聞いた既婚女性との不倫を知っていたからかもしれません。
ロナルド様はとても真面目で誠実な方で、そのような不実な事が大嫌いな方だから。
それに、ロナルド様は私の気持ちを知っている。
「私が泣いていないか、心配してきてくださったのですか?」
「いや……君が辛い時に、ここぞとばかりに優しくして、あわよくば俺を好きになってくれないかという下心で来た。」
「ふふっ。それを話してしまったら、上手くいかないと思いますよ?」
ロナルド様が私を元気付けようとしてくださっているのが、すごく伝わって来ます。
「俺とした事が!! 最初からやり直そう! マリアンヌ、おかえり。」
ロナルドは何もなかった顔をして、もう一度おかえりと言った。
「ふふっ。ただいま。」
実家に着くまでは、一人でいたいと思っていたけど、ロナルド様が来てくれていて本当によかったと思いました。彼のおかげで、辛い気持ちが少しだけ消えたような気がします。
127
お気に入りに追加
2,499
あなたにおすすめの小説
(完)婚約解消からの愛は永遠に
青空一夏
恋愛
エリザベスは、火事で頬に火傷をおった。その為に、王太子から婚約解消をされる。
両親からも疎まれ妹からも蔑まれたエリザベスだが・・・・・・
5話プラスおまけで完結予定。
【完結】『お姉様に似合うから譲るわ。』そう言う妹は、私に婚約者まで譲ってくれました。
まりぃべる
恋愛
妹は、私にいつもいろいろな物を譲ってくれる。
私に絶対似合うから、と言って。
…て、え?婚約者まで!?
いいのかしら。このままいくと私があの美丈夫と言われている方と結婚となってしまいますよ。
私がその方と結婚するとしたら、妹は無事に誰かと結婚出来るのかしら?
☆★
ごくごく普通の、お話です☆
まりぃべるの世界観ですので、理解して読んで頂けると幸いです。
☆★☆★
全21話です。
出来上がっておりますので、随時更新していきます。
(完)イケメン侯爵嫡男様は、妹と間違えて私に告白したらしいー婚約解消ですか?嬉しいです!
青空一夏
恋愛
私は学園でも女生徒に憧れられているアール・シュトン候爵嫡男様に告白されました。
図書館でいきなり『愛している』と言われた私ですが、妹と勘違いされたようです?
全5話。ゆるふわ。
王太子様には優秀な妹の方がお似合いですから、いつまでも私にこだわる必要なんてありませんよ?
木山楽斗
恋愛
公爵令嬢であるラルリアは、優秀な妹に比べて平凡な人間であった。
これといって秀でた点がない彼女は、いつも妹と比較されて、時には罵倒されていたのである。
しかしそんなラルリアはある時、王太子の婚約者に選ばれた。
それに誰よりも驚いたのは、彼女自身である。仮に公爵家と王家の婚約がなされるとしても、その対象となるのは妹だと思っていたからだ。
事実として、社交界ではその婚約は非難されていた。
妹の方を王家に嫁がせる方が有益であると、有力者達は考えていたのだ。
故にラルリアも、婚約者である王太子アドルヴに婚約を変更するように進言した。しかし彼は、頑なにラルリアとの婚約を望んでいた。どうやらこの婚約自体、彼が提案したものであるようなのだ。
【完結】22皇太子妃として必要ありませんね。なら、もう、、。
華蓮
恋愛
皇太子妃として、3ヶ月が経ったある日、皇太子の部屋に呼ばれて行くと隣には、女の人が、座っていた。
嫌な予感がした、、、、
皇太子妃の運命は、どうなるのでしょう?
指導係、教育係編Part1
形だけの妻ですので
hana
恋愛
結婚半年で夫のワルツは堂々と不倫をした。
相手は伯爵令嬢のアリアナ。
栗色の長い髪が印象的な、しかし狡猾そうな女性だった。
形だけの妻である私は黙認を強制されるが……
姉が私の婚約者と仲良くしていて、婚約者の方にまでお邪魔虫のようにされていましたが、全員が勘違いしていたようです
珠宮さくら
恋愛
オーガスタ・プレストンは、婚約者している子息が自分の姉とばかり仲良くしているのにイライラしていた。
だが、それはお互い様となっていて、婚約者も、姉も、それぞれがイライラしていたり、邪魔だと思っていた。
そこにとんでもない勘違いが起こっているとは思いもしなかった。
婚約破棄?私、貴方の婚約者ではありませんけれど
oro
恋愛
「アイリーン・ヒメネス!私は今この場で婚約を破棄する!」
王宮でのパーティにて、突然そう高らかに宣言したこの国の第1王子。
名前を呼ばれたアイリーンは、ニコリと微笑んで言った。
「あらあらそれは。おめでとうございます。」
※誤字、脱字があります。御容赦ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる