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27、楽しい? 旅行6
しおりを挟む「湖に行かない?」
お父様が今いる領地は、ここから馬車で四日ほどの場所だ。手紙が届いてからこちらに向かって出発したなら、到着するのは明日くらいになりそうだ。
お父様が到着したら、ゆっくりみんなと過ごす時間がなくなる。報告をすませた後は、王都に戻らなければならないからだ。
せっかくの旅行なのに、旅行らしいことを全くしていないと思った私は、みんなを湖に誘うことにした。
「いいですね! ピクニックしましょう!」
「殿下は、あまりはしゃがないようにしてくださいね」
「それなら、あの宿の料理を沢山持っていこう!」
殿下は子供みたいにはしゃぎ、ビンセント様は殿下の心配をしている。サマンサは美味しい食事があれば、満足らしい。
「せっかく田舎に旅行に来たんだから、自然に囲まれて過ごすのもいいかもな」
ブライトも乗り気になってくれた。
ブレダール子爵のことは、殿下の護衛が見張っていてくれる。私達は、宿でお弁当を作ってもらい、湖へと向かった。
「気持ちい~!!」
湖に着くと、マーク殿下は両手両足を伸ばして地面に横たわった。久しぶりに自然に囲まれて、気持ちよさそうに目を閉じている。その様子を、ビンセント様は微笑みながら見ていた。
「お腹が空いた。食事にしよう」
サマンサは宿でお弁当を注文していた時から、料理のことしか考えていなかった。
「まだ午前中だぞ。弁当はランチ用だ。魚でも釣って食べればいい」
宿で借りて来た釣り具を用意して、ブライトが釣りを始める。彼の隣に座り、私も見よう見まねで一緒に釣りをする。
「釣れたか?」
釣りを初めて直ぐに、サマンサは待てないようすでそう聞く。
「まだだ」
素っ気なく答えるブライト。
「釣れたか?」
またすぐにサマンサがそう聞いてくる。
「まだだ」
同じやり取りを十分ほど続けると、待っていられなくなったサマンサはお弁当を広げ始めた。
「サマンサ!?」
急いで止めようとしたけれど、結局サマンサを止めることが出来ずにそのままみんなでお弁当を食べ始めた。
「やっぱり美味い」
次々にお弁当を平らげて行くサマンサ。朝食を食べたばかりで、お腹は空いていない。サマンサが食べているところを見ながら、私達四人はお茶を飲んでいた。
お弁当を食べ終わったサマンサはそのまま横になって眠ってしまった。ブライトは釣りに戻り、マーク殿下はブライトの隣で網を構えている。
釣れる度に大喜びする殿下と、丁寧に釣りを教えてあげているブライトを見ていると、湖に来て良かったと思えた。
大変な旅行になったけど、案外楽しい旅行だったかも。
翌日、お父様が到着した。
全てを報告し、裏帳簿を渡した私達は、王都へと帰路に着いた。
ブレダール子爵は、あの後王都へと連行された。私には最後まで罪を認めなかった子爵が、お父様には全てを話したようだ。そして、関わっていた貴族達もいっせいに捕らえられた。
バーリー侯爵、ドレバン伯爵、フォード伯爵、クレメン子爵は、自分の領地でも同じことをしていた。領民から多額の税を取り、国に納める税はその四分の一ほど。自分達が私腹を肥やすために、領民を苦しめて来た。
お父様は、陛下に命じられてブレダール子爵と関係があった貴族達を前から調べていたようだ。ブレダール子爵を貴族達から紹介された時、陛下の命を受けて騙された振りをしていた。 ブレダール子爵に領地を任せることは、領民の負担を考えて一度は断ったのだが、他の領民のことを考えると、黙って見ていることが出来なくなったようだ。
基本的に、他の貴族が治める領地には口出しが出来ない。税が高くても、それは領主が決めることだ。だけど納められた税を誤魔化し、横領することは許されない。その証拠を掴む為には、自分の領地である必要があった。
ブレダール子爵が捕らえられたことで、全ての罪が明るみになり、五人は爵位を剥奪され、財産を没収された後、鉱山に送られて強制労働させられることになった。没収した財産は、搾取されて来た領民へと返され、足りない分を労働で返して行くということのようだ。
「お前のおかげで、不正を暴くことが出来た。ご苦労だったな」
「私のではなく、みんなのおかげです。それに、お父様が調べていたから、全ての罪を暴くことが出来たのです」
「エミリー、あの領地はお前に任せようと思う」
この時気付いた。お父様は、最初から私にあの領地を任せるつもりだったのだと。
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