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23、楽しい? 旅行2

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 王都を出てから十日後、予定通りホワソンに到着した。この街はのどかで自然が豊かで、昔からちっとも変わっていない。懐かしくなって、馬車から降りて街を見て回ることにした。

 正直、すぐに邸に行くのは気が重かった。今、この地を任せているのは、一年前に子爵になったばかりのブレダール子爵。お父様は、この地の他にも領地をいくつか持っている為、一箇所だけにとどまることは出来ない。どうしたって、誰かに領主の代わりを務めてもらわなければならない。
 他の領地を任せているのは、お父様が信頼している部下だけど、ブレダール子爵だけは違っていた。お父様の話では、ブレダール子爵は狡猾な人物らしい。領地を任せられる部下が不足していたお父様に、他の貴族からの強い推薦があり、ブレダール子爵に任せることになったようだ。

 私が来ることは、ブレダール子爵に伝えていない。領主としての務めを、実践で学べということのようだ。つまり、旅行という名の視察ということになる。

 「これ、高くありませんか?」

 街を見て回っていると、どの店も他の街より値段が高い。高級品なわけでもないのに、倍以上の値がついている。

 「すみませんねぇ……安くしたいとは思っているんですけど、これ以上値を下げるとうちもやっていけないんですよ」

 申し訳なさそうに謝るおばさん。

 「やっていけないほど、お客さんが少ないんですか?」

 のどかだけが売りの街にしては、観光客が多い。安くすれば、いくらでも売れそうな気がするけど……

 「領主様にはお世話になっているし、良くしていただいているからこんなことは言いたくないんだけど……最近、前の倍以上に税が上がってね。税の分を、商品の値段に上乗せするしかないんだよ」

 それはどういうことなのか……
 この領地の税は、お父様が領主になった時に下げたはず。それ以来、上げていない。
 ということは、この領地を任せているブレダール子爵が勝手に上げたということだ。しかも、その値上げした分を自分のものにしている。

 「ごめん、今日は宿に泊まりたい」

 話を聞いていたみんなは、事情を察してくれた。楽しい旅行のはずだったのに、こんなことになってしまうなんて……と思っていたら、

 「悪を退治するなんて、何だか楽しくなって来ましたね~」
 「民を苦しめるなんて、許せませんね!」
 「ブレダール子爵とやらは、後悔することになるな」
 「痛めつけるなら、私に任せろ」

 みんなは、やる気満々だ。
 みんなの旅行を台無しにしてしまうと思ったけど、そうでもないらしい。

 ブレダール子爵をこのままには出来ない。お父様に報告の手紙を書いた後、ブレダール子爵について調べることにした。

 部屋は二部屋取った。荷物を置いた後、宿の一階にある食堂で情報を集めることにした。
 食事を注文した後、店員さんに話を聞く。この宿の宿泊代も食事代も、ものすごく高い。私が働いていた王都の食堂の三倍はする。
 店員さんは申し訳なさそうに頭をペコペコと何度も下げながら、話をしてくれた。

 税が上がったのは、半年前からだそうだ。領主の代理になってからたった半年で、子爵は税を上げた。最初からそうするつもりだったのか、途中で欲が出たのかは分からない。貴族達に好かれているからと、許されることではない。
 今私は、お父様の代理でこの領地を視察している。全ての権限を、持っているということだ。

 「明日、邸に行こうと思う」
 
 みんなは、力強く頷いてくれた。
 こんなにも頼もしくて、こんなにも信頼出来る仲間。みんなとなら、なんでも出来そうな気がしてくるから不思議。

 ブレダール子爵、覚悟していてください。お父様の……いいえ、私達の民を苦しめたことを後悔させてあげます。

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