23 / 28
23、楽しい? 旅行2
しおりを挟む王都を出てから十日後、予定通りホワソンに到着した。この街はのどかで自然が豊かで、昔からちっとも変わっていない。懐かしくなって、馬車から降りて街を見て回ることにした。
正直、すぐに邸に行くのは気が重かった。今、この地を任せているのは、一年前に子爵になったばかりのブレダール子爵。お父様は、この地の他にも領地をいくつか持っている為、一箇所だけにとどまることは出来ない。どうしたって、誰かに領主の代わりを務めてもらわなければならない。
他の領地を任せているのは、お父様が信頼している部下だけど、ブレダール子爵だけは違っていた。お父様の話では、ブレダール子爵は狡猾な人物らしい。領地を任せられる部下が不足していたお父様に、他の貴族からの強い推薦があり、ブレダール子爵に任せることになったようだ。
私が来ることは、ブレダール子爵に伝えていない。領主としての務めを、実践で学べということのようだ。つまり、旅行という名の視察ということになる。
「これ、高くありませんか?」
街を見て回っていると、どの店も他の街より値段が高い。高級品なわけでもないのに、倍以上の値がついている。
「すみませんねぇ……安くしたいとは思っているんですけど、これ以上値を下げるとうちもやっていけないんですよ」
申し訳なさそうに謝るおばさん。
「やっていけないほど、お客さんが少ないんですか?」
のどかだけが売りの街にしては、観光客が多い。安くすれば、いくらでも売れそうな気がするけど……
「領主様にはお世話になっているし、良くしていただいているからこんなことは言いたくないんだけど……最近、前の倍以上に税が上がってね。税の分を、商品の値段に上乗せするしかないんだよ」
それはどういうことなのか……
この領地の税は、お父様が領主になった時に下げたはず。それ以来、上げていない。
ということは、この領地を任せているブレダール子爵が勝手に上げたということだ。しかも、その値上げした分を自分のものにしている。
「ごめん、今日は宿に泊まりたい」
話を聞いていたみんなは、事情を察してくれた。楽しい旅行のはずだったのに、こんなことになってしまうなんて……と思っていたら、
「悪を退治するなんて、何だか楽しくなって来ましたね~」
「民を苦しめるなんて、許せませんね!」
「ブレダール子爵とやらは、後悔することになるな」
「痛めつけるなら、私に任せろ」
みんなは、やる気満々だ。
みんなの旅行を台無しにしてしまうと思ったけど、そうでもないらしい。
ブレダール子爵をこのままには出来ない。お父様に報告の手紙を書いた後、ブレダール子爵について調べることにした。
部屋は二部屋取った。荷物を置いた後、宿の一階にある食堂で情報を集めることにした。
食事を注文した後、店員さんに話を聞く。この宿の宿泊代も食事代も、ものすごく高い。私が働いていた王都の食堂の三倍はする。
店員さんは申し訳なさそうに頭をペコペコと何度も下げながら、話をしてくれた。
税が上がったのは、半年前からだそうだ。領主の代理になってからたった半年で、子爵は税を上げた。最初からそうするつもりだったのか、途中で欲が出たのかは分からない。貴族達に好かれているからと、許されることではない。
今私は、お父様の代理でこの領地を視察している。全ての権限を、持っているということだ。
「明日、邸に行こうと思う」
みんなは、力強く頷いてくれた。
こんなにも頼もしくて、こんなにも信頼出来る仲間。みんなとなら、なんでも出来そうな気がしてくるから不思議。
ブレダール子爵、覚悟していてください。お父様の……いいえ、私達の民を苦しめたことを後悔させてあげます。
338
お気に入りに追加
5,540
あなたにおすすめの小説
私を棄てて選んだその妹ですが、継母の私生児なので持参金ないんです。今更ぐだぐだ言われても、私、他人なので。
百谷シカ
恋愛
「やったわ! 私がお姉様に勝てるなんて奇跡よ!!」
妹のパンジーに悪気はない。この子は継母の連れ子。父親が誰かはわからない。
でも、父はそれでいいと思っていた。
母は早くに病死してしまったし、今ここに愛があれば、パンジーの出自は問わないと。
同等の教育、平等の愛。私たちは、血は繋がらずとも、まあ悪くない姉妹だった。
この日までは。
「すまないね、ラモーナ。僕はパンジーを愛してしまったんだ」
婚約者ジェフリーに棄てられた。
父はパンジーの結婚を許した。但し、心を凍らせて。
「どういう事だい!? なぜ持参金が出ないんだよ!!」
「その子はお父様の実子ではないと、あなたも承知の上でしょう?」
「なんて無礼なんだ! 君たち親子は破滅だ!!」
2ヶ月後、私は王立図書館でひとりの男性と出会った。
王様より科学の研究を任された侯爵令息シオドリック・ダッシュウッド博士。
「ラモーナ・スコールズ。私の妻になってほしい」
運命の恋だった。
=================================
(他エブリスタ様に投稿・エブリスタ様にて佳作受賞作品)
【完結】無能に何か用ですか?
凛 伊緒
恋愛
「お前との婚約を破棄するッ!我が国の未来に、無能な王妃は不要だ!」
とある日のパーティーにて……
セイラン王国王太子ヴィアルス・ディア・セイランは、婚約者のレイシア・ユシェナート侯爵令嬢に向かってそう言い放った。
隣にはレイシアの妹ミフェラが、哀れみの目を向けている。
だがレイシアはヴィアルスには見えない角度にて笑みを浮かべていた。
ヴィアルスとミフェラの行動は、全てレイシアの思惑通りの行動に過ぎなかったのだ……
主人公レイシアが、自身を貶めてきた人々にざまぁする物語──
妹だけを可愛がるなら私はいらないでしょう。だから消えます……。何でもねだる妹と溺愛する両親に私は見切りをつける。
しげむろ ゆうき
ファンタジー
誕生日に買ってもらったドレスを欲しがる妹
そんな妹を溺愛する両親は、笑顔であげなさいと言ってくる
もう限界がきた私はあることを決心するのだった
【完結】婚約者の義妹と恋に落ちたので婚約破棄した処、「妃教育の修了」を条件に結婚が許されたが結果が芳しくない。何故だ?同じ高位貴族だろう?
つくも茄子
恋愛
国王唯一の王子エドワード。
彼は婚約者の公爵令嬢であるキャサリンを公の場所で婚約破棄を宣言した。
次の婚約者は恋人であるアリス。
アリスはキャサリンの義妹。
愛するアリスと結婚するには「妃教育を修了させること」だった。
同じ高位貴族。
少し頑張ればアリスは直ぐに妃教育を終了させると踏んでいたが散々な結果で終わる。
八番目の教育係も辞めていく。
王妃腹でないエドワードは立太子が遠のく事に困ってしまう。
だが、エドワードは知らなかった事がある。
彼が事実を知るのは何時になるのか……それは誰も知らない。
他サイトにも公開中。
断罪された公爵令嬢に手を差し伸べたのは、私の婚約者でした
カレイ
恋愛
子爵令嬢に陥れられ第二王子から婚約破棄を告げられたアンジェリカ公爵令嬢。第二王子が断罪しようとするも、証拠を突きつけて見事彼女の冤罪を晴らす男が現れた。男は公爵令嬢に跪き……
「この機会絶対に逃しません。ずっと前から貴方をお慕いしていましたんです。私と婚約して下さい!」
ええっ!あなた私の婚約者ですよね!?
【完結】私は死んだ。だからわたしは笑うことにした。
彩華(あやはな)
恋愛
最後に見たのは恋人の手をとる婚約者の姿。私はそれを見ながら階段から落ちた。
目を覚ましたわたしは変わった。見舞いにも来ない両親にー。婚約者にもー。わたしは私の為に彼らをやり込める。わたしは・・・私の為に、笑う。
アリシアの恋は終わったのです【完結】
ことりちゃん
恋愛
昼休みの廊下で、アリシアはずっとずっと大好きだったマークから、いきなり頬を引っ叩かれた。
その瞬間、アリシアの恋は終わりを迎えた。
そこから長年の虚しい片想いに別れを告げ、新しい道へと歩き出すアリシア。
反対に、後になってアリシアの想いに触れ、遅すぎる行動に出るマーク。
案外吹っ切れて楽しく過ごす女子と、どうしようもなく後悔する残念な男子のお話です。
ーーーーー
12話で完結します。
よろしくお願いします(´∀`)
【完結】幼馴染と恋人は別だと言われました
迦陵 れん
恋愛
「幼馴染みは良いぞ。あんなに便利で使いやすいものはない」
大好きだった幼馴染の彼が、友人にそう言っているのを聞いてしまった。
毎日一緒に通学して、お弁当も欠かさず作ってあげていたのに。
幼馴染と恋人は別なのだとも言っていた。
そして、ある日突然、私は全てを奪われた。
幼馴染としての役割まで奪われたら、私はどうしたらいいの?
サクッと終わる短編を目指しました。
内容的に薄い部分があるかもしれませんが、短く纏めることを重視したので、物足りなかったらすみませんm(_ _)m
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる