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18、残念ですが
しおりを挟むモード侯爵は、そのままその場に崩れ落ちた。
「父上!? どうされたのですか!?」
壇上からおりて駆け寄ったジョゼフ様の声に、反応する気力さえなかった。
モード侯爵は気の毒だと思うけれど、ジョゼフ様が選んだことだ。こうして公式に発表していなかったら、モード侯爵は諦めなかったかもしれない。
「そろそろ、満足したかな?」
伯父様が壇上にあがり、バーバラに笑顔でそう聞いた。
「学園長!? そうですね、エミリーの本性を皆さんに分かっていただけて満足です」
バーバラは、特にモード侯爵を心配する素振りも見せず、満足気に微笑んだ。仮にも義理の父親になるはずの相手なのに、気にもとめないバーバラを見た貴族達が、ヒソヒソと噂し始めた。
「本当にバーバラ嬢が、ワイヤット侯爵家を継ぐのか? 常識がまるでないように思えるが……」
「常識ばかりか、思いやりもないようだ」
「シーっ! ワイヤット侯爵家を敵に回したら、タダではすみませんぞ!」
少なくとも生徒達とは違い、貴族達にはバーバラは受け入れられないようだ。
「そうか、満足か……。エミリー、壇上にあがりなさい」
伯父様は笑顔を崩さないまま、私の名前を呼んだ。私は言われた通り、壇上に向かって歩き出す。
「え!? あの……学園長? どうしてエミリーを?」
戸惑っているバーバラを尻目に、壇上にあがり、バーバラの隣に立つ。
「皆様、義姉のバーバラが、お騒がせして申し訳ありません。このような自体になったのも、ビクトリアとバーバラに貴族としての教育を受けさせて来なかった私達の責任です」
会場に居る方々に向けて、深々と頭を下げる。
同時に、父も頭を下げる。
「な、にを、言っているの!? 私達を、侮辱するつもり!?」
「旦那様? どうして、旦那様まで頭をお下げになっているのですか!?」
バーバラは私に怒り、ビクトリアは父の姿を見て動揺している。
「黙ってエミリーの話を聞け!」
いつもの明るい雰囲気からは想像もつかないほどの地を這うような低い声で、父はビクトリアにそう言った。今にも爆発しそうな怒りを、必死に抑えているのだと分かる。
父のあまりの変わりように、ビクトリアは何も言えなくなったまま立ちすくんでいる。
「ほとんどの方がご存知ないことなので、最初からお話させていただきます。私の母は、十三年前に亡くなりました。忙しい父は、私の為を思い、十年前に平民として暮らしていたビクトリアと再婚したのです。バーバラはビクトリアの連れ子で、ワイヤット侯爵家の血を引いてはいません」
会場にいる貴族達は、バーバラがワイヤット侯爵家を継ぐことはないと知り、安堵の表情を浮かべている。逆に、生徒達は動揺し始めた。
「嘘……だろ……?」
モード侯爵を支えていたジョゼフ様も、絶望しながらその場に崩れ落ちた。やっと自分がしてしまったことに気付いたようだ。
「残念ですが、お義姉様はワイヤット侯爵家を継ぐことは出来ません」
「な……にを言っているの!? ジョゼフ様と結婚すれば、爵位を継げるはずよ! ジョゼフ様も侯爵家だし、私がワイヤット侯爵家を継ぐのは当然じゃない!! そうよね? ジョアンナ!?」
バーバラは、納得していなかった。
そもそも、自分が陥れて恋人を奪った相手を、なぜ信じているのかが分からない。バーバラはおだてると機嫌が良くなるから、褒めまくって信じさせたのだろうか。だとすると、やり方は間違っていたけど、大嫌いな相手に媚びを売りまくったジョアンナを素直に尊敬する。
「そんな話を信じるなんて、さすが平民ね。平民のくせに、私の恋人を奪って捨てた罰よ! いい気味! エミリー様、バーバラは侯爵家を乗っ取るつもりだったのですよ!? 罪人に重い罰を与えなければなりません!」
ここぞとばかりに、今まで言えずにいた悪口を言いまくるジョアンナ。バーバラに重い罰をというのなら、それを誘導したジョアンナにも重い罰がかせられるとは考えないのか。
「騙したのね!?
エミリー! 私が悪かったわ! 私はあなたを本当の妹のように思っていたのよ! 全部、ジョアンナにそそのかされてやったことなの! また、仲良く一緒に暮らしましょう?」
変わり身の早さに少し驚いたけれど、全てをなかったことにすることは出来ない。私はもう、この母娘を家族だとは思っていないのだから。
「この十年間、仲良く暮らしたことなど一瞬たりともなかったではありませんか。義母には暴力をふるわれ、義姉には毎日使用人のように働かされて来ました。さらに婚約者を奪い、使用人を追い出すと脅して私を邸から追い出しました。私はずっと、二人と家族になりたいと思っていたのに……その気持ちを、なくさせたのはあなた達です」
バーバラもその場に崩れ落ちたところで、伯父様の声が響き渡る。
「お聞きになった通り、エミリーがバーバラをいじめていたというのは、バーバラの嘘だとお分かりいただけましたか? それでは、私の可愛い可愛い姪であるエミリーの悪口を言っていた生徒は挙手しなさい」
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