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17、創立記念パーティー

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 今日で、こことはお別れになる。仕込みの時間よりも早めに起きて、部屋の掃除をすませた後、四週間過ごしたこの部屋にお別れを言う。

 私が辞めた後のことを考え、ジャスティンに頼んで、明日からここで働いてくれる人を探してもらった。ちょうど仕事を探していた女性が居て、住み込みで働きたいと言っているようだ。
 おじさんもおばさんもとても喜んでくれて、お店のことは心配いらなそうだ。
 
 義母とバーバラには、ドレスと宝石を贈ったけれど、ちゃんと今日のパーティーに出席してくれるだろうか……。店で私が選んだ物を、後日ジャスティンが支払いをして二人に届けてもらった。 二人には必ず出席してもらいたいからと贈ったけれど、怪しまれていたらどうしよう……。

 仕込みを終えて、最後の朝食をいただく。父の分まで用意してくれて、最後まで優しいご夫婦だった。

 「おじさん、おばさん、本当にお世話になりました。こちらで働くことが出来て、幸せでした」

 食事代と宿代を払った残りのお給料で買った二枚のハンカチに、花の刺繍をして二人に贈ると、ハンカチを抱きしめて『大切にする』と言ってくれた。

 邸からジャスティンにドレスを持って来てもらい、それに着替える。淡い水色の、可愛らしいドレスで母の形見だ。

 「良く似合う」

 父は少し切ない表情を見せたが、すぐに笑顔に変わった。今でも、母を愛しているのだと伝わる。

 「お父様、行きましょう」

 馬車に乗り込み、創立記念パーティーへと出発する。学園には、すぐに到着した。
 すでに、たくさんの貴族が来ていた。いつもは制服を着ている生徒達も、豪華なドレスに身を包み、綺麗に着飾っている。
 
 「エミリー! すごく綺麗だ! 綺麗過ぎて、誰にも見せたくない」

 馬車から降りるとすぐに、ブライトが私を見つけてくれた。私のドレス姿を、頬を染めながらじーっと見ている。

 「そんなに見つめないで……」

 制服の時とは違う、ブライトの姿にドキドキする。

 「父親の前で、イチャつくのはやめてもらえないか?」

 少し寂しそうにそう言った父は、私達から離れて伯父様を探しに行った。
 一緒に過ごした時間が少ないからか、父からしたら急に大人になってしまったのかもしれない。父には、いつまでも私は子供のままなのだろう。

 「まさか、エミリーが出席するなんて思わなかったわ。そのドレスは、どうなさったのかしら?」
 
 テレサが私達を遠くから見ていたのは、気付いていた。父が離れるまで、話しかけるのは待っていたようだ。

 「このドレスは、お母様の形見なの。急いでいるから、失礼するわ」

 「形見? 形見って何よ? 母親は生きているじゃない!」

 質問に答えることなく、テレサの元から離れる。
 テレサは何が何だか分からないまま、ポカーンと口を開けてその場に立っていた。

 「皆様、この場を借りて、お知らせしたいことがあります!」

 皆が楽しそうに談笑する中、バーバラが勝手に壇上にあがって話し始めた。その隣には、義母とジョゼフ様の姿がある。そして、私が婚約破棄された日にジョゼフ様が言っていた言葉を、バーバラが口にした。

 「私は、ずっとエミリーにいじめにあっていました。そんな私を、エミリーの婚約者だったジョゼフ様が救ってくれたのです。私、バーバラ・ワイヤットは、ジョゼフ・モード様と婚約いたしました!」

 いじめをしていたのはバーバラの方だったとジョゼフ様がバラしたのに、生徒達の誰もがそのことに触れようとはしない。平民になる私より、侯爵になるバーバラに味方した方がいいと考えたのだろう。
 公式な場での婚約宣言。バーバラの隣で笑顔を見せる義母。それを見ていたモード侯爵が、怒りの声をあげた。

 「ジョゼフ! これは、どういうことだ!!?」

 真っ赤な顔で怒り出したモード侯爵の顔が、みるみるうちに青ざめて行く。必死に頼んで手に入れた侯爵家の婿入りを、自分から捨ててしまったのだから無理もない。

 「父上、勝手にエミリーとの婚約を破棄したことは申し訳ないと思っています。ですが、バーバラが侯爵になるのだから、問題はないでしょう?」

 「お前……なんてバカなことを……」

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