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16、父との再会
しおりを挟むそろそろ、父が邸に戻ったころだろうか。
そんなことを考えながら、着替えをして店に出ると……
「……お父様!?」
ブライトとマーク殿下と一緒に、なぜか父が食事をしていた。
「久しぶりだな、エミリー。少し見ない間に、ずいぶん綺麗になったな。 さすが私の娘だ!」
久しぶりに会った父は、相変わらずだった。
「なぜお父様がここに居るのですか?」
イスから立ち上がり両手を広げながら、私が腕の中に飛び込むのを待っている父を無視して質問する。腕の中に飛び込んで来ないことを残念がりながら、おどけていた父が急に真面目な顔になった。
「街の入口でサラサという女性が待っていて、話は全て聞いた。お前が門番に渡した手紙も受け取って読んだ。私があのような妻を迎えたことで、お前をツラい目に合わせてしまい、本当にすまなかった……」
ジャスティンがサラサに頼み、今までのことを全て話したようだ。その話を聞いた父は、邸には戻らずに直接ここへやって来た。
深々と頭を下げ、謝ってくれる父。ビクトリアを選んだのは父だけど、助けを求めなかったのは私自身だ。家族が欲しかったという気持ちと、忙しい父を煩わせたくなかったという気持ちが今の状況を生み出してしまった。
仕事中ということもあり、話はお店が落ち着いてからすることになった。その間、三人はずっと私の働いているところを見ていた。
……働きづらい。
「それで、どうして三人で仲良く食事をしていたのですか?」
お店が落ち着き、おばさんに許可をもらい、父達と一緒のテーブルに座る。
「ああ、この二人が、お前との婚約を許して欲しいと言ってきてな。さすが私の娘だな。モテモテではないか!」
こ、こ、こ、こ、婚約!?
そんな話になっていたなんて知らなかった私は、驚きながら固まった。私が居ないところで、何の話をしているの!?
「エミリーと婚約するのは、俺です!」
「僕はお姉さんが大好きです!」
父の前でハッキリ言われて、全身が赤くなっていくのが分かる。恥ずかし過ぎて、顔から火が出そう……
「エミリーは、どっちを選ぶんだ?」
どっちって……
私の心は決まっている。
だけど、この状況で婚約者を決めることになるとは思っていなかった。
「……ブライト」
そう答えた瞬間、マーク殿下が捨てられた子犬のような顔になり、ブライトはとろけそうなほどの笑顔になっていた。
気を使ってくれたのか、ブライトとマーク殿下は先に帰り、父と二人きりになった。
「ビクトリアとバーバラが、お前に何をしたのかはサラサさんと先程の二人から聞いた。邸に戻って二人を今すぐにでも追い出したい気持ちではあるが、お前の手紙を読んで明日まで待つことにした。ということで、今日は私もここに泊まる!」
「ここに泊まるなんて、冗談ですよね?」
「本気に決まっているではないか! 一緒に寝るか?」
結局、父は私の隣の部屋に泊まることになった。その日は、父とたくさんの話をした。一緒に寝ようと私の部屋を訪れた父を追い出すと、執事に連れられて大人しく部屋に戻って行った。
そして、創立記念パーティーの日が訪れた。
ワイヤット侯爵邸では、ビクトリアとバーバラがまたケンカをしていた。
「どうして、お義父様は帰って来ないの!? 帰るのは、昨日だとお母様が言っていたじゃない!!」
「知らないわよ! 確かに昨日、帰って来ると手紙に書いてあったのに、旦那様は何をしているのよ!!」
ワイヤット侯爵は、ビクトリア達に何の知らせも送っていなかった。
「今日は創立記念パーティーなのよ!? たくさんの貴族達が招待されているのに、ドレスも宝石もないなんてどうしたらいいのよ!?」
ワイヤット侯爵家の財産を使うことが出来ない為、ドレスや宝石を使用することも出来ない。ジョゼフとの婚約を、全ての貴族の前で発表するつもりだったバーバラは苛立っていた。
そこに、ジャスティンが箱を抱えて現れた。
「奥様、バーバラ様、こちらが届いておりました」
箱の中身は、二人分のドレスと宝石だった。
「まあ、素敵! サイズもピッタリだし、センスもいいわ! これは、どなたからの贈り物なの?」
豪華な贈り物に、二人の目が輝いている。
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「旦那様からです」
ジャスティンは気を利かせた。
「旦那様ったら、こんなサプライズを用意してくださっていたなんて! 昨日帰らなかったのも、創立記念パーティーでお会いしたかったからなのかもしれないわね!」
「そんなことどうでもいいわ! 遅れてしまうから、早く支度しましょう!」
エミリーがドレスを贈った理由は、パーティーに二人が出られるようにする為だった。このパーティーには、二人共必ず出席してもらわなければならない。
数時間後、二人の笑顔が消えることになる。
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