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15、お金が無い
しおりを挟む邸を出た翌日、執事代理のジャスティンから手紙が届いていた。届けてくれた女性はサラサという名で、ジャスティンの知り合いだった。
サラサのおかげで、ジャスティンと連絡を取れるようになっていた。
ジャスティンとのやり取りは、主に義母とバーバラが使える財産のことだった。父は自分がいない間の財産管理を、私に任せていた。義母は、ジャスティンが任されているのだと思っている。今までは、父との契約通り義母が自由に使えるお金を渡していたのだけれど、あの日私が邸を出たことで、誰もワイヤット侯爵家のお金を使うことが出来なくなった。
つまり、義母とバーバラは邸に住んではいても、お金は全く無いということだ。
***
ーワイヤット侯爵邸ー
リビングでケンカする、ビクトリアとバーバラの姿があった。
「昼食代くらい何とかしてよ! ジョゼフ様に出してもらうのも限界だわ!」
バーバラは三週間の間、ジョゼフに昼食代を借りていた。
「旦那様が帰って来るまでの辛抱なのだから、我慢しなさい! あと三日……あと三日で帰って来るのだから!」
自由に出来るお金がないだけでなく、ワインセラーに鍵をかけられ、大好きなワインを飲むことも出来ずにビクトリアは苛立っていた。
「我慢なんて無理! お母様がエミリーを追い出したりするから、こうなったんじゃない! 私がジョゼフ様と結婚するまで待てば良かったのに!」
「私のせいにするの!? 同じ学園に通っているのだから、あなたがエミリーを連れ戻せばいいわ!」
「エミリーに頭を下げろって言いたいの!? 冗談じゃないわ!」
邸を追い出され、お金もなく、昼食は弁当持参のエミリーが毎日楽しそうにしていることが、バーバラには許せなかった。
ジョゼフが、『いじめていたのはバーバラの方だった』と言って謝罪したことで、エミリーを悪く言う者が居なくなっただけでなく、自分が悪口を言われるようになっていた。ジョゼフはエミリーを見る度に、顔を赤く染めるようになり、自分が惨めに思えた。
それでも、ジョゼフと結婚さえすればワイヤット侯爵家が手に入るのだと信じ、三週間耐え続けていた。
「それなら我慢しなさい。私だってエミリーに腹を立てているのよ。やっと追い出したのに、財産管理はエミリーがしていたなんて知るわけないじゃない!」
「ねえお母様、お金は邸にあるのよね? それなら、つかってしまいましょうよ!」
「それはダメよ! そんなことをしたら、私達が悪者になるじゃない。いくらエミリーが旦那様に愛されていなくても、いいわけくらいは用意しないと」
ビクトリアは、エミリーが父親に愛されていないと思っていた。娘を愛していないから、仕事に逃げているのだと思っている。エミリーが父親に愛されていないから、邸に帰って来ることもない。だから自分も共に過ごす時間がなく、愛されないのだと考えていた。
結婚する時の契約は、『娘の家族になること』だった。その契約内容が、ビクトリアを勘違いさせていたのかもしれない。
***
父が帰ってくる日が、二日後に迫っていた。
学園では、創立記念パーティーの準備が進められている。
父が帰って来た時、私は邸にいない。義母やバーバラは、自分達の都合のいいように話を作るだろう。お父様が、それを信じるはずがないのは分かっている。私が居ないことに激怒するはずだ。ただ、その場では二人の全ての罪を明らかにすることは出来ない。
だから私は、父に手紙を書いた。手紙を門番に渡し、父が帰って来たら渡して欲しいと頼んだ。
手紙の内容は、
『お父様、お帰りなさい。
きっと、私が居ないことに驚くことでしょう。義母がどんないいわけをするのかは分かりませんが、真実は明日、学園の創立記念パーティーで明らかになります。お父様にお会い出来るのを、心よりお待ちしています』
という内容だ。
全ては、創立記念パーティーで決着をつけようと思う。
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