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14、賑やかな店

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 「ジョゼフ様は、ご自分で物事を考えることが出来ないのですか? 最初はバーバラの言ったことを信じ、今度はバーバラがいじめをしていたと聞いて謝罪。五年間婚約していたのに、あなたは私自身を全く見ていなかったということです。私はもう、ジョゼフ様と関わりたくありません。二度と話しかけて来ないでください」

 ジョゼフ様を追いかけて来たのか、彼の後ろには鋭い目で私を睨み付けているバーバラが立っていた。

 「ジョゼフ様、何をなさっているのですか?」

 怒りを滲ませた声でそう言いながら、ジョゼフ様の隣に立つ。

 「バーバラ……俺は何も……」

 「エミリーはもう、ワイヤット侯爵家の人間ではありません。教室に戻りますよ」

 いつの間にか、ジョゼフ様とバーバラの立場が逆転している。私が邸を出たことで、全てを手に入れたと思い、演技をする必要はなくなったのだろう。ジョアンナは、また空回りをしたようだ。
 
 ジョゼフ様は、素直にバーバラの後を付いて行った。
 ようやく静かになったと思ったら、今度は伯父様の侍女がやって来た。

 「学園長がお呼びです」

 私が追い出されたことを聞いたのだろう。伯父様とは、キチンと話さなければならないと思っていたから、ちょうどいい。

 学園長室に入ると、

 「エミリー! 心配したぞ!!」

 そう言われ、力いっぱい抱きしめられた。

 「伯父様……苦しいです……」

 会う度に同じやり取りをしている気がする……

 「ああ、すまない。座りなさい」

 言われた通りソファーに腰を下ろすと、侍女がお茶を運んで来た。

 「次の授業は、出なくていい。ゆっくり話をしよう」

 少し怒っているようだ。邸を出た時に、伯父様を頼らなかったからだろう。
 出されたお茶を一口飲み、私は口を開いた。

 「伯父様にご心配をおかけしたことは、申し訳ないと思っています」

 「そんなことはどうでもいい! 心配くらいいくらでもしてやる。お前はなぜ、私を頼らなかったんだ!? 」

 私が頼らなかったことが、寂しかったようだ。

 「最初は伯父様に頼ろうと思い、学園へと歩き出したのですが、これは私が越えるべき壁だと思い、考え直しました。今伯父様に頼ってしまったら、この先また何かあった時も誰かに頼って生きて行くような気がしたのです。私はワイヤット侯爵家を継ぐのだから、一人で乗り越えないとダメだと思いました。街で働くのは、悪いことではありません。父のように、平民に寄り添える領主になりたいと思っているので」

 伯父様は、諦めたように笑った。

 「お前は本当に母親にそっくりだな。気持ちは分かった。好きにしなさい。だが、困った時はいつでも頼ると約束してくれ」

 「伯父様、ありがとうございます! 」

 話が終わって教室に戻った時には、午後の授業が終わっていた。ブライトは、学園長が伯父だということを知っているけど、他の生徒達は学園長に叱られたのではないかと心配そうな顔で私を見ていた。
 話しかけては来ないけれど、少しずつみんなの態度が変わって来ている。

 帰りは、ブライトにお店まで送ってもらうことになった。近いから一人で帰れると言ったら、『少しは頼れ!』と怒られてしまった。

 「送ってくれて、ありがとう」

 「着くの早すぎる……」

 歩いて十五分の距離は、馬車だと五分弱だった。
 不服そうに唇を尖らせるブライトの頬を、人差し指でツンツンしてみた。

 「もう少し一緒にいたいけど我慢する。心はいつもブライトのそばに居るから」

 「……可愛過ぎて困る」

 真っ赤になるブライトの方こそ、可愛くて困る。

 
 お店に帰ると、おじさんとおばさんが笑顔で『おかえり!』と言ってくれた。 
 二階で着替えてからお店に出ると、なぜかブライトとマーク殿下、そしてビンセント様が来て居た。

 「この料理美味しいですね! おかわりお願いします! 綺麗なお姉さんと知り合いになれたし、毎日通ってしまいそうです」
 
 「あら、口が上手いわね! これ、サービス!」

 おばさんはブライトに褒められて、まんざらでもない顔をしている。

 「優しいお姉さん、ありがとうございます!」

 「まあ、可愛らしい! これもサービスしちゃうわ!」

 マーク殿下も、キラキラスマイルでおばさんを虜にしている。三人のやり取り見ていた他のお客さんは、楽しそうに笑っていた。

 「何しに来たの? マーク殿下まで、何をなさっているのですか?」

 注文された料理を、三人が座るテーブルに置く。

 「エミリーに接客してもらえるなんて貴重な体験が出来るのだから、店に入らないなんて選択肢はなかった」
  「僕もお姉さんの接客を楽しみにしていたんです。フルーツジュースをお願いします!」 

 私が働いている姿を見ても、何が楽しいのか分からない。それでも、私の為に来てくれた二人には感謝している。

 あれから三週間、二人は毎日食事をしに来ていた。 

 「愛されてるねぇ」

 おばさんは毎日からかってくる。だけど、それも楽しい日常になっていた。

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