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13、謝罪?
しおりを挟む朝五時に起きて、仕込みの手伝いをする。
「よく眠れたかい?」
「はい。グッスリです!」
おばさんと話しながら、じゃがいもの皮むきをする。
「あんた、お嬢様なんだろ? ずいぶん手際がいいね。あたしより上手いじゃないか!」
おばさんがじゃがいもの皮を一つ剥く間、私は二つのじゃがいもの皮を剥いていた。
「家事が好きなんです。亡くなったお母様も料理が好きで、幼い頃よく作ってくれました」
容姿はお父様似だけど、性格はお母様に似ているとよく言われていた。お母様が作ってくれた料理の味は、今も覚えている。
「良いお母さんだったんだろうね。あんたを見ていれば分かる」
お母様を褒められたことが嬉しくて、自然と笑顔になる。
「お嬢ちゃん、スープを作るのを手伝ってくれ」
このお店は、おじさんとおばさんの二人で営業していた。おばさんは下ごしらえと接客。おじさんは料理を担当している。
仕込みが終わると、学園に登校する準備をしに二階へ上がる。制服を来て一階に降りると、おじさんが朝食を作ってくれていた。
「しっかり食べて、勉強頑張りな!」
「うちの旦那の料理は美味しいから、残さず食べておくれ」
見ず知らずの私に、こんなに良くしてくれるおじさんとおばさん。お弁当にと、チキンサンドまで作ってくれていた。
「どうして初めて会った私に、こんなに良くしてくださるのですか? 泊めてもらって、食事まで出していただけるなんて、申し訳ないです」
「給料から引いてるから、気にすることはないよ。夕方は混むから、早めに帰って来ておくれ」
おばさんはバンバンと私の背中を叩いた。気合いを入れてもらえたような気がする。ここで働けて、本当に良かった。
お店から学園までは、歩いて十五分ほどだ。
みんなが馬車で登校する中、徒歩で学園に登校した私は注目の的だった。
「エミリー!?」
「お姉さん!?」
なぜかブライトとマーク殿下が、校門の前に立っていた。二人は私に気付くと、ものすごい勢いで駆け寄ってきた。
「二人一緒だなんて、珍しい……」
「エミリーがいきなり休んだりするからだろ!?」
「どれほど心配したと思っているのですか!?」
二人同時に話すから、よく聞き取れない……
きっと、私が昨日休んだことを言いたいのだろう。
「バーバラは、何も言っていないのですか?」
二人は顔を見合せ、ブライトが話をしてくれた。
昨日、バーバラはジョゼフ様と一緒に登校した後、校門の前で泣き出したそうだ。
バーバラの話によると、私がバーバラをいじめていたことをビクトリアが知り、私を追い出したというストーリーらしい。ビクトリアが私の義母だと知らないのなら、その話を信じるだろう。
「それで? 昨日はどこに泊まったんだ?」
少し怒ったような口調で、問いただしてくるブライト。
「僕は怒っています! どうして僕を頼ってくれないのですか!?」
怒っているのだと口に出し、頬を膨らませているマーク殿下。
二人に心配をかけてしまったことは、反省している。
昼休み、二人とビンセント様に全てを話した。
それでもなぜ耐えるのかと聞かれ、私はこう答えた。
「義母とバーバラの幸せな時間は、もうすぐ終わりを告げます。私はずっと、二人と家族になりたいと思ってきました。ですが、二人は違った。使用人を解雇すると言った義母を、許すつもりはありません。義母は、私の地雷を踏んでしまったのです。二人のこれからについては、父にお任せしますが、私は私で二人を懲らしめようと思います」
ブライトもマーク殿下も、私の話を真剣に聞いてくれていた。
何だか不思議だった。ジョゼフ様に婚約破棄された時は、友達はみんな去り、親友に裏切られ、信頼出来る人なんて出来ないと思っていた。
だけど今の私には、信頼出来る彼と、信頼出来る妹……じゃなくて弟がいる。それに、邸のみんなとおじさんおばさん、そして伯父様がいる。
「エミリーは強いな。俺の出る幕がなさ過ぎて困る。カッコ良くエミリーを救って、あつーいキスをしてもらう予定だったのにな~」
いつものブライト。本当は、ものすごく心配してくれているのだと分かる。手も声も、震えているから。
「僕はいつでも、お姉さんの味方ですからね! 今度お姉さんになんかしたら、抹殺してやる!」
可愛い顔で、なんて恐ろしいことを……
二人に元気をもらったから、いくらでも頑張れる。
食堂でおじさんが作ってくれたチキンサンドをいただいて、教室に戻った。
「邸を追い出されたんですって? お父様が昨日、街であなたを見かけたの。みすぼらしいボロ服を着て仕事を探していたそうじゃない。この学園は、あなたのような平民が来るところではないわ! 出て行きなさい!」
婚約破棄をされた時に私の悪口を言っていた他の生徒達は、気の毒に思っているのか何も言ってきたりはしなかったけれど、午後から登校して来たテレサは、やっぱりテレサだった。
「最近、早退をしたり遅刻をしたりが多いけれど、単位は大丈夫?」
嫌いなら関わらなければいいのに、いちいち文句を言わないと気がすまないのだろうか。
「大丈夫……って、話をすり替えないでよ! 」
私を席に座らせないように、両手を広げて通さないようにしている。
「この学園は、一般教育を学ぶ為の学園なのだから平民が通っていても問題はないはずよ」
実際、平民の生徒も居る。
学園の授業料は、平民にも通えるようにと安く設定されている。貴族のように家庭教師を雇えない平民の為に、初等部や中等部まである。食堂は伯父様が拘っているから高いけれど、今日の私のようにお弁当を持参すればいい。
この学園は、身分など関係なく通えるようにと前国王様が建てた学園だ。バーバラやテレサのように平民だからとバカにする生徒が多いからか、平民の生徒は貴族と知り合いになりたい商人の子くらいしかいない。
「その通りだ。俺のエミリーを侮辱するのはやめろ」
「お……れの……エミリー???」
真剣な顔で『俺のエミリー』と言ったブライトを、この世の終わりのような顔で見つめるテレサ。まだブライトを諦めていないようだ。
「聞き間違いよ! そう、そうに違いないわ! 体調が良くないのね。早退します!」
動揺し過ぎて、荷物も持たずに帰って行った。
「アイツ……何しに来たんだ?」
遅刻して来たばかりなのに、授業も受けずに帰って行った。本当に、何しに来たのだろう。
テレサが帰った後すぐに、ジョゼフ様が教室にやって来た。
「エミリー……」
なぜか悲しそうな顔をしながら、私の名を口にする。バーバラとケンカでもしたのかと思っていたら、彼は勢いよく頭を下げた。
「すまなかった!!」
「どうしたのですか?」
いつも私を見下すような目で見ていたジョゼフ様が、頭を下げるなんて思わなかった。
「全て聞いた! いじめをしていたのは、バーバラの方だったのだと……。それでバーバラに邸を追い出されたのだろう? 俺はバーバラの容姿と演技に騙されていただけだ! 俺は悪くないのだから、許してくれるよな? バーバラに頼んで、お前も邸に住めるようにしてやるから安心しろ!」
これは謝罪なの?
自分は悪くないという人を、許せるとでも思っているのか……。余計嫌いになった。
話したのは、ジョアンナだろう。なぜだか、バーバラがワイヤット侯爵家を継げないことは話していないようだけど。
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