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12、邸を出ます

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 父に雇われている使用人を、義母が勝手に解雇することは出来ない。だとしても、義母は使用人を全員追い出してしまうだろう。私一人が邸を出ればすむのなら、そうしようと思う。

 「……分かりました。ですから、使用人には何もしないでください」

 席を立ち、荷物を取りに部屋へ戻ろうとすると、

 「まさか、この邸の物を持って行く気ではないわよね?」

 義母に止められた。このまま、何も持たずに出て行けということのようだ。
 私はそのまま、邸を出ることにした。

 「エミリー様! 私達を連れて行ってください!」

 玄関に、使用人達がズラっと並んでいた。

 「セリヌ、あなたにはバーバラを見張っていてもらわないと。お願い出来る?」

 「……はい。承知いたしました」

 セリヌは、私の侍女だった。バーバラが欲しがり、義母がセリヌをバーバラの侍女にした。セリヌには一番辛い思いをさせていて、申し訳ないと思っている。それでも、連れて行くことは出来ない。

 「ジャスティン、あなたは執事代理でしょう? 邸とみんなを頼むわ」

 「承知……いたしました」

 ジャスティンは、お父様に同行している執事のベンの代わりに代理として使用人達を取り仕切ってくれている。

 「お嬢様お一人では危険です! 私をお供させてください!」

 「ラルク、気持ちはありがたいのだけれど、お義母様のことだから、一人でも連れて行ってしまったら、約束を破ったと言われてみんなを追い出すかもしれない。だから、ここに残って」

 私はみんなを守る為なら、何だって出来る。お母様が亡くなってから、ずっと私の家族で居てくれたみんなだから。

 みんなにお別れを告げて邸から出ると、ジョゼフ様がバーバラを迎えに来たところだった。
 
 「エミリー? どこへ行くんだ?」

 馬車から降りて来るジョゼフ様。

 「学園です」
 
 めんどくさいことになりそうだから、邸を追い出されたことは黙っておくことにした。

 「徒歩で行くのか? 乗れ!」

 徒歩で学園までは一時間はかかる。やっぱり、苦しかったようだ。だけど、意外だった。まさか、馬車に乗れと言われるとは思わなかった。だからといって、乗る気はない。

 「私とジョゼフ様は、もうなんの関わりありません。放っておいてください」

 「エミリー、俺は……」
 「ジョゼフ様~! このようなところで何をしているのですか? 早く行きましょう」

 ジョゼフ様が何か言おうとしたところで、バーバラがやって来た。いつもなら邸で待っているのに、私とジョゼフ様が顔を合わせていたらと考えたのか、わざわざこんなところまで走って来たようだ。嘘をつき続けるのも、楽じゃないらしい。

 「失礼します」

 その場から急いで立ち去る。

 「エ、エミリー!?」
 「ジョゼフ様、遅刻してしまいます。行きましょうよ」

 私を追いかけようとしたジョゼフ様を、バーバラが引きとめていた。
 
 ようやく一人になり、これからのことを考える。お父様が帰って来るまで、あと四週間ほどだ。

 「お金は、ランチを食べる分しかない……」

 街の中央にある大きな噴水の前のベンチに座り、盛大なため息をつく。
 このままでは、お父様が帰ってくる前に餓死してしまうわ! そう思い、ベンチから立ち上がり、行動することにした。

 この街には飲食店が多い。どこも繁盛していて、いつも従業員を募集している。
 どこかで雇ってもらえないか、近い場所からお店をまわってみることにした。

 「その制服、貴族学園の生徒様ではありませんか! そのような方を雇えません!」

 一軒目……当然の反応だった。
 王立学園に通うのは、ほとんどが貴族の令息令嬢達。この制服だと、目立ち過ぎる。
 
 「これをお願いします」

 服店に行き、ランチの為のお金を使って一番安かった服を買った。学園のランチが平民の服を買えるほど高いのだと、初めて知った。私は、世間知らずだったようだ。
 
 服を着替えた私は、何軒も飲食店を訪ね、働かせて欲しいと頭を下げ続けた……が、なかなか雇ってくれるお店は見つからなかった。
 伯父様を頼ることが頭をよぎったけれど、それは最後の手段。
 気を取り直して、九軒目のお店に入る。

 「いらっしゃいませ!」

 ふくよかで優しそうなおばさんが、笑顔で迎えてくれた。

 「あの、このお店で働かせてください!!」

 全力で頭を下げる。

 「働きたいのかい? それは、助かるね」

 「……え?」

 初めての好感触に、思わずキョトンとしてしまう。

 「見ての通り、今は猫の手も借りたいほど忙しいんだ。ぼーっとしていないで、働いとくれ!」

 店の中は、大勢のお客さんで賑わっていた。
 働かせてもらえる嬉しさで飛び跳ねそうになる気持ちを抑え、気合いを入れて働き出す。

 「ご注文入りました! おすすめランチ二つです!」

 注文を取り、テーブルを片付け、出来上がった料理を運ぶ。あっという間に日が暮れ、忙しい時間は過ぎて行った。

 「疲れたかい? お腹が減っているだろ? そこに座ってまかないを食べな」

 夜八時にお店が閉まり、おばさんがまかない料理を出してくれた。結局、朝食もあまり食べられなかった私は、お腹がすき過ぎて倒れそうだった。
 出されたまかないを食べると、美味し過ぎて涙が出て来た。

 「美味し……」

 「明日からは、朝と夕方だけ働いとくれ」

 おばさんは目の前のイスに座ると、そう言った。

 「あ……の……?」

 わけが分からなくて、言葉が出て来ない。

 「王立学園の生徒だろう? あんな目立つ服で街に居たら、誰でも気付くよ」

 「気付いていて、雇ってくださったのですか?」

 「わざわざ着替えてまで仕事を探していたんだから、何か事情があるんだろ? あんたの働きを見て決めたんだ。良く働いてくれるから、朝と夕方だけで十分だよ。行くところがないなら、二階に泊まりな」

 おばさんの優しさに、また涙が出た。

 「ありがとうございます! 一生懸命働きます!」

 お店の二階は、宿泊施設になっていた。その一室を、おばさんが貸してくれた。
 ベッドに横になると、ブライトの顔を思い出す。彼に一日会えなかっただけで、すごく寂しい気持ちになっていた。
 明日からは、学園に通うことも出来る。
 きっとバーバラは、私が邸を追い出されたことを広めているだろう。明日、学園に行くのが楽しみになって来た。

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