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11、新しい自分
しおりを挟む自分の気持ちに気付いてしまったからか、彼ばかり目で追ってしまう。授業の内容も、全く頭に入らなかった。これではいけないと、目をつぶって心を落ち着かせる。
「エミリー、居眠りか?」
いつの間にか授業が終わっていて、目を開けると目の前ににブライトの顔があった。
「きゃっ!!」
あまりにも近くて、驚いて仰け反る……
「危ない!!」
イスに座ったまま倒れそうになり、急いで手を伸ばすとブライトが掴んでくれた。触れられたところが熱を持つ。
「……ありがとう」
「何かあったのか?」
このままじゃダメだ。いつも通りにしないと、彼に心配をさせてしまう。それなら、この想いを伝えてしまおう!
「好き」
素直に言葉にしたら、ブライトが固まってしまった。
「ブライト?」
顔を覗き込むと、彼の顔がトマトのように真っ赤に染まった。そして、めちゃくちゃ慌て始めた。
「え、あ、あの、それは……ええっ!!?」
全く言葉になっていない。
こんなブライトは、初めて見た。
「もしかして、気持ち変わっちゃった?」
彼の様子を見て、不安になってしまった。
「そんなはずないだろ!! 俺がどれだけ……」
「どれだけ?」
「ズルイぞ。そんな可愛い顔されたら、抱きしめたくなる」
いつもの軽いセリフ。でも、彼の顔も耳も真っ赤に染まっている。ズルイのはブライトだ。私の心臓が破裂しそうなほどドキドキさせる。
「それはダメ。ここは教室だから」
私の返事に、さらに顔を赤くするブライト。ここにテレサが居なくて良かった。これは、イチャイチャになってしまうと思うから。きっと発狂してしまう。それに、ブライトとの時間を邪魔されたくない。
放課後、私のことを全て話す為に、学園内にある図書館へブライトを誘った。彼が好きだと認識したからか、私のことを知って欲しかった。
「学園長が伯父って……だから、学園長室に呼ばれたのか。何かあったのかと思っていたから、安心した」
図書館には、誰もいなかった。だから、ここを選んだのだけれど。静かで落ち着ける場所だ。
窓際の席に座り、私達は色々なことを話した。楽し過ぎて、時間が経つのも忘れていた。
「すっかり暗くなってしまったな」
「こんなに時間が経っていたなんて思わなかった」
いつもだったら、庭の掃除をする為に早く帰っていた。自分の変化に驚くと同時に、感謝の気持ちでいっぱいになっていた。これが、人を好きになるということだと実感した。
「遅いから、送って行く」
イスから立ち上がった彼の手が、目の前に差し出された。
まだ一緒に居られるのだと、嬉しくなった私は、差し出された彼の手を取った。
ラルクには先に帰ってもらい、ブライトに門の前まで送ってもらった。こんなに遅く帰って来たのは初めてだからか、門番が驚いていた。
玄関を開けて中に入ると、バーバラが待っていた。
「遅かったじゃない! あんたには仕事があるのに、今まで何をしていたの!? それに、ジョゼフ様に何をしたの!? なんであんたなんかを誘っていたのよ!? あんたが誘惑したんでしょ!?」
まさか、今までずっと待っていたのだろうか……
私の嫌がらせよりも、ジョゼフ様のことを聞きたかったようだ。なぜ私が誘惑したと思うのか……そもそも、バーバラが私の元婚約者を誘惑したのに。自分中心でしか物事を考えられないバーバラは、ジョアンナのこともきっと覚えていないだろう。
「バーバラはジョゼフ様に愛されている自信があるのでしょう? そんなに心配なら、ジョゼフ様を縛ってでも私に近付けないで!」
もういい加減、ジョゼフ様に関わりたくない!
バーバラが奪ってくれて、本当に良かったと思っている。あのままなら、私はジョゼフ様と結婚することになっていた。考えただけでも恐ろしい……
「そうよ! 私達は愛し合っているのだから、汚い手を使ってジョゼフ様を奪おうとしても無駄よ! さっさと庭の掃除をしなさい! こんなに遅く帰って来たのだから、当然夕食は抜きよ!」
色々突っ込みたいけれど、我慢我慢。ずっとここで待っていたからか、疲れた様子で部屋に戻って行くバーバラ。
部屋に戻って荷物を置き、着替えてから庭に出る。暗くて視界が悪い中、また庭師が植えた雑草を抜き始める。
すると、手元が急に明るくなった。
「エミリー様、お疲れ様です」
使用人達が、ランタンで手元を照らしてくれていた。
「みんな……」
私が好きなことを優先していたせいで、みんなに迷惑をかけている。庭師は毎日余計な仕事を増やされ、メイド達は義母とバーバラに見つからないように私の夕食を作ってくれる。
わがままなのは、私だったのだと自覚した。
今日を最後にわがままはやめる。
翌朝食堂に行くと、義母とバーバラは楽しそうに会話しながら朝食をとっていた。
「お母様、エミリーったら私の婚約者を誘惑しているの! 私を愛している彼が、あんな愛嬌のない女に興味を持つはずがないけどね!」
「そうね。バーバラは私に似て可愛らしいから、誰もが好きになってしまうわ。エミリーなんかを誰も好きになるはずがない」
楽しそうに会話……というよりも、私の悪口で盛り上がっていた。似た者親子。
父に愛されていないことは、義母のプライドを傷付け続けているのかもしれない。
「おはようございます」
朝の挨拶をして席につき、メイドが運んで来てくれた食事をいただく。まだジョゼフ様を誘惑していると思っているからか、私を睨みつけているバーバラ。
「今日は庭全体を掃除しなさい! 昨日のように遅く帰って来たら許さないわ!」
嫌がらせはそれしか思い付かないのか。
「お断りするわ。いい加減、ワイヤット侯爵家の使用人を自分の都合で使わないでくれる? 庭師に雑草を植えさせるなんて、余計な仕事を増やさないで。この邸の使用人は、お父様に雇われているの。あなたにじゃない」
バーバラはテーブルをバンと叩き、立ち上がった。
「エミリーのくせに、どういうつもり!? 私に逆らうつもり!?」
今までは、自分が好きだからやっていただけで、バーバラの言うことを聞いていたわけではない。だけどバーバラにとっては、突然私が逆らったと思っている。この反応は、予想していた。
「食事中なの。静かにしてくれる?」
相手にしても無駄なのも分かっている。
「エミリー、あなたは何様? 私とバーバラの命令は、旦那様からの命令よ。調子に乗らないで。バーバラがワイヤット侯爵家を継いだら追い出そうと思っていたけれど、今すぐ出て行きなさい! 出て行かないのならば、使用人を全員解雇するわ!!」
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