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8、ブライトとマーク殿下

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 鼻血を出したことが恥ずかしかったのか、テレサはまた早退した。
 午前の授業が終わり、ランチをしに食堂へと向かう。
 教室ではブライトのおかげで言われなくなったけど、他のクラスの生徒達はまだまだ悪口を言ってくる。

 「見て! エミリー様よ!」
 「昨日もバーバラ様に邸の掃除をさせたらしいわ! しかも、夕食も抜きだったんですって!」
 「妹が姉にそんな仕打ちをするなんて最低ね……」

 清々しいくらい、バーバラと私が逆になっている。
 昨日の噂をしているなんて、バーバラは毎日私の噂を広めているのか……

 「エミリー! 置いていくなよ!」

 足早に廊下を歩いていると、後ろからブライトが追いかけて来た。それを見た生徒達は、悪口を言うのをやめた。

 「約束はしていなかったと思うけど?」

 「ランチは付き合うって言っただろ?」

 それは昨日、確かに言った。言ったけど、毎日とは言っていない。だけど、正直嬉しかった。
 この学園に入学してから、一人でランチしたことは一度もなかった。いつも周りに友達が居た。
 クラスメイトは悪口を言わなくなったけれど、一度私から離れて行った人達と、何もなかったように仲良くすることは出来ない。

 「そうだね。じゃあ、食堂に行こうか」

 ブライトはきっと、私が一人にならないようにしてくれている。私が気を使わないようにしてくれているんだ。本当に、なんて優しい人なのだろう。彼の優しさを、素直に受け取ることにした。

 食堂は全学年の生徒が利用する。
 学園の食堂では、最高の料理人が料理を作っている。学園長曰く、『食事は生きる活力』だそうだ。学園にお弁当を持ち込む生徒もたまにいるけれど、温かくて美味しい食事が用意されているのだから、食堂で食べる生徒の方が圧倒的に多い。

 つまり……

 「バーバラは可愛いな。それだけしか食べないのか?」
 「私、少食なんです」

 ジョゼフ様とバーバラも、食堂に居るということだ。席は沢山空いているのに、わざわざ入口近くの席に座るなんて……
 バーバラはスープだけを頼み、ちょびちょび飲んでいる。邸では豪快にお肉を頬張っているのに、あれだけで本当に足りるのだろうか。というより、夕食を抜かれた設定なのに矛盾しているとは思わないのだろうか。
 
 関わりたくはないから、気付かないふりをしてその場から離れる。

 「おい、無視をするな! エミリーは俺が好きなのだろう? 一緒に食事してやってもいいぞ?」
 
 それは、どういうことだろうか。まさか、バーバラが私はジョゼフ様のことが好きだとでも話した……?

 「え……ジョゼフ様?? エミリーと一緒にだなんて、どうして……?」

 バーバラが動揺しているところを見ると、どうやら違うようだ。
 
 「バーバラが嫌がっているではありませんか。婚約者を大切にしてください」

 そのまま通り過ぎようとすると、ジョゼフ様が立ち上がり、私の腕を掴もうと手を伸ばして来た。

 「触るな。エミリーは、お前が気安く触れていい相手ではない」

 ジョゼフ様の手が私に触れる前に、ブライトが彼の腕を掴んでいた。少し、怒っているように見える。

 「またお前か!! エミリーの婚約者にでも、なったつもりなのか!? 残念だったな。エミリーは俺のことが好きなんだ!!」

 誰にそんな嘘を吹き込まれたのか知らないけれど、ブライトをバカにした目で見ているジョゼフ様にいい加減頭に来た。
 ガツンと一言文句をと思った時、背後から気の抜けた声が聞こえた。

 「それは、聞き捨てなりませんね~。お姉さんが、君みたいなクズを好きになるはずないではありませんか。
 お姉さん、せっかく会えたのだから一緒に昼食をとりましょう!」

 声の主は、マーク殿下だった。
 子犬のように可愛らしい容姿で、毒舌なマーク殿下。しかも笑顔でそれを言っている。
 
 「エミリーがそのクズを好きになるわけがないのは同意するが、マーク王子は護衛の方と食事をしてください」 

 ブライトは、マーク殿下から隠すように私の前に立った。
 ジョゼフ様は殿下の登場に、顔を隠しながらバーバラを置いて食堂から出て行った。バーバラも、何も言わずにジョゼフ様を追いかけて行った。

 「君も居たんですね。お姉さんと二人きりでランチしようと思ったのにな。仕方がないから、君も一緒でいいですよ。あのクズよりはマシなので我慢します」

 「エミリーは俺とランチをする約束をしていました。仕方がないので、マーク王子も仲間に入れてあげます」

 このままでは朝のように、いつまでも言い合いしていそうだと思った。

 「いい加減にしてください! このままでは、お昼休みが終わってしまいます。さっさと注文しますよ!」

 二人は大人しくなり、素直に注文してみんなで一緒のテーブルに着いた。私の隣にはブライト。私の前にはマーク殿下。マーク殿下の隣に、ビンセント様が座った。

「いただきます!」

 席に座ってからも、ブライトとマーク殿下は睨み合っている。仲良くなることは、出来ないのかな……
 楽しい食事とは程遠く、黙々と食事を続けていると、マーク殿下が口を開いた。

 「そういえば、お姉さんはどうして何も言わないのですか? バーバラ嬢は、お姉さんと血が繋がっていませんよね?」

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