8 / 28
8、ブライトとマーク殿下
しおりを挟む鼻血を出したことが恥ずかしかったのか、テレサはまた早退した。
午前の授業が終わり、ランチをしに食堂へと向かう。
教室ではブライトのおかげで言われなくなったけど、他のクラスの生徒達はまだまだ悪口を言ってくる。
「見て! エミリー様よ!」
「昨日もバーバラ様に邸の掃除をさせたらしいわ! しかも、夕食も抜きだったんですって!」
「妹が姉にそんな仕打ちをするなんて最低ね……」
清々しいくらい、バーバラと私が逆になっている。
昨日の噂をしているなんて、バーバラは毎日私の噂を広めているのか……
「エミリー! 置いていくなよ!」
足早に廊下を歩いていると、後ろからブライトが追いかけて来た。それを見た生徒達は、悪口を言うのをやめた。
「約束はしていなかったと思うけど?」
「ランチは付き合うって言っただろ?」
それは昨日、確かに言った。言ったけど、毎日とは言っていない。だけど、正直嬉しかった。
この学園に入学してから、一人でランチしたことは一度もなかった。いつも周りに友達が居た。
クラスメイトは悪口を言わなくなったけれど、一度私から離れて行った人達と、何もなかったように仲良くすることは出来ない。
「そうだね。じゃあ、食堂に行こうか」
ブライトはきっと、私が一人にならないようにしてくれている。私が気を使わないようにしてくれているんだ。本当に、なんて優しい人なのだろう。彼の優しさを、素直に受け取ることにした。
食堂は全学年の生徒が利用する。
学園の食堂では、最高の料理人が料理を作っている。学園長曰く、『食事は生きる活力』だそうだ。学園にお弁当を持ち込む生徒もたまにいるけれど、温かくて美味しい食事が用意されているのだから、食堂で食べる生徒の方が圧倒的に多い。
つまり……
「バーバラは可愛いな。それだけしか食べないのか?」
「私、少食なんです」
ジョゼフ様とバーバラも、食堂に居るということだ。席は沢山空いているのに、わざわざ入口近くの席に座るなんて……
バーバラはスープだけを頼み、ちょびちょび飲んでいる。邸では豪快にお肉を頬張っているのに、あれだけで本当に足りるのだろうか。というより、夕食を抜かれた設定なのに矛盾しているとは思わないのだろうか。
関わりたくはないから、気付かないふりをしてその場から離れる。
「おい、無視をするな! エミリーは俺が好きなのだろう? 一緒に食事してやってもいいぞ?」
それは、どういうことだろうか。まさか、バーバラが私はジョゼフ様のことが好きだとでも話した……?
「え……ジョゼフ様?? エミリーと一緒にだなんて、どうして……?」
バーバラが動揺しているところを見ると、どうやら違うようだ。
「バーバラが嫌がっているではありませんか。婚約者を大切にしてください」
そのまま通り過ぎようとすると、ジョゼフ様が立ち上がり、私の腕を掴もうと手を伸ばして来た。
「触るな。エミリーは、お前が気安く触れていい相手ではない」
ジョゼフ様の手が私に触れる前に、ブライトが彼の腕を掴んでいた。少し、怒っているように見える。
「またお前か!! エミリーの婚約者にでも、なったつもりなのか!? 残念だったな。エミリーは俺のことが好きなんだ!!」
誰にそんな嘘を吹き込まれたのか知らないけれど、ブライトをバカにした目で見ているジョゼフ様にいい加減頭に来た。
ガツンと一言文句をと思った時、背後から気の抜けた声が聞こえた。
「それは、聞き捨てなりませんね~。お姉さんが、君みたいなクズを好きになるはずないではありませんか。
お姉さん、せっかく会えたのだから一緒に昼食をとりましょう!」
声の主は、マーク殿下だった。
子犬のように可愛らしい容姿で、毒舌なマーク殿下。しかも笑顔でそれを言っている。
「エミリーがそのクズを好きになるわけがないのは同意するが、マーク王子は護衛の方と食事をしてください」
ブライトは、マーク殿下から隠すように私の前に立った。
ジョゼフ様は殿下の登場に、顔を隠しながらバーバラを置いて食堂から出て行った。バーバラも、何も言わずにジョゼフ様を追いかけて行った。
「君も居たんですね。お姉さんと二人きりでランチしようと思ったのにな。仕方がないから、君も一緒でいいですよ。あのクズよりはマシなので我慢します」
「エミリーは俺とランチをする約束をしていました。仕方がないので、マーク王子も仲間に入れてあげます」
このままでは朝のように、いつまでも言い合いしていそうだと思った。
「いい加減にしてください! このままでは、お昼休みが終わってしまいます。さっさと注文しますよ!」
二人は大人しくなり、素直に注文してみんなで一緒のテーブルに着いた。私の隣にはブライト。私の前にはマーク殿下。マーク殿下の隣に、ビンセント様が座った。
「いただきます!」
席に座ってからも、ブライトとマーク殿下は睨み合っている。仲良くなることは、出来ないのかな……
楽しい食事とは程遠く、黙々と食事を続けていると、マーク殿下が口を開いた。
「そういえば、お姉さんはどうして何も言わないのですか? バーバラ嬢は、お姉さんと血が繋がっていませんよね?」
385
お気に入りに追加
5,529
あなたにおすすめの小説
私を棄てて選んだその妹ですが、継母の私生児なので持参金ないんです。今更ぐだぐだ言われても、私、他人なので。
百谷シカ
恋愛
「やったわ! 私がお姉様に勝てるなんて奇跡よ!!」
妹のパンジーに悪気はない。この子は継母の連れ子。父親が誰かはわからない。
でも、父はそれでいいと思っていた。
母は早くに病死してしまったし、今ここに愛があれば、パンジーの出自は問わないと。
同等の教育、平等の愛。私たちは、血は繋がらずとも、まあ悪くない姉妹だった。
この日までは。
「すまないね、ラモーナ。僕はパンジーを愛してしまったんだ」
婚約者ジェフリーに棄てられた。
父はパンジーの結婚を許した。但し、心を凍らせて。
「どういう事だい!? なぜ持参金が出ないんだよ!!」
「その子はお父様の実子ではないと、あなたも承知の上でしょう?」
「なんて無礼なんだ! 君たち親子は破滅だ!!」
2ヶ月後、私は王立図書館でひとりの男性と出会った。
王様より科学の研究を任された侯爵令息シオドリック・ダッシュウッド博士。
「ラモーナ・スコールズ。私の妻になってほしい」
運命の恋だった。
=================================
(他エブリスタ様に投稿・エブリスタ様にて佳作受賞作品)
えっと、幼馴染が私の婚約者と朝チュンしました。ドン引きなんですけど……
百谷シカ
恋愛
カメロン侯爵家で開かれた舞踏会。
楽しい夜が明けて、うららかな朝、幼馴染モイラの部屋を訪ねたら……
「えっ!?」
「え?」
「あ」
モイラのベッドに、私の婚約者レニー・ストックウィンが寝ていた。
ふたりとも裸で、衣服が散乱している酷い状態。
「どういう事なの!?」
楽しかった舞踏会も台無し。
しかも、モイラの部屋で泣き喚く私を、モイラとレニーが宥める始末。
「触らないで! 気持ち悪い!!」
その瞬間、私は幼馴染と婚約者を失ったのだと気づいた。
愛していたはずのふたりは、裏切り者だ。
私は部屋を飛び出した。
そして、少し頭を冷やそうと散歩に出て、美しい橋でたそがれていた時。
「待て待て待てぇッ!!」
人生を悲観し絶望のあまり人生の幕を引こうとしている……と勘違いされたらしい。
髪を振り乱し突進してくるのは、恋多き貴公子と噂の麗しいアスター伯爵だった。
「早まるな! オリヴィア・レンフィールド!!」
「!?」
私は、とりあえず猛ダッシュで逃げた。
だって、失恋したばかりの私には、刺激が強すぎる人だったから……
♡内気な傷心令嬢とフェロモン伯爵の優しいラブストーリー♡
お兄様、奥様を裏切ったツケを私に押し付けましたね。只で済むとお思いかしら?
百谷シカ
恋愛
フロリアン伯爵、つまり私の兄が赤ん坊を押し付けてきたのよ。
恋人がいたんですって。その恋人、亡くなったんですって。
で、孤児にできないけど妻が恐いから、私の私生児って事にしろですって。
「は?」
「既にバーヴァ伯爵にはお前が妊娠したと告げ、賠償金を払った」
「はっ?」
「お前の婚約は破棄されたし、お前が母親になればすべて丸く収まるんだ」
「はあっ!?」
年の離れた兄には、私より1才下の妻リヴィエラがいるの。
親の決めた結婚を受け入れてオジサンに嫁いだ、真面目なイイコなのよ。
「お兄様? 私の未来を潰した上で、共犯になれって仰るの?」
「違う。私の妹のお前にフロリアン伯爵家を守れと命じている」
なんのメリットもないご命令だけど、そこで泣いてる赤ん坊を放っておけないじゃない。
「心配する必要はない。乳母のスージーだ」
「よろしくお願い致します、ソニア様」
ピンと来たわ。
この女が兄の浮気相手、赤ん坊の生みの親だって。
舐めた事してくれちゃって……小娘だろうと、女は怒ると恐いのよ?
私から略奪婚した妹が泣いて帰って来たけど全力で無視します。大公様との結婚準備で忙しい~忙しいぃ~♪
百谷シカ
恋愛
身勝手な理由で泣いて帰ってきた妹エセル。
でも、この子、私から婚約者を奪っておいて、どの面下げて帰ってきたのだろう。
誰も構ってくれない、慰めてくれないと泣き喚くエセル。
両親はひたすらに妹をスルー。
「お黙りなさい、エセル。今はヘレンの結婚準備で忙しいの!」
「お姉様なんかほっとけばいいじゃない!!」
無理よ。
だって私、大公様の妻になるんだもの。
大忙しよ。
【完結】愛され公爵令嬢は穏やかに微笑む
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
恋愛
「シモーニ公爵令嬢、ジェラルディーナ! 私はお前との婚約を破棄する。この宣言は覆らぬと思え!!」
婚約者である王太子殿下ヴァレンテ様からの突然の拒絶に、立ち尽くすしかありませんでした。王妃になるべく育てられた私の、存在価値を否定するお言葉です。あまりの衝撃に意識を手放した私は、もう生きる意味も分からくなっていました。
婚約破棄されたシモーニ公爵令嬢ジェラルディーナ、彼女のその後の人生は思わぬ方向へ転がり続ける。優しい彼女の功績に助けられた人々による、恩返しが始まった。まるで童話のように、受け身の公爵令嬢は次々と幸運を手にしていく。
ハッピーエンド確定
【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2022/10/01 FUNGUILD、Webtoon原作シナリオ大賞、二次選考通過
2022/07/29 FUNGUILD、Webtoon原作シナリオ大賞、一次選考通過
2022/02/15 小説家になろう 異世界恋愛(日間)71位
2022/02/12 完結
2021/11/30 小説家になろう 異世界恋愛(日間)26位
2021/11/29 アルファポリス HOT2位
2021/12/03 カクヨム 恋愛(週間)6位
「期待外れ」という事で婚約破棄した私に何の用ですか? 「理想の妻(私の妹)」を愛でてくださいな。
百谷シカ
恋愛
「君ならもっとできると思っていたけどな。期待外れだよ」
私はトイファー伯爵令嬢エルミーラ・ヴェールマン。
上記の理由により、婚約者に棄てられた。
「ベリエス様ぁ、もうお会いできないんですかぁ…? ぐすん…」
「ああ、ユリアーナ。君とは離れられない。僕は君と結婚するのさ!」
「本当ですかぁ? 嬉しいです! キャハッ☆彡」
そして双子の妹ユリアーナが、私を蹴落とし、その方の妻になった。
プライドはズタズタ……(笑)
ところが、1年後。
未だ跡継ぎの生まれない事に焦った元婚約者で現在義弟が泣きついて来た。
「君の妹はちょっと頭がおかしいんじゃないか? コウノトリを信じてるぞ!」
いえいえ、そういうのが純真無垢な理想の可愛い妻でしたよね?
あなたが選んだ相手なので、どうぞ一生、愛でて魂すり減らしてくださいませ。
断罪された公爵令嬢に手を差し伸べたのは、私の婚約者でした
カレイ
恋愛
子爵令嬢に陥れられ第二王子から婚約破棄を告げられたアンジェリカ公爵令嬢。第二王子が断罪しようとするも、証拠を突きつけて見事彼女の冤罪を晴らす男が現れた。男は公爵令嬢に跪き……
「この機会絶対に逃しません。ずっと前から貴方をお慕いしていましたんです。私と婚約して下さい!」
ええっ!あなた私の婚約者ですよね!?
妹がいなくなった
アズやっこ
恋愛
妹が突然家から居なくなった。
メイドが慌ててバタバタと騒いでいる。
お父様とお母様の泣き声が聞こえる。
「うるさくて寝ていられないわ」
妹は我が家の宝。
お父様とお母様は妹しか見えない。ドレスも宝石も妹にだけ買い与える。
妹を探しに出掛けたけど…。見つかるかしら?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる