上 下
7 / 28

7、贈り物

しおりを挟む


 婚約破棄されてから三日目。学園に登校すると、マーク殿下が校門の前で待っていた。馬車から降りると、殿下は後ろに隠していた花束を差し出した。

 「お姉さん、おはよう! この花、お姉さんに似合うと思って!」

 五十本くらいありそうな、ピンク色のバラの花束。
 花束をいただくのは嬉しい。嬉しいけれど、これから学園に勉強をしに行くのに、これをどうしろと?

 「えっと……」

 差し出された花束を見ながら戸惑っていると、マーク殿下は首を傾げた。

 「バラは、嫌いですか?」

 目をうるうるさせて、捨てられた子犬のような顔で見つめるのをやめて欲しい。
 周りに居る生徒達は、殿下を私がいじめているのではと噂し出した。そんなに私をいじめっ子キャラにしたいのか……
 でもこの顔、どこかで見たような気がする。

 「そんな花束持って、登校しろって言いたいのですか? 王子様というのは、変わっていますね」

 花束を差し出されたまま動けなかった私の腕をブライトが強引に引き寄せ、私の身体は彼の胸にすっぽり包まれた。

 「ブライト……」

 彼の身体が大きくて、なんだかあたたかくて、胸の鼓動がトクントクンと音を立てながら早くなる。

 「あーっ! 何で抱きしめているのですか!? お姉さんから離れなさい!!」

 殿下の声に、急に恥ずかしくなり慌ててブライトから離れる。

 「せっかくいい感じだったのに、邪魔しないでください」

 ブライトは不貞腐れた顔をしながら、殿下を睨む。王子様を睨むなんて、すごいな……

 「邪魔をしたのはそちらですよね!? 急に現れて、お姉さんを抱きしめるなんて羨まし……いや、失礼極まりない!!」

 「本音がダダ漏れですよ、王子様! お子ちゃまは女性の口説き方をお勉強してから来てくださいねー」

 二人を見ていると、楽しい気持ちになる。何も飾らないやり取り。
 だけど付き合っていたら遅刻してしまうから、教室に行こう。
 私が教室に行ったあとも、二人は言い合いをしていたようだ。そのせいで、ブライトは遅刻をしてしまった。そしてなぜか、バラの花束を抱えて教室に現れ、その花束を先生に渡してご機嫌とりをしていた。
 ……マーク殿下、ごめんなさい。

 休み時間になると、ブライトが私の席に近付いてきて、机の上に小さな箱を置いた。

 「これは?」

 「……やる」

 いつもとは違う、ぶっきらぼうな言い方。ブライトの顔を見ると、目を合わせてくれない。耳が赤くなっているから、照れているようだ。
 照れているということは、贈り物? そんなことを考えながら箱を開けてみると、中には可愛らしい髪どめが入っていた。

 「可愛い……」

 髪どめは白とピンクの蝶の模様がほどこされていて、すごく可愛い。男性から贈り物をいただいたのは初めてで、戸惑ってしまう。(花束は受け取ってないので、贈り物に含まなかった)

 「それ、エミリーに絶対似合うと思う」

 こんなに可愛らしい物を似合うと言われて、何だかくすぐったい。だけど、嬉しい。

 「ありがとう、ブライト」

 早速つけてみると、さっきまで目を逸らしていたブライトが瞬きもせずにじーっと見ていた。

 「に、似合うかな?」

 あまりにじーっと見られて、恥ずかしくなった私は彼から目を逸らす。

 「すっごく似合ってる!!」

 そんなに全力で褒められたら、ずっとつけていたくなってしまう。初めての贈り物だったから、大切にしまっておきたかったのにな。

 「教室でイチャつくのは、やめてもらます?」

 恨めしそうな顔で、テレサがそう言った。イチャイチャしていたつもりはないけど、ブライトのことを好きなテレサからしたら嫌な光景だろう。

 「ごめん……」

 好きな人が他の女の子と仲良くしているところなんて、見たくないのが当たり前だ。テレサのことは嫌いだけど、バーバラとは違う純粋な恋心を傷付けたくなかった私は、素直に謝った。

 「バッカじゃないの!? あんなに酷いことを言った私に、どうして謝るのよ!! そういうところが、大っ嫌いなのよ!!」

 ブライトに本性が知られてしまったからか、いい子の演技はやめたようだ。テレサは、最初から私が嫌いだったのだろう。私はテレサの演技に騙されていた。ジョゼフ様のことを、言えないかもしれない……

 「俺は、エミリーのそういうところが好きだ」

 耳が真っ赤に染まっているから、本気で言ってくれているのが分かる。だけど今度は、私の目をまっすぐ見つめている。ブライトは、本当に気持ちを隠さなくなった。

 「ブライト様と意見が真逆だなんて……私達は、やっぱり結ばれる運命なのです!!」

 テレサは急に嬉しそうな顔をした。私には、全く意味が分からない。彼女は目を輝かせながらブライトに詰め寄る。 

 「お前……どういう思考回路しているんだ?」

 近付いて来たテレサを、ブライトは呆れながら避けた。

 「いっ……たあっ!!」

 避けられてバランスを崩したテレサは、窓に鼻をぶつけた。鼻からぶつかるなんて、キスをしようとでもしていたのか……

 「テレサ、大丈夫?」

 振り返ったテレサは、両方の鼻の穴から鼻血を出していた。

しおりを挟む
感想 145

あなたにおすすめの小説

願いの代償

らがまふぃん
恋愛
誰も彼もが軽視する。婚約者に家族までも。 公爵家に生まれ、王太子の婚約者となっても、誰からも認められることのないメルナーゼ・カーマイン。 唐突に思う。 どうして頑張っているのか。 どうして生きていたいのか。 もう、いいのではないだろうか。 メルナーゼが生を諦めたとき、世界の運命が決まった。 *ご都合主義です。わかりづらいなどありましたらすみません。笑って読んでくださいませ。本編15話で完結です。番外編を数話、気まぐれに投稿します。よろしくお願いいたします。

私を棄てて選んだその妹ですが、継母の私生児なので持参金ないんです。今更ぐだぐだ言われても、私、他人なので。

百谷シカ
恋愛
「やったわ! 私がお姉様に勝てるなんて奇跡よ!!」 妹のパンジーに悪気はない。この子は継母の連れ子。父親が誰かはわからない。 でも、父はそれでいいと思っていた。 母は早くに病死してしまったし、今ここに愛があれば、パンジーの出自は問わないと。 同等の教育、平等の愛。私たちは、血は繋がらずとも、まあ悪くない姉妹だった。 この日までは。 「すまないね、ラモーナ。僕はパンジーを愛してしまったんだ」 婚約者ジェフリーに棄てられた。 父はパンジーの結婚を許した。但し、心を凍らせて。 「どういう事だい!? なぜ持参金が出ないんだよ!!」 「その子はお父様の実子ではないと、あなたも承知の上でしょう?」 「なんて無礼なんだ! 君たち親子は破滅だ!!」 2ヶ月後、私は王立図書館でひとりの男性と出会った。 王様より科学の研究を任された侯爵令息シオドリック・ダッシュウッド博士。 「ラモーナ・スコールズ。私の妻になってほしい」 運命の恋だった。 ================================= (他エブリスタ様に投稿・エブリスタ様にて佳作受賞作品)

第二王子妃から退きますわ。せいぜい仲良くなさってくださいね

ネコ
恋愛
公爵家令嬢セシリアは、第二王子リオンに求婚され婚約まで済ませたが、なぜかいつも傍にいる女性従者が不気味だった。「これは王族の信頼の証」と言うリオンだが、実際はふたりが愛人関係なのでは? と噂が広まっている。ある宴でリオンは公衆の面前でセシリアを貶め、女性従者を擁護。もう我慢しません。王子妃なんてこちらから願い下げです。あとはご勝手に。

妹とともに婚約者に出て行けと言ったものの、本当に出て行かれるとは思っていなかった旦那様

新野乃花(大舟)
恋愛
フリード伯爵は溺愛する自身の妹スフィアと共謀する形で、婚約者であるセレスの事を追放することを決めた。ただその理由は、セレスが婚約破棄を素直に受け入れることはないであろうと油断していたためだった。しかしセレスは二人の予想を裏切り、婚約破棄を受け入れるそぶりを見せる。予想外の行動をとられたことで焦りの色を隠せない二人は、セレスを呼び戻すべく様々な手段を講じるのであったが…。

私が出て行った後、旦那様から後悔の手紙がもたらされました

新野乃花(大舟)
恋愛
ルナとルーク伯爵は婚約関係にあったが、その関係は伯爵の妹であるリリアによって壊される。伯爵はルナの事よりもリリアの事ばかりを優先するためだ。そんな日々が繰り返される中で、ルナは伯爵の元から姿を消す。最初こそ何とも思っていなかった伯爵であったが、その後あるきっかけをもとに、ルナの元に後悔の手紙を送ることとなるのだった…。

私から略奪婚した妹が泣いて帰って来たけど全力で無視します。大公様との結婚準備で忙しい~忙しいぃ~♪

百谷シカ
恋愛
身勝手な理由で泣いて帰ってきた妹エセル。 でも、この子、私から婚約者を奪っておいて、どの面下げて帰ってきたのだろう。 誰も構ってくれない、慰めてくれないと泣き喚くエセル。 両親はひたすらに妹をスルー。 「お黙りなさい、エセル。今はヘレンの結婚準備で忙しいの!」 「お姉様なんかほっとけばいいじゃない!!」 無理よ。 だって私、大公様の妻になるんだもの。 大忙しよ。

婚約破棄された令嬢のささやかな幸福

香木陽灯(旧:香木あかり)
恋愛
 田舎の伯爵令嬢アリシア・ローデンには婚約者がいた。  しかし婚約者とアリシアの妹が不貞を働き、子を身ごもったのだという。 「結婚は家同士の繋がり。二人が結ばれるなら私は身を引きましょう。どうぞお幸せに」  婚約破棄されたアリシアは潔く身を引くことにした。  婚約破棄という烙印が押された以上、もう結婚は出来ない。  ならば一人で生きていくだけ。  アリシアは王都の外れにある小さな家を買い、そこで暮らし始める。 「あぁ、最高……ここなら一人で自由に暮らせるわ!」  初めての一人暮らしを満喫するアリシア。  趣味だった刺繍で生計が立てられるようになった頃……。 「アリシア、頼むから戻って来てくれ! 俺と結婚してくれ……!」  何故か元婚約者がやってきて頭を下げたのだ。  しかし丁重にお断りした翌日、 「お姉様、お願いだから戻ってきてください! あいつの相手はお姉様じゃなきゃ無理です……!」  妹までもがやってくる始末。  しかしアリシアは微笑んで首を横に振るばかり。 「私はもう結婚する気も家に戻る気もありませんの。どうぞお幸せに」  家族や婚約者は知らないことだったが、実はアリシアは幸せな生活を送っていたのだった。

出て行けと言って、本当に私が出ていくなんて思ってもいなかった??

新野乃花(大舟)
恋愛
ガランとセシリアは婚約関係にあったものの、ガランはセシリアに対して最初から冷遇的な態度をとり続けていた。ある日の事、ガランは自身の機嫌を損ねたからか、セシリアに対していなくなっても困らないといった言葉を発する。…それをきっかけにしてセシリアはガランの前から失踪してしまうこととなるのだが、ガランはその事をあまり気にしてはいなかった。しかし後に貴族会はセシリアの味方をすると表明、じわじわとガランの立場は苦しいものとなっていくこととなり…。

処理中です...