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6、ひとりじゃない

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 「話にならんな! バーバラ、今日は帰ろう!」

 ブライトには勝てないと思ったのか、逃げるように帰って行った。女の私には強気なのに、ブライトからは逃げるなんて……ジョゼフ様とバーバラは、お似合いだと思う。

 「ごめんな……」

 振り返ったブライトは、泣きそうな顔をしていた。

 「どうして謝るの?」

 「昨日、君を一人にしてしまった。ジョゼフは、君に酷いことを言ったんだろう?」

 ブライトが謝る必要なんてない。

 「ねえ、ブライト……私、そんなに弱く見える? 私は何を言われても平気だよ。ジョゼフ様と別れられて、感謝さえしているもの」

 ブライトが守ろうとしてくれるのは嬉しいし、さっきのブライトに胸がキュンとしたのも事実だけど、守られてばかりのか弱い女の子にはなりたくない。

 「そんなエミリーも、愛しているぞ」

 いつものようにからかい口調だけど、照れ隠しだということに気付いたから、もう嫌悪感を抱いたりしない。泣きそうな顔で、私を心配してくれたブライトは、私の中で大切な存在になっていた。

 「ハイハイ。庭の掃除しなくちゃいけないから、帰るね」

 「それ、本気だったのか!? 」

 「もちろん! だけど、これは私がやりたいからやるの。料理や掃除をするのが、すごく好きなんだあ」

 「てことは、ジョゼフは君の悪口を言っているようで、バーバラの悪口を言っていたんだな……」

 なんだか可笑しくなって、2人で笑った。
 
 
 
 邸に戻ると、今日も玄関でバーバラが待っていた。学園を出た時間はあまり変わらないのに、素早い……

 「まさか、勝ったなんて思っていないわよね?」

 勝ち負けで考えたりしていない。
 腰に手を当てて、偉そうに立つバーバラを見ていると、学園でのバーバラが別人に思えて来る。案外、演技が上手いのかもしれない。
 
 「思ってないから、そこを退いてくれる?」

 「待ちなさいよ! 庭が散らかっているから、掃除して!」

 ドヤ顔で命令して来るバーバラ。自分で散らかすように庭師に頼んだくせに、バレていないと思っているのだろうか。

 「分かった……」
 
 掃除出来る嬉しさから、顔がニヤケそうになるのをガマンする。私が好きでやっていると知ったら、今度は部屋に閉じ込められそうだから、あくまでも嫌々やっていると思われなくてはならない。

 「早く終わらせないと、夕食抜きよ! さっさと掃除して!」

 夕食をバーバラに抜かれたとしても、メイドがこっそり用意してくれる。私を苦しめていると思い込んでいるバーバラは、ニコニコしながら部屋に戻って行った。

 着替えをすませて庭に出ると、昨日抜いた雑草がなぜかまた植えられていた。
 思わず二度見してしまった。まさか、わざわざ雑草を植えているとは思わなかった。庭師も、大変だっただろう。
 私はしゃがんで、植えられた雑草を抜き始める。雑草を抜くのは好きだけど、さすがに植えただけあってすぐに抜けてしまう。

 「……終わってしまった」

 もう少しやりたかったけど、やることがないから邸の中に戻る。すると、またバーバラが待っていた。私がいつ戻って来るか分からないのに、ずっと待っていたのだろうか? ……暇人なの?

 「遅かったじゃない! 残念ね、もう夕食はすませてしまったわ。今日も夕食が抜きだなんて、可哀想。でもダイエットになるし、感謝してもいいわよ?」

 夕食をすませるのが、早すぎる。私が庭に出たあと、すぐに食べ始めたとしか思えない。最初から、私に夕食を食べさせるつもりなんてなかったのだろう。

 「そうね。ダイエットになるし、良かったわ。もう部屋に戻るわ」

 「何を言っているの? 食器の後片付けが、まだ残っているじゃない。さっさと片付けに行きなさいよ!」

 「分かった」

 毎日同じ嫌がらせをしてくるバーバラは、私をいじめることが生きがいになっているのか、イキイキして見える。それが私にとっては嫌がらせになっていないのだけれど。
 
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