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24、一途な男と身勝手な女
しおりを挟む母がケリーとガードナーさんを殺す為に雇った男達、母がガードナーさんに援助する為に使っていた商人、そしてガードナーさんの身柄を拘束したと、ダニエル殿下から報告が届いた。
ガードナーさんは母に裏切られたことで、素直に真実を話してくれているそうだ。ガードナーさんを母が雇った男達が襲撃するまで、彼を泳がせていたことは正解だった。
やっぱり、ガードナーさんはオリビア様の本当の父親だった。最初はクライド伯爵の子として、育てるつもりだったようだ。オリビア様を妊娠した後、父は「子供は一人いればいい」と、母の相手を全くしなくなった。政略結婚だった二人の間に愛情はなく、父は母を『跡継ぎを産む女』としか思っていなかったのだ。だから母は、王妃様に会いに行くという名目で、頻繁にガードナーさんに会いに行っていた。そしてあの日、王妃様と母は女の子を同時に出産した。母は、運命だと言っていたそうだ。
ガードナーさんが生まれた我が子に会いに行った時には、すでにケリーが入れ替える為にオリビア様を連れ出していた。入れ替えのことを聞かされた時、愛する人を奪った男に育てられるよりも、王女として幸せになるならばと協力することにした。王宮に残って我が子を見守りたいとも考えたけれど、時が経ち、自分に容姿が似て来たらと思うと怖かったそうだ。疑われるような危険はおかせないと、主治医を辞めて身を隠す決断をした。身を隠す場所は、母が探したそうだ。母は援助をしてくれたが、全て商人経由で、村から森の小屋に移動したあの時が十六年ぶりの再会だった。いつか母と一緒に暮らせる日を夢見ていたのに、命を狙われたのだからショックを受ける気持ちも分かる。
母は最初から、ガードナーさんと一緒に暮らすつもりなんてなかっただろう。入れ替えたのは、父の関心を引くためのように思えた。長女が自分の娘ではないのなら、もう一人子供を産む必要がある。それと同時に、自分に関心を持ってくれない父と、とんでもない秘密を共有した。母の作戦は成功し、私の知る限り二人の関係は良好だった。実の子ではない私を虐げることも、楽しんでいたのだろう。
何だか、ガードナーさんが気の毒に思える。
母が婚約する前から、二人は付き合っていた。愛する人を奪われ、愛する我が子を奪われ、我が子の為に主治医を辞め、母をずっと待ち続けていたのに、最後には命まで奪われそうになった。そう考えると、どれほど母が身勝手だったかを再認識した。
殿下はすぐにクライド伯爵夫妻を捕らえようとしたけれど、少しだけ待ってもらうことにした。ただ捕まえて罪を償わせるだけなんて、納得がいかない。
もうすぐ、オリビア様の誕生日だ。つまり、私の誕生日でもある。
毎年、オリビア様の誕生日パーティーが王宮で開かれる。私は一度も、両親に誕生日を祝ってもらったことはなかった。
その日私達は、本来の居場所へと戻る。
捕まえたリーダー格の男に、母宛に手紙を書いてもらうようにと伝言を頼んだ。『ケリーとガードナーを始末した』という内容の手紙だ。お金は先に受け取っているから、報告さえ済めば依頼は完了だった。これで、父も母も、全てが上手くいっているのだと思ってくれるはずだ。そして、私も動くことにした。
「ディアム様、殿下に伝えていただけませんか? 陛下に、お会いしたいと」
自分が何者なのかを知った時、必ずケリーを守ると誓った。今が、その時なのだと思った。どんなことをしても、ケリーを守り抜く。
ディアム様は、すぐに殿下に伝言を伝えてくれた。そして、返事が届いた。
「ケリー、やってもらいたいことがあるの」
王宮に行く前に、ケリーには手紙を書いてもらう。内容は、ケリーが知っている入れ替えの事実。ケリーには、私の考えを全て話してある。その上でケリーは、「これからもレイチェル様にお仕えすることが出来るなら、何でもいたします」と了承してくれた。
ケリーが書いてくれた手紙を持ち、馬車に乗り込む。馬車には、ディアム様も同乗している。
「一年前と比べると、ずいぶん顔付きが変わったな」
「それは、いい意味ですか? エリック様のことで悩んでいたのが、遠い昔のように感じます」
「いい意味に、決まっている。レイチェルが可愛いのは、ずっと変わっていないけどな」
一年前と変わったことは、もう一つある。
私の、ディアム様への気持ちだ。いつから、こんなに彼のことが気になるようになったのだろうか。最近は、側にいてくれることが当たり前になっていた。
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