7 / 42
7、ケリーの告白
しおりを挟むエリック様は、顔を真っ赤にしながら激怒している。彼に激怒される覚えはない。
「レイチェルに、近寄るなと言ったはずだが?」
エリック様から庇うように、ディアム様が私の前に立った。この前の近寄るなという発言は、本気だったようだ。
「君には関係ない! オリビアは、一週間の停学になった! レイチェルが、オリビアに何かしたからだろう!?」
学園長は、オリビア様を停学にしたようだ。オリビア様のことだから、侍女が勝手にしたことだと言い訳しただろう。オリビア様は王女だから、処罰されるのは侍女だけだと思っていた。停学にするとは、意外だ。
「エリック様には、何も見えていないのですね。うわべだけのオリビア様を信じ、中身を見ようともしない。部屋のドアに何度も悪口を書かれたので、その犯人を捕まえて学園長に引き渡しました。犯人は、オリビア様の侍女でした。それでも、私が何かしたと仰るのですか?」
エリック様への気持ちは、すでに消え去っている。それでも、学園に入るまで彼に救われていたのは事実だ。これ以上、幻滅させないで欲しい。
「そ……れが事実なら、その侍女が勝手にやったことだ! オリビアは、きっと知らなかったはずだ!」
「本気で仰っているのですか? オリビア様を大切に思っていらっしゃるなら、叱ることも必要です」
エリック様は納得した様子ではなかったけれど、何も言わずに教室から出て行った。
彼にとって、オリビア様がどんな存在なのかは分からないけれど、盲目的に信じるには危険な相手だ。
その日の放課後、学園長室に呼び出された。学園長室に入ると、そこには……
「失礼します……えっ……王妃様……!?」
この国の王妃様が、なぜか学園長室にいた。
「……あなたが、レイチェル?」
私の顔を見た瞬間、王妃様は一瞬驚いたように見えた。
「は、はい!」
まさか王妃様がいるとは思っていなかった私は、驚き過ぎて声が上ずってしまう。
「緊張しないで? 私はあなたに、謝りに来たのだから」
遠くからお姿を拝見したことはあったけれど、こんなに近くで見るのは初めてだ。すごく綺麗で聡明で、優しそうな方……
「謝る……とは?」
「オリビアが、迷惑をかけたそうね。本当にごめんなさい。甘やかしたせいか、わがままに育ってしまった。本人にも謝らせるつもりだけれど、私が直接謝りたかったの」
王妃様は、丁寧に頭を下げた。
一国の王妃様が、伯爵令嬢に頭を下げるなんて有り得ない。
「おやめ下さい、王妃様!」
慌てて止める私の顔を、王妃様はジッと見つめた。学園長室に入って来た時もそうだったけれど、王妃様の様子に違和感を感じる。
学園長は王妃様の妹君で、直接知らせたのだそうだ。侍女はオリビア様に命じられ逆らえなかったという点は考慮されたけれど、実行したのは事実。学園から追放され、職を解かれたそうだ。
問い詰めた時、オリビア様の命令だとは頑なに認めなかった。主人を守ろうとする侍女が、罰を受けなければならないのは少し可哀想だけれど、仕方がない。
「あなたの婚約者の話を聞いたわ。本当に、申し訳ないと思っているの。あの子はまだ、自分が病弱だと言っているのね……。主治医にも何度も診てもらったけれど、健康そのものなのよ。嫌な思いをさせてしまったわね」
オリビア様が私に嫌がらせされたと言い出してから、病弱だということを完全に信じていたわけではなかったけれど、健康そのものだとは思わなかった。彼女はそうまでして、何がしたいのだろうか。病気だからと誰かを繋ぎとめたところで、愛されているわけではない。
「婚約者のことは、本当の彼を知ることが出来たことに感謝しています。ですから、お気になさらないでください」
「そう言ってくれて、感謝するわ」
王妃様の笑顔は、どこか悲しげに見えた。
寮の部屋に帰ると、一気に気が抜けた。
「はぁ……緊張した……」
「お帰りなさいませ。何かあったのですか?」
「王妃様にお会いしたの。とてもお優しい方だったわ」
『王妃様』と口にすると、ケリーの顔色が変わった。
「……これ以上、レイチェル様を騙し続けることは、私には出来ません!」
騙す? 何のことなのか、私にはさっぱり分からない。
「ケリー?」
「レイチェル様のご両親は、クライド伯爵……旦那様と奥様ではありません!」
思いもよらなかったケリーの告白に、頭の中が真っ白になっていた。
1,237
あなたにおすすめの小説
八年間の恋を捨てて結婚します
abang
恋愛
八年間愛した婚約者との婚約解消の書類を紛れ込ませた。
無関心な彼はサインしたことにも気づかなかった。
そして、アルベルトはずっと婚約者だった筈のルージュの婚約パーティーの記事で気付く。
彼女がアルベルトの元を去ったことをーー。
八年もの間ずっと自分だけを盲目的に愛していたはずのルージュ。
なのに彼女はもうすぐ別の男と婚約する。
正式な結婚の日取りまで記された記事にアルベルトは憤る。
「今度はそうやって気を引くつもりか!?」
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi(がっち)
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話
甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。
王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。
その時、王子の元に一通の手紙が届いた。
そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。
王子は絶望感に苛まれ後悔をする。
【完結】ずっと、ずっとあなたを愛していました 〜後悔も、懺悔も今更いりません〜
高瀬船
恋愛
リスティアナ・メイブルムには二歳年上の婚約者が居る。
婚約者は、国の王太子で穏やかで優しく、婚約は王命ではあったが仲睦まじく関係を築けていた。
それなのに、突然ある日婚約者である王太子からは土下座をされ、婚約を解消して欲しいと願われる。
何故、そんな事に。
優しく微笑むその笑顔を向ける先は確かに自分に向けられていたのに。
婚約者として確かに大切にされていたのに何故こうなってしまったのか。
リスティアナの思いとは裏腹に、ある時期からリスティアナに悪い噂が立ち始める。
悪い噂が立つ事など何もしていないのにも関わらず、リスティアナは次第に学園で、夜会で、孤立していく。
〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】記憶を失ったらあなたへの恋心も消えました。
ごろごろみかん。
恋愛
婚約者には、何よりも大切にしている義妹がいる、らしい。
ある日、私は階段から転がり落ち、目が覚めた時には全てを忘れていた。
対面した婚約者は、
「お前がどうしても、というからこの婚約を結んだ。そんなことも覚えていないのか」
……とても偉そう。日記を見るに、以前の私は彼を慕っていたらしいけれど。
「階段から転げ落ちた衝撃であなたへの恋心もなくなったみたいです。ですから婚約は解消していただいて構いません。今まで無理を言って申し訳ありませんでした」
今の私はあなたを愛していません。
気弱令嬢(だった)シャーロットの逆襲が始まる。
☆タイトルコロコロ変えてすみません、これで決定、のはず。
☆商業化が決定したため取り下げ予定です(完結まで更新します)
旦那様。私が悪女ならば、愛人の女は何になるのかしら?
白雲八鈴
恋愛
我が公爵家主催の夜会の最中。夫が愛人を連れてやってきたのです。そして、私を悪女という理由で離縁を突きつけてきました。
離縁して欲しいというのであれば、今まで支援してきた金額を全額返済していただけません?
あら?愛人の貴女が支払ってくれると?お優しいわね。
私が悪女というのであれば、妻のいる夫の愛人に収まっている貴女は何なのかしら?
何年も相手にしてくれなかったのに…今更迫られても困ります
Karamimi
恋愛
侯爵令嬢のアンジュは、子供の頃から大好きだった幼馴染のデイビッドに5度目の婚約を申し込むものの、断られてしまう。さすがに5度目という事もあり、父親からも諦める様言われてしまった。
自分でも分かっている、もう潮時なのだと。そんな中父親から、留学の話を持ち掛けられた。環境を変えれば、気持ちも落ち着くのではないかと。
彼のいない場所に行けば、彼を忘れられるかもしれない。でも、王都から出た事のない自分が、誰も知らない異国でうまくやっていけるのか…そんな不安から、返事をする事が出来なかった。
そんな中、侯爵令嬢のラミネスから、自分とデイビッドは愛し合っている。彼が騎士団長になる事が決まった暁には、自分と婚約をする事が決まっていると聞かされたのだ。
大きなショックを受けたアンジュは、ついに留学をする事を決意。専属メイドのカリアを連れ、1人留学の先のミラージュ王国に向かったのだが…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる