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13、どうしてこんなことに…… ーデイジー視点ー
しおりを挟む結婚なんて、するんじゃなかった。
キール様と結婚してから、三ヶ月以上が経った。彼はあれから一度も会いに来ないばかりか、色々な女と浮気をしていると、見張りの使用人達が話していた。あの男は、ただの女好きだったということだ。
私があの男と関係を持たなければ、この生活を送るのはハンナのはずだったのに……
「デイジー、ハンナの結婚式に出なさい」
三ヶ月以上放置していたくせに、いきなり離れにやって来てそう言ったクーパー伯爵夫人。
なぜ私がその命令を聞かなければならないの? そうは思ったけれど、やっと外に出られるのだから、拒否する理由などない。
結婚式当日、渡されたドレスはあまりにもみすぼらしい。ドレスを着て鏡の前に立つと、自分の姿を見て驚愕した。
ボロボロの肌、ボサボサの髪、生気のない顔。
この三ヶ月間は、鏡なんて見ることがなかった。朝早く起こされ、子供の為の勉強をさせられる。食事は全て、お腹の子の為に用意されたメニュー。化粧をすることも、オシャレをすることも禁じられ、外の空気を吸うことも許されない。息が詰まりそうなこの邸で、会話出来る人間もいない。ここから逃げ出したとしても、お父様もお母様も助けてはくれないという現実に、私の心は壊れかけていた。
支度が終わると、クーパー伯爵が迎えに来た。言われるがまま馬車に乗り込むと、クーパー伯爵が一枚の書状を手渡して来た。
書状はアーロン様からのもので、私とクーパー伯爵家に慰謝料を請求するというものだった。
「これは……?」
こんな物を見せられたところで、私に払うお金などない。邸に軟禁され、自由を奪われ、さらにお金を払えというのか。
「お前が誓約書にサインなどしたから、慰謝料を請求されるようなことになった。お前など追い出してしまいたいところだが、腹にキールの子がいるのだからそうもいかない。ハンナを説得し、アーロンに慰謝料請求をなかったことにしてもらえ。出来なかったら、分かっているな?」
冗談じゃない……
ハンナに頼むなんて、絶対に嫌だ!!
そうは思っても、私は頷くことしか出来なかった。
式場に到着すると、沢山の貴族達がハンナの結婚を祝福する為に集まっていた。
私とキール様の結婚式とは全然違う。私がやりたかった結婚式を、ハンナがしていることに怒りが込み上げて来た。
控え室に行くと、あまりにも素敵なドレスに目眩がした。
許せない……許せない……許せない! 許せないっ!!
なぜハンナが、こんなに幸せそうなの!?
いつだって私が、ハンナよりも幸せだった。ハンナのものは、全部私のものだった。誰からも愛されているのは、私だったのに!!
両親は、私を見ようとはしない。当たり前よね!? 私がどんな目にあっているのか知っているのに、助けてくれなかったのだから。
ハンナを説得? 絶対に嫌よ!!
いつものようにハンナをバカにしたら、気持ちが良かった。言い返されたことには腹が立ったけれど、私はハンナを絶対に認めない。ハンナが私より幸せになるなんてありえない!!
クーパー伯爵は私がハンナを説得しなかったことを知り、激怒していた。
「お前、どういうつもりなんだ!?」
伯爵は激怒していたが、夫人は私を鋭い目付きで
睨み付けていた。
どういうつもりなんだと聞かれても、出来ることと出来ないことがある。私にとって、ハンナに媚びることは何よりも屈辱だった。
「……申し訳ありません」
謝ったところで、許してくれるとは思っていない。でも、私はキール様の子の母親だ。この子さえ産まれれば、きっとこの二人も、キール様も変わるはず。
そう思っていたけれど、子供が産まれる前に邸がなくなった。慰謝料と借金を払う為に、邸を売るしかなかったようだ。クーパー伯爵夫妻とキール様、そして私は、小さな家を借りて住むことになった。使用人を雇うお金なんてないから、家事を押し付けられた。大きなお腹で、こき使われる毎日。
借金だらけのキール様は、女性から相手にされなくなった。家に居ても、毎日お酒を飲んで愚痴を言っている。
私は愛されて、幸せに暮らすはずだった。それなのに、貴族だなんてお世辞にも言えない生活。何もしないくせに、料理が不味いとか掃除がなっていないとか文句ばかりの義理の両親。私の顔を見ようともせず、お酒ばかり飲んで働こうともしない夫。どうしてこんなことになってしまったのだろう……
数ヶ月後、私は女の子を出産した。
女の子……これでもう、爵位を子供に継がせることさえ出来なくなった。
こんな借金だらけの落ちぶれた伯爵家の令嬢と、結婚してくれる貴族なんて居ない。
入院するお金なんてないから、出産したその日に家に帰る。出産したというのに、誰一人来てはくれなかった。
病院を出ようとしたところで、一番会いたくないハンナと会ってしまった。
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