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番外編 クライド視点……ではなく、アンディ視点
しおりを挟む僕は孤児院で生まれた。名前はクライド。
孤児院で生まれたといっても、孤児ではない。
僕のお母さんはこの国の王妃で、お父さんは王様なんだそうだ。
今は王宮に戻ってきて、お母さんをひとりじめしてる。お父さんもまあまあ好きだけど、やっぱりお母さんが大好きだ。
お父さんは、僕がお母さんに抱っこされていると、羨ましそうに見てくる。僕からお母さんを奪おうとするなら、僕だって考えがある。
「ばぶばーぶー」
「まあ! クライドが、話そうとしています!」
ふっふっふっ!
これでお母さんは、僕に夢中さ。
お父さんを見ると、悔しそうにくちびるを噛みしめている。僕の勝ちだ。
「話そうとしたわけではなく、君に抱かれて喜んだだけだ。まだ赤ん坊なのだから、話せはしないよ」
負け惜しみ。
お父さんは、お母さんが僕を溺愛するのが嫌なんだ。僕をライバルだと思っている。
でも負ける気はしない。お母さんは、お父さんには渡さない。
「ばぶばぶばーぶー」
「やっぱり、話そうとしているわ! なんて可愛いのでしょう!」
お母さんは、僕だけのものだ………………
なんて、思っていそうだ。
クライドは私とロゼッタの息子で、もちろん愛している。ロゼッタのように、聡明な子に育つに違いない。
だが、心が狭いと言われようが、私はクライドに嫉妬している。
一年……ロゼッタを忘れたことなど、一瞬たりともなかった。彼女を取り戻す為に、一年会うのを我慢した。やっと彼女が王宮に戻ったというのに、一日にたった三十分だけしか彼女をひとりじめ出来ない。
仕事を終えるのが夜中になるから、夜も一緒に眠ることが出来ない日々が続いているというのに、クライドはずっとロゼッタの側にいられる。嫉妬するのは、当然ではないか……
「クライドは、私のことが苦手なようだ」
ロゼッタが抱いている時は嬉しそうにしているクライドだが、私が近寄ると不機嫌そうな顔をする。
「そんなことはありません。アンディ様も、抱いてあげてください」
ロゼッタが私にクライドを抱かせようとするが、クライドは泣き出してしまう。
「やはり、嫌われているようだ」
「赤ちゃんは、人の気持ちに敏感なんです。嫌われているのではなく、アンディ様がクライドと距離を置こうとなさっているのではありませんか?」
確かに私は、クライドにロゼッタを取られていると勝手に嫉妬をしている。こんな気持ちを抱いていては、嫌われるのも無理はない。
大切な我が子で、愛しているのだから、嫉妬するのはもうやめよう。
「クライド、さあおいで」
愛しい我が子を抱き上げ、幸せを実感した。私の腕の中で微笑んでくれる小さな天使。笑うとロゼッタに良く似ていて、余計に愛しさが込み上げてくる。
この子には、私達のような辛い思いをさせたりはしない。小さな私達の天使を、必ず守る。
「クライドは、アンディ様にそっくりです。この子を見ていると、出会った頃のアンディ様を思い出します」
私にそっくり……? それは……
もう一度腕の中のクライドに視線を向けると、ニヤリと悪い笑みを浮かべているように見えた。
これは気の所為だ……きっと、気の所為だと心の中でつぶやきながら、三十分が過ぎていた。
私の腕の中からロゼッタの腕の中に戻ったクライドは、「ケタケタケタ」と笑い声をあげていた。
ロゼッタにキスをされて喜ぶ我が子の姿を見ながら、クライドは最大のライバルだと悟った。
END
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ありがとうございます。
感想ありがとうございます。
辛い思いをした分、それ以上の幸せが待ってますね。
大団円!ですね🥰
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お疲れ様でした!
全てが終わって、ロゼッタも戻って来て、子供も出来て幸せいっぱいですね( *ˊᵕˋ*)
実はアンディは甘えん坊だった笑
親子3人の僅かな時間の光景が
浮かんで来て(笑)💕
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これからは愛しい母子と一緒なの
だから…ほのぼの〜✨
ありがとうございます🐶
子供がもう少し大きくなったら、本当に取り合いしちゃいそうですよね笑
ロゼッタだけでなく、臣下たちにも呆れられる未来が(>ᴗ<)