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番外編 甘い時間
しおりを挟む王宮に戻って来て、一ヶ月が過ぎた。
まだまだアンディ様は書類仕事に追われていて、一緒に過ごせる時間があまりなかった。
「ロゼッタ不足で、もう頑張れない……」
それでも、時間を作って会いに来てくれる。二人きりになるとすごく甘えてくれて、こんな姿を見せてくれるのは、私にだけなのだと思うと顔がニヤケてしまう。
「アンディ様は、クライドよりも甘えん坊ですね」
ソファーに座っている私の太ももの上に頭を乗せて横になるアンディ様の頭を、よしよしと撫でてあげると、気持ちよさそうに目を閉じる。
本当はものすごく恥ずかしいけれど、一年会えなかった上にたまりまくった仕事を頑張っているアンディ様を、癒してあげたかった。
アンディ様が部屋に来た時は、アビーがクライドを散歩に連れて行ってくれる。たった三十分の、二人きりの時間。三十分と短い時間だからこそ、彼の要望に出来るだけ応えてあげたい。
「クライドは、一日中ロゼッタをひとりじめしているのだから、少しくらいは私だけのロゼッタでいてくれ」
アンディ様の自由に出来る時間は、一時間だけ。午前の三十分は二人きりで過し、午後の三十分は親子三人で過ごす。あまり休める時間がなくて、アンディ様の身体が心配になる。
「クライドに嫉妬ですか?」
「クライドも、男だからな」
冗談のつもりだったのに、思いもよらない答えが返ってきた。
拗ねたように唇を尖らせながら、私の顔を見上げる。
「アンディ様は、分かっていませんね。私が、どれほどアンディ様を想っているのか……。
こんなに胸が高鳴るのは、アンディ様だけです。クライドに、胸が高鳴ったりはしないでしょう?」
アンディ様は手を伸ばし、私の頬に触れた。
「私の胸も、ずっと高鳴っている。だが、不安なんだ。君がまた、私の側から離れて行ってしまうのではと……」
頬に触れている彼の手に自分の手を重ねる。
「もう二度と、アンディ様のお側を離れたりしないとお約束します。だから、安心してください」
アンディ様が望むなら、いつまでも側に居たい。こんなにも自分が、欲張りになってしまうなんて思わなかった。
「じゃあ、約束の証としてキスをして欲しい」
「…………え?」
彼は目を閉じたまま、私からキスをするのを待っている。自分からキスをするなんて、恥ずかし過ぎる。
戸惑いながら彼の顔を見ると、眠っているように見える。そして、あの別れのキスを思い出した。
王宮から出て行く時、私はアンディ様の額にキスをした。その時の感情が蘇り、胸が苦しくなる。
あの時とは、私の気持ちが変わっていた。彼から離れるなんて、考えられなくなっていた。
額にはキスしたくなかった私は、彼の頬にそっとキスをする。すると、彼は唇を突き出した。どうやら、口にしろということのようだ。
私は彼に弱い。ゆっくりと顔を近づけて、ちゅっと唇にキスをした。
上半身を起こすと、彼も起き上がり、
「足りない……もっとだ……」
そう言って甘い甘いキスをされた。
悲しいキスを忘れるほど甘いキスに、頭がぼーっとして来る。
「愛してる、ロゼッタ」
「……私も、愛しています」
たった三十分。彼との甘い時間は、あっという間に過ぎていく。それでも、最高に幸せな三十分。
END
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