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20、変わり始めた生活
しおりを挟むあれから一週間が経ち、証拠として持ち帰った本に書いてあった人達は次々に父を裏切って証言をして行った。
そもそも、父が恐ろしくて従ってしまった貴族が多く、父に忠誠を誓っていたわけではないのだから、裏切るのは必然だった。
ブレナン侯爵達がアンディ様の味方になったことで、さらに父を見限る貴族は増えていき、父はもう国王よりも恐れられる存在ではなくなっていた。
王宮で働く者達も、以前働いていた使用人達に戻って来てもらい、ようやくこの国は本来の姿を取り戻し始めていた。
父とマルセン公爵、そして暗殺に関わった者達以外の罪を犯した貴族達は、降格処分や財産没収などの刑が下された。
リジィの父であるフォード子爵は、マルセン公爵と裏で繋がっていた。マルセン公爵はリジィに王子を産ませ、アンディ様を暗殺し、自分が影の王になるつもりだったようだ。フォード子爵とリジィは全てを暴露したことで処刑を免れ、爵位を剥奪されてリジィと共に国外追放となる。
マルセン公爵と暗殺に関わった貴族達は、死罪を言い渡され、義母のサーシャは採掘場送りになることが決まった。
そして父はもっとも重い罪と判断され、公開処刑される。
リジィが追放される日が訪れ、フォード子爵と共に荷台に檻が設置された荷馬車へと乗せられる。
国中に、『国王を騙した悪女』という噂が広まっていた。
国から出るまで、国民からの罵倒に晒され続けることになる。どんなに心が強い者でも、国を出る頃には病んでしまうだろう。
私には、リジィがアンディ様の命を奪おうとしていたとは思えない。彼女は、マルセン公爵を裏切り、自分が主導権を握るつもりだったのだと思う。愛も権力も、両方手に入れたかったのだろう。
最後に会いたいと伝言をもらい、荷馬車の鉄格子越しにリジィと向かい合う。
「あなたなら、来ると思っていたわ。これで勝っただなんて、思わないで。あの日、私が先にアンディ様と出会っていたら、結末は違っていたはずよ! あなたはただ、私よりも先に出会ったというだけ」
最後までリジィらしい。
勝ち負けなんて、どうでもいい。
リジィがもしも、こんな手を使わずにアンディ様を心から慕っていただけだったら、私は全力でリジィを守ったわ。けれどあなたは、アンディ様に相応しくない。ただ、それだけ……
「違うな」
振り返らなくても、誰の声なのか分かる。
最近のアンディ様は、突然現れるから心臓に悪い。
「たとえロゼッタよりも先にリジィに会っていたとしても、リジィに恋はしない。お前には、何も感じないからだ。だが、ロゼッタは違った。憎むべき相手だと頭では分かっていても、惹かれていくのを止めることが出来なかった」
私の演技が下手だったと反省するべきなのかもしれないけれど、アンディ様の気持ちが嬉し過ぎて胸が熱くなる。
「そんなの……信じない……」
リジィはそれきり、口を閉ざして下を向いた。荷馬車が出発しても、彼女が私達を見ることはなく、そのまま荷馬車は見えなくなった。
「陛下は、なぜここに?」
リジィはきっと、アンディ様に惨めな姿を見られたくはなかったはず。だから、彼女がアンディ様に会いたいと伝えるはずがない。
「君がここに来るのが見えたから、またリジィに酷いことを言われるのではと思ってね」
「陛下、過保護過ぎます。私はそれほど弱くありません」
「何と言われようが、私がそうしたいんだ。諦めてくれ」
逃がさないと言わんばかりに、アンディ様は私の手を握った。
こんなに大切にされることに慣れていなくて、どう応えたらいいのか分からない。そのまま彼の手を、握り返すのが精一杯だった。
「最近は忙しくて、食事の時くらいしか一緒に居られなかったが、これからは二人の時間を増やして行く」
アンディ様と私の関係も変わり、あれから毎日食堂で一緒に食事をしている。
確かに毎日忙しくしているアンディ様だけれど、前よりもイキイキしているように見える。
私も彼のことを支えられていることが嬉しくて、一日一日を大切に過ごしていた。
あとどれ位一緒にいられるのかは分からないけれど、確実に別れの日が迫っている。
その日、アンディ様に寝室で待つようにと言われた。その意味は、私にも分かっている。
どうすればいいのか必死で考えたけれど、時間までに答えは出せなかった。
答えが出ないまま寝室に入り、アンディ様を待つ。
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