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19、ロゼッタの笑顔
しおりを挟む王宮に戻ると、アビーとサナが出迎えてくれた。
「ロゼッタ様!!」
不安そうな表情を浮かべながら駆け寄ってきた二人に、心配いらないと笑顔を見せる。
「心配かけて、ごめんなさいね。陛下が、助けて下さったの」
私達に気を使ってくれているようで、アンディ様は少し離れたところから見守ってくれている。
こんな扱いはされたことがないからか、何だかくすぐったい。
その後、部屋までアンディ様が送ってくれた。
「話したいことが、たくさんある。だが、今日はゆっくり休んでくれ。なんなら、添い寝してもいいが?」
「け、結構です! お言葉に甘えて、休ませていただきます!」
急にそんなことを言われて、動揺する私を見ながらアンディ様は微笑んでいる。からかわれているのだと分かっていても、大好きな人にそんなことを言われたら動揺するに決まっている。
「これが、君の素なのだな。ずっと君は俺に対して演技をしていたから嬉しいよ」
「今まで失礼な態度をとってしまい、申し訳ありませんでした」
「謝るのは、私の方だ。君の本心に気付くことが出来ず、すまなかった」
嫌悪や憎悪を抱いていない、愛しい者を見るような……そんな顔で、彼は私を見ている。それが、嬉しくないはずがない。けれど、胸が苦しくなって彼から目を逸らす。
「そう望んだのは私です。陛下は、何も悪くありません」
出来ることなら、アンディ様にはあのまま知らずにいて欲しかった。
「それでも……いや、まあいい。新しく料理長を雇ったから、食事の心配はせずに身体を休めてくれ」
「……食事を作っていたのが、私だということもご存知だったのですか?」
何もかも知られているなんて、何だか恥ずかしくなる。
「君の淹れてくれたお茶を飲んだ時、すぐに気付いた。とても温かくて、優しい味がしたんだ。また、お茶を淹れてくれるか?」
お茶を飲んだだけで、私が食事を作っていたと気付くなんて……
「はい。また、執務室にお持ちしますね」
名残惜しそうに部屋から出て行くアンディ様の後ろ姿を見つめながら、自分が普通の女の子になれたような気がした。
今だけは、幸せを噛みしめていたい。
◇ ◇ ◇
アンディがブルーク公爵を軟禁した少し後、マルセン公爵も軟禁されていた。この二つの公爵をおさえていれば、誰も抵抗はしないだろう。
マルセン公爵邸には、義母のサーシャが居た。リジィの件は、マルセン公爵も関わっていた。
ロゼッタが見つけた証拠を元に、罪人を次々に捕らえるようにアンディは命じた。
前国王と前王妃を毒殺した者と、ロゼッタの母を毒殺した者は、すでに始末されていたが、実行犯を手配した者はまだ生きている。
あまりにも多くの貴族が、ブルーク公爵の悪事に関わっていたことに、アンディは頭を抱えた。
◇ ◇ ◇
翌朝、激しいノックの音に目を覚ました。
「ちょっと! 開けなさいよ!!」
私の部屋のドアを壊れそうなほど、ドンドンと叩いているのはリジィ。
これ以上騒がれても迷惑なのでドアを開けると、顔を見た瞬間、彼女の右手が私の左頬に振り下ろされた。ジンジンしていた頬が、さらにジンジンしている。
「あなたいったいアンディ様に何をしたのよ!?」
殴っただけでは気がすまず、あんなに可愛らしかったリジィが、鬼のような形相で私に詰め寄ってくる。なりふり構わずで、口調まで変わっていた。
「何をしている!?」
リジィの後ろには、アンディ様の姿があった。どうやらアビーが、アンディ様を呼びに行ってくれたようだ。
息を切らしているところをみると、急いで駆け付けてくれたのだと分かる。
「ア、アンディ……様……!? これはその……王妃様が、私を……いえ、王妃様が……」
必死に頭をフル回転しているのだろうけれど、こんなところを見られてしまったのだから、言い訳など出来るはずもない。
「黙れ! お前は何様だ!? ロゼッタは、王妃だ。王妃に手をあげ、無礼な態度を取るなど許すことは出来ない!」
アンディ様の激怒する姿を見て、涙ぐむリジィ。
「……アンディ様……私……」
「もう演技はやめろ。サーシャ・ブルークが、全て自白した。その意味は、分かるな?」
それを聞いた瞬間、リジィの涙は止まった。
私が眠っている間に、義母が自白していたなんて……。自分が一番大事な人だったから、助かる為にそうしたのだろう。
「………………」
リジィは、何も答えようとはしなかった。
「デイモン、リジィを自室に軟禁しろ」
大人しくドリアード侯爵の後をついて行くリジィ。アンディ様を騙してはいたけれど、リジィはアンディ様を愛していた。
今までの彼女は全て演技だったのかもしれないけれど、去り際に一瞬だけ見せた切なげな表情は本物だったと思う。それが分かるのは、私もアンディ様を愛しているから。
「守ると約束したのに、すまない……」
彼の手が、私の左頬に触れる。不思議と、痛みが薄れるような気がした。
「私がリジィの名を騙らなかったら、こんなことにはなっていません。私のせいで、陛下に嫌な思いを……申し訳ありません」
「私達は、謝ってばかりだな」
「ふふっ、そうですね」
アンディ様は、真剣な眼差しで私をジッと見つめた。
「やっと笑ってくれた。侍女には笑顔を見せるのに、私には見せてくれないから悲しかった。君の笑顔は、とても美しい」
彼に見つめられ、甘い言葉を言われ、心臓の鼓動が早くなる。
彼の仕草一つ一つが愛しくて、どうしようもなく愛しているのだと実感していた。
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