〖完結〗あなたに愛されることは望みません。

藍川みいな

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3、アンディの決意

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 「離れに住んでいたみすぼらしい子が、王妃だなんておかしなものね」

 おかしいと言いながら、顔は笑っていない。義母は、ずっと私をバカにしていた。義母といっても、歳は私とそれほど変わらない。
 義母は、自分が王妃になりたかったのだろう。でも、そんなことを父が許すはずがない。ブルーク公爵家の次に力を持つ、マルセン公爵家の力が増してしまうからだ。義母と結婚した理由は、マルセン公爵家の力を手に入れる為。これで父には恐れるものなど、何もなくなったというわけだ。
 
 「お義母様が、こちらへいらっしゃるとは思っていませんでした。今日は、どうされたのですか?」

 勝手に部屋に入り、勝手にソファーに座り、勝手にアビーにお茶を用意するよう命じていた。
 王妃とは名ばかりであっても、無礼にもほどがある。

 「お前の様子を、見に来たのよ。私に子が出来なかったからと、お前のような者を王妃にしなければならなかったことが悔やまれるわ」

 そんなことを言いに、わざわざ来たのだろうか。
 私が部屋に入っても、義母はソファーに座ったまま足を組んでお茶を飲んでいる。この状況は、邸にいた時の状況そのもので、私は腰を下ろすこともお茶を飲むことも許されない。テーブルを挟んで、義母の前に立ったまま話を聞く。

 「私は、お父様とお義母様の道具に過ぎません」

 そう……私は、道具だ。絶対に逆らわない、従順な道具。義母にも、信頼されなければならない。
 アンディ様を守る為なら、どんな屈辱にだって耐えられる。

 「私の、道具……か。それが、お前の本心なのか?」

 表情一つ変えずに、ソファーに座る義母の前に跪く。

 「ご用がありましたら、なんなりとお申し付けください。お義母様とお父様の為でしたら、なんだっていたします」

 義母は満更でもない顔をしながら、ソファーから立ち上がると、私の前に立った。

 「いい心がけね。そんなに離れに戻されたくないのね。その顔は気に食わないけれど、まあいいわ。旦那様からの伝言よ。『早く子を作れ』と。帰るわ」

 跪いたままの私の頭に、飲み終わったティーカップを乗せて部屋から出て行った。アビーがすぐに片付けようとしたけれど、義母が王宮から出るまでそのままにさせた。どこに義母のがあるか、分からない。慎重に行動するに越したことはない。

 今は、味方を増やすことを考えよう。
 それにしても、まだ王宮に入って数日しか経っていないというのに、子を作れとは早過ぎる。まさか、初夜をアンディ様と過ごしていないことが知られてしまったのだろうか……

 怪しまれない為に、行動を起こすことにした。

 その行動とは……

 「何しに来た?」

 私の顔など見たくないと、ハッキリ顔に書いてある。結婚初日よりも、嫌悪感が増しているようだ。

 「今日から毎日、陛下と寝所を共にいたします。これは、私の父であるブルーク公爵の命令です」

 ここは、アンディ様の私室。
 寝室に来ていただけないのなら、私から来るしかない。アンディ様が、私を抱くことはないと分かっている。彼と夜を共にしている事実が必要だった。

 「……命令か。私はソファーで寝る。お前は、ベッドで寝るといい」

 諦めたように、ソファーに移動しようとするアンディ様。

 「いいえ、私がソファーで寝ます。陛下の匂いがするベッドで、寝るつもりはありません」

 「な!? シーツはかえているはずだ! 私の匂いなど、するはずがない!」

 王妃になってから、嫌悪と憎悪の眼差ししか向けられていなかったからか、少し慌てた姿を見ることが出来て嬉しかった。

 「それでも、ベッドはお断りします。明日も早いので、先に休ませていただきます」

 「……勝手にしろ」

 ソファーに横になると、すぐに眠気に襲われた。アンディ様が近くに居たら、緊張して眠れないと思っていたけれど、あの大きくてふかふかなベッドで寝るよりも、ソファーで寝た方が落ち着くなんて……

◇ ◇ ◇
 
 ────すやすやと寝息をたてながら眠るロゼッタ。アンディはロゼッタを見下ろしながら、首を傾げた。

 「私と夜を共にするつもりで、来たのではないのか? ……変わった女だ」

 寝所を共にすると言いながら、さっさとソファーで寝てしまったロゼッタをアンディは不思議に思っていた。
 ロゼッタを抱き上げ、ベッドに寝かせる。

 「たとえ敵でも、女をソファーに寝かせる気はない」

 ロゼッタをベッドに寝かせると、アンディはソファーで横になる。
 アンディには、ロゼッタが何を考えているのか分からなくなっていた。監視をしたと思ったら、寝所を共にすると言ってきたり、かと思うとソファーで爆睡。

 「私が、復讐の為に殺そうとするとは考えないのだろうか……」

 無防備に眠るロゼッタに、苛立ちを覚える。
 自分には、殺す度胸さえないと思われているように感じているようだ。

 何もかもが言いなりの人生。その人生を、アンディは終わらせる決意をしていた。
 死を覚悟したわけではない。一国の王として、一人の男として、生きる決意。

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