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シレディ伯爵 ―ダリア視点―

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 こんな山奥に1人で住んで、本当に惨めね!
 
 「ライアン、さっさと帰るわよ!」

 ライアンはシレディ伯爵家の使用人になっていた。あの邸を離れたくなかったからだ。
 そしてそこに、ダリアが後妻として来た。

 「こんな山奥にお嬢様をお連れした事が、旦那様に知られたら大変です。急いで帰りましょう。」

 どうせライアンも、この子(マリアナ)がお姉様に似てるから大切なんでしょ。どいつもこいつも、お姉様の事ばかり! お姉様は死んでからも鬱陶しい!!

 ライアンはマリアナがシュリルに似ているから大切にしているわけではなく、使用人の仕事をしているだけだった。
 確かに、マリアナはシュリルを幼くした感じでよく似てはいるが、性格が全く違う。4歳にして、ライアンにはかなりの悪女に思えていた。
 ライアンはシュリルの見た目を愛したわけではなく、使用人の自分にも優しく接してくれて、温かい笑顔を向けてくれたシュリルを愛していた。
 見た目が似ているからといって、シュリルの代わりだなどとは思わない。
 
 「おかあさまは、ずっと一緒にくらすの?」
 
 マリアナが突然、私の顔を見上げながら言ってきた。お姉様にそっくりなこの子を、私は愛せないでいた。

 「どうしてそんな事を聞くの? もちろん、ずっと一緒に暮らすわよ。あなたが、侯爵家に嫁ぐまでは。」

 この子は嫌いだけど、いずれ侯爵家に嫁ぐのだから、大切にしなくちゃ。

 「でもおとうさまは、もうすぐおかあさまがいなくなるって言ってたわ。」

 はあ!? どういう事!?
 なんで私がいなくなるの!?

 急いで邸に戻り、旦那様の帰りを待っていた。
 だけど、いつまで待っても一向に帰って来ない…… 
 旦那様が帰宅したのは、翌日の昼でした。

 「旦那様!! 昨日はどうして帰宅されなかったのですか!?」

 帰宅した旦那様を問いつめた。

 「私が何をしてようとお前には関係ないが、教えてやる。
 愛人の所に行っていた。これで満足か?」

 愛人……? 今、愛人って言った!?
 あんたいくつよ!? 60歳にもなって、まだ愛人を作るなんて……

 「愛人なんて、いらないではありませんか。私がずっとお側にいます。」

 そう言って、ダリアはシレディ伯爵に寄り添おうとすると、シレディ伯爵はダリアを払い除けた。

 「何か勘違いしているようだな。私はお前など愛していない。他の男の愛人だった女を、本気で愛するとでも思っていたのか? 私はただ、子が欲しかっただけだ。」

 私だって、こんなジジイを愛してるわけないじゃない! 若くて美しい私が、ジジイの妻になってやったのに!! 

 「そろそろ、いい頃合いだな。この邸を出て行きなさい。次の妻は、とても美しくて穏やかな性格なんだ。それに、お前みたいな男爵令嬢とは違い、正真正銘の令嬢だ。彼女と生涯を共にする。それと、マリアナを連れて行く事は許さない。お前だけ出て行きなさい。これは手切れ金だ。」

 袋に入った金を、無造作にダリアの足元に投げ捨てた。

 「ふざけないで! マリアナは私の子よ!! フーラル侯爵が黙っていないわ!!」

 フーラル侯爵とは、マリアナの婚約者の父親だ。

 「フーラル侯爵は、既にご存知だ。お前と結婚したのも、マリアナを養子にする為だ。私には息子1人しか居ない。息子の為に、他の貴族と親類関係になりたかった。お前は用済みなんだよ。」

 フーラル侯爵は全部承知の上で、莫大な財産を持つシレディ伯爵との縁組を喜んで受け入れた。

 「ライアン、この小汚い女をつまみ出せ。」
 
 シレディ伯爵は嫡子を授かった後、他に子が出来ずに悩んでいた。シレディ伯爵には親族がおらず、養子を探していた矢先に子を連れたダリアと出会い、結婚をした。
 女性好きなシレディ伯爵だったが、まっさらで純粋な女性が好みだった。他の男の愛人だったダリアを愛する事は有り得なかったのだ。
 ライアンは全て知っていたが、ダリアに教えようとはしなかった。シュリルを苦しめたダリアを、許す事が出来なかったからだ。

 「またつまみ出されるとは、お気の毒ですね。」

 ダリアはライアンを、キッと睨みつけてから金の入った袋を拾い、自ら邸を出て行った。

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