〖完結〗もう私に関わらないでください!

藍川みいな

文字の大きさ
上 下
27 / 44

27、かけがえのない人

しおりを挟む

 「全く、危なっかしいな」

 リオン王子は、はぁ……とため息をつき、ベッドの横に置いてあるイスに腰かけました。
 申し訳ありません……そう言いたいけれど、まだ声が出せそうにありません。

 「いつもの憎まれ口が聞けないのは寂しいけど、これはこれでいいかもしれないな」

 リオン王子はじっと私の目を見つめて来ました。恥ずかしくて目をそらしたいけど、真剣な眼差しから目が離せそうにありません。

 「今日は言い返せないようだから、俺が一方的に話す事にする。
 もう二度と、無茶なことはするな。どれだけ心配したか分かるか? 話は全て、シェイドから聞いた。俺がいない間に、こんな事になっているなんて……」

 リオン王子は悲しそうな表情を浮かべました。
 リオン王子……ごめんなさい……
 
 「あの日、まさか君がバルコニーから飛び降りるなんて思いもしなかった」

 思いもよらなかった言葉に、耳を疑いました。まさか、リオン王子にも前の記憶があるというのですか!?

 「あの日、階段から落ちた怪我ではない事に気付き、君が怯えているように見えた。
 臣下の妻だからと気持ちを抑えていたが、ずっとティアナが好きだった。バルコニーで風に当たりたいと言った君から、エリックを引き離さなくてはと思い、エリック引き止めた事を後悔した。まさか、君が死ぬつもりだったなんてな。
 君にも記憶が残っているんだろ? だから、前とは違う行動を取り続けている」

 こんなにも私の事を考えてくれていた方を、私は信用しませんでした。時が巻き戻ってからも、リオン王子を信じることが出来なくて冷たく接してしまいました。
 リオン王子が初めて邸に来た時は、エリック様よりも先に出会いたいと思ってくれたからだったのですね。
 あの日、死を選ぶことをせずに、リオン王子に助けを求めていたら、私は死なずに済んだのかもしれません。

 「今度こそ、絶対に君を守ってみせる。君のそばにいることを、どうか許して欲しい」

 私はすでに、リオン王子に心を奪われています。私にとって、あなたはかけがえのない人になっていました。
 
 「さあ、帰ろうか。こんな所に、長くいたくはないだろ?」

 リオン王子は私を抱きかかえ、邸の外に待たせていた馬車へと乗せました。

 「力が入らないようだから、揺られないようにとなりに座るぞ。決して下心があるわけじゃないからな?」 

 そんな言い訳をしなくても、分かっていますよ。

 「出してくれ。あまり揺らさないように、ゆっくり頼む」

 馬車はゆっくりと走り出し、ベントン侯爵邸をあとにしました。邸に着くまでの間、リオン王子は私の体を優しく抱きしめてくれていました。
 トクトクトク……リオン王子の心臓の音が聞こえて来ます。少し早いみたいです。私に、ドキドキしてくれているのでしょうか。リオン王子の心臓の鼓動を聴きながら、いつの間にか眠りについていました。

しおりを挟む
感想 61

あなたにおすすめの小説

大好きなあなたを忘れる方法

山田ランチ
恋愛
あらすじ  王子と婚約関係にある侯爵令嬢のメリベルは、訳あってずっと秘密の婚約者のままにされていた。学園へ入学してすぐ、メリベルの魔廻が(魔術を使う為の魔素を貯めておく器官)が限界を向かえようとしている事に気が付いた大魔術師は、魔廻を小さくする事を提案する。その方法は、魔素が好むという悲しい記憶を失くしていくものだった。悲しい記憶を引っ張り出しては消していくという日々を過ごすうち、徐々に王子との記憶を失くしていくメリベル。そんな中、魔廻を奪う謎の者達に大魔術師とメリベルが襲われてしまう。  魔廻を奪おうとする者達は何者なのか。王子との婚約が隠されている訳と、重大な秘密を抱える大魔術師の正体が、メリベルの記憶に導かれ、やがて世界の始まりへと繋がっていく。 登場人物 ・メリベル・アークトュラス 17歳、アークトゥラス侯爵の一人娘。ジャスパーの婚約者。 ・ジャスパー・オリオン 17歳、第一王子。メリベルの婚約者。 ・イーライ 学園の園芸員。 クレイシー・クレリック 17歳、クレリック侯爵の一人娘。 ・リーヴァイ・ブルーマー 18歳、ブルーマー子爵家の嫡男でジャスパーの側近。 ・アイザック・スチュアート 17歳、スチュアート侯爵の嫡男でジャスパーの側近。 ・ノア・ワード 18歳、ワード騎士団長の息子でジャスパーの従騎士。 ・シア・ガイザー 17歳、ガイザー男爵の娘でメリベルの友人。 ・マイロ 17歳、メリベルの友人。 魔素→世界に漂っている物質。触れれば精神を侵され、生き物は主に凶暴化し魔獣となる。 魔廻→体内にある魔廻(まかい)と呼ばれる器官、魔素を取り込み貯める事が出来る。魔術師はこの器官がある事が必須。 ソル神とルナ神→太陽と月の男女神が魔素で満ちた混沌の大地に現れ、世界を二つに分けて浄化した。ソル神は昼間を、ルナ神は夜を受け持った。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

【完】愛人に王妃の座を奪い取られました。

112
恋愛
クインツ国の王妃アンは、王レイナルドの命を受け廃妃となった。 愛人であったリディア嬢が新しい王妃となり、アンはその日のうちに王宮を出ていく。 実家の伯爵家の屋敷へ帰るが、継母のダーナによって身を寄せることも敵わない。 アンは動じることなく、継母に一つの提案をする。 「私に娼館を紹介してください」 娼婦になると思った継母は喜んでアンを娼館へと送り出して──

婚約者から婚約破棄をされて喜んだのに、どうも様子がおかしい

恋愛
婚約者には初恋の人がいる。 王太子リエトの婚約者ベルティーナ=アンナローロ公爵令嬢は、呼び出された先で婚約破棄を告げられた。婚約者の隣には、家族や婚約者が常に可愛いと口にする従妹がいて。次の婚約者は従妹になると。 待ちに待った婚約破棄を喜んでいると思われる訳にもいかず、冷静に、でも笑顔は忘れずに二人の幸せを願ってあっさりと従者と部屋を出た。 婚約破棄をされた件で父に勘当されるか、何処かの貴族の後妻にされるか待っていても一向に婚約破棄の話をされない。また、婚約破棄をしたのに何故か王太子から呼び出しの声が掛かる。 従者を連れてさっさと家を出たいべルティーナと従者のせいで拗らせまくったリエトの話。 ※なろうさんにも公開しています。 ※短編→長編に変更しました(2023.7.19)

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

(完結)貴方から解放してくださいー私はもう疲れました(全4話)

青空一夏
恋愛
私はローワン伯爵家の一人娘クララ。私には大好きな男性がいるの。それはイーサン・ドミニク。侯爵家の子息である彼と私は相思相愛だと信じていた。 だって、私のお誕生日には私の瞳色のジャボ(今のネクタイのようなもの)をして参加してくれて、別れ際にキスまでしてくれたから。 けれど、翌日「僕の手紙を君の親友ダーシィに渡してくれないか?」と、唐突に言われた。意味がわからない。愛されていると信じていたからだ。 「なぜですか?」 「うん、実のところ私が本当に愛しているのはダーシィなんだ」 イーサン様は私の心をかき乱す。なぜ、私はこれほどにふりまわすの? これは大好きな男性に心をかき乱された女性が悩んで・・・・・・結果、幸せになったお話しです。(元さやではない) 因果応報的ざまぁ。主人公がなにかを仕掛けるわけではありません。中世ヨーロッパ風世界で、現代的表現や機器がでてくるかもしれない異世界のお話しです。ご都合主義です。タグ修正、追加の可能性あり。

忘却令嬢〜そう言われましても記憶にございません〜【完】

雪乃
恋愛
ほんの一瞬、躊躇ってしまった手。 誰よりも愛していた彼女なのに傷付けてしまった。 ずっと傷付けていると理解っていたのに、振り払ってしまった。 彼女は深い碧色に絶望を映しながら微笑んだ。 ※読んでくださりありがとうございます。 ゆるふわ設定です。タグをころころ変えてます。何でも許せる方向け。

蔑ろにされた王妃と見限られた国王

奏千歌
恋愛
※最初に公開したプロット版はカクヨムで公開しています 国王陛下には愛する女性がいた。 彼女は陛下の初恋の相手で、陛下はずっと彼女を想い続けて、そして大切にしていた。 私は、そんな陛下と結婚した。 国と王家のために、私達は結婚しなければならなかったから、結婚すれば陛下も少しは変わるのではと期待していた。 でも結果は……私の理想を打ち砕くものだった。 そしてもう一つ。 私も陛下も知らないことがあった。 彼女のことを。彼女の正体を。

処理中です...