〖完結〗もう私に関わらないでください!

藍川みいな

文字の大きさ
上 下
8 / 44

8、私の決断

しおりを挟む

 いよいよ舞踏会に向かいます。
 真っ赤なドレスに身を包んだ私は、まるで血まみれのようでした。
 
 「ティアナ、すごく綺麗だよ! さすが、俺の妻だ!! 君と結婚出来て、俺は最高に幸せだ!」

 左腕には包帯が巻かれているのに、よくそんな言葉が言えますね。これが幸せな姿なのでしょうか? この人は、狂ってるいます。

 私達は馬車に乗り込み、舞踏会が開かれる王城へと出発しました。
 久しぶりに外に出ることが出来たけれど、見慣れた風景も、今はもう別世界のように感じます。どうしてこうなってしまったのか……なんて、考えても仕方がありません。
 本性を表に出さなかっただけで、最初からエリック様はこういう人だったのですから。

 今日、お父様達は来るのでしょうか?
 最後に会いたいという気持ちはありますが、出来れば来て欲しくありません。私が死ぬところなんて見せたくない。
 私には、今日しかないのです。次はいつ、こんなチャンスが巡ってくるか分かりません。殴られることは耐える事が出来るかもしれませんが、また犯されるかと思うと……
 それに、また私のせいで誰かが死ぬかもしれません。そんなの、もう耐えられません。

 「もうすぐ着くな。ティアナ、分かっているとは思うが、余計なことを言うなよ?」

 「……はい」

 安心してください。何も言ったりはしません。私はあなたの前から消えます。


 会場へ到着すると、エリック様はピッタリくっついて、私から離れようとはしませんでした。

 「あら、腕をどうされたのですか?」

 「階段から落ちてしまったのです。妻はそそっかしくて困ります」

 当たり前ですが、皆さん、同じ質問をして来ます。普通、こんな状態なら舞踏会は欠席します。踊ることも出来ませんし。
 今日は殿下が私に会いたいと仰ったから、どんな状態でも連れて来るしかなかったのです。
 殿下のおかげで、エリック様は今の地位にいられるのだから、逆らうことなど出来ません。
 殿下に全てをお話して助けを求めたら……そう考えもしましたが、殿下がエリック様の味方についたら? お父様とお母様を危険に晒してまで、自分を守ろうとは思いません。
 どうにかして、エリック様から離れなくては……

 そんな事を考えながら歩いていると、誰かの肩にぶつかってしまいました。少し体勢を崩してしまった私を受け止めてくれたのは、殿下でした。

 「あ、ありがとうございます」

 殿下が私に触れてしまいました……

 「殿下!? 申し訳ありません!!」

 殿下の腕の中から、慌てて私を取り返すエリック様。私の肩を抱く手がすごく痛いです。まさか、殿下を殺そうとは思っていないと思いますが、怒っているのは確かです。

 「その腕……どうしたのですか?」

 今日、何度目の同じ質問でしょうか。

 「階段から落ちてしまったのです。妻はそそっかしくて困ります」

 そして、エリック様はまた同じ返しをしています。殿下にも、平然と嘘をつくのですね。

 「エリック、しっかり見ていてあげなくてはダメじゃないか」

 「申し訳ありません」

 叱られているエリック様を、初めて見ました。叱られながらも、私を離そうとはしません。
 
 「少し気分が悪いので、バルコニーで外の風に当たりたいのですが、よろしいでしょうか?」

 エリック様と離れるのは、今しかないと思った私は、エリック様にではなく、殿下に伺いました。

 「殿下に失礼じゃないか!」

 「そうですか。分かりました。行ってください。
 エリック、君には話があるから残ってくれ」

 殿下がエリック様を引き止めてくれたおかげで、私は解放されました。そして、バルコニーへと歩いて行きます。
 お父様とお母様は、今日は来ていませんでした。こんな姿を見せずにすみました。
 本当に、親不孝な娘でごめんなさい。もう一度生まれ変わったら、またお父様とお母様の子に生まれたいです。

 バルコニーに辿り着いた私は、エリック様の方を向きました。殿下と話しながらも、私のことを見張っているようです。バルコニーの柵を背にして立ち、私は笑顔を浮かべ、そのままバルコニーから身を投げました。
 落ちる瞬間、エリック様がこちらに向かって走り出したのが見えました。もうあなたに捕まる事はありません。
 
 私は真っ逆さまに、落ちていきました。

しおりを挟む
感想 61

あなたにおすすめの小説

大好きなあなたを忘れる方法

山田ランチ
恋愛
あらすじ  王子と婚約関係にある侯爵令嬢のメリベルは、訳あってずっと秘密の婚約者のままにされていた。学園へ入学してすぐ、メリベルの魔廻が(魔術を使う為の魔素を貯めておく器官)が限界を向かえようとしている事に気が付いた大魔術師は、魔廻を小さくする事を提案する。その方法は、魔素が好むという悲しい記憶を失くしていくものだった。悲しい記憶を引っ張り出しては消していくという日々を過ごすうち、徐々に王子との記憶を失くしていくメリベル。そんな中、魔廻を奪う謎の者達に大魔術師とメリベルが襲われてしまう。  魔廻を奪おうとする者達は何者なのか。王子との婚約が隠されている訳と、重大な秘密を抱える大魔術師の正体が、メリベルの記憶に導かれ、やがて世界の始まりへと繋がっていく。 登場人物 ・メリベル・アークトュラス 17歳、アークトゥラス侯爵の一人娘。ジャスパーの婚約者。 ・ジャスパー・オリオン 17歳、第一王子。メリベルの婚約者。 ・イーライ 学園の園芸員。 クレイシー・クレリック 17歳、クレリック侯爵の一人娘。 ・リーヴァイ・ブルーマー 18歳、ブルーマー子爵家の嫡男でジャスパーの側近。 ・アイザック・スチュアート 17歳、スチュアート侯爵の嫡男でジャスパーの側近。 ・ノア・ワード 18歳、ワード騎士団長の息子でジャスパーの従騎士。 ・シア・ガイザー 17歳、ガイザー男爵の娘でメリベルの友人。 ・マイロ 17歳、メリベルの友人。 魔素→世界に漂っている物質。触れれば精神を侵され、生き物は主に凶暴化し魔獣となる。 魔廻→体内にある魔廻(まかい)と呼ばれる器官、魔素を取り込み貯める事が出来る。魔術師はこの器官がある事が必須。 ソル神とルナ神→太陽と月の男女神が魔素で満ちた混沌の大地に現れ、世界を二つに分けて浄化した。ソル神は昼間を、ルナ神は夜を受け持った。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

【完】愛人に王妃の座を奪い取られました。

112
恋愛
クインツ国の王妃アンは、王レイナルドの命を受け廃妃となった。 愛人であったリディア嬢が新しい王妃となり、アンはその日のうちに王宮を出ていく。 実家の伯爵家の屋敷へ帰るが、継母のダーナによって身を寄せることも敵わない。 アンは動じることなく、継母に一つの提案をする。 「私に娼館を紹介してください」 娼婦になると思った継母は喜んでアンを娼館へと送り出して──

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

(完結)貴方から解放してくださいー私はもう疲れました(全4話)

青空一夏
恋愛
私はローワン伯爵家の一人娘クララ。私には大好きな男性がいるの。それはイーサン・ドミニク。侯爵家の子息である彼と私は相思相愛だと信じていた。 だって、私のお誕生日には私の瞳色のジャボ(今のネクタイのようなもの)をして参加してくれて、別れ際にキスまでしてくれたから。 けれど、翌日「僕の手紙を君の親友ダーシィに渡してくれないか?」と、唐突に言われた。意味がわからない。愛されていると信じていたからだ。 「なぜですか?」 「うん、実のところ私が本当に愛しているのはダーシィなんだ」 イーサン様は私の心をかき乱す。なぜ、私はこれほどにふりまわすの? これは大好きな男性に心をかき乱された女性が悩んで・・・・・・結果、幸せになったお話しです。(元さやではない) 因果応報的ざまぁ。主人公がなにかを仕掛けるわけではありません。中世ヨーロッパ風世界で、現代的表現や機器がでてくるかもしれない異世界のお話しです。ご都合主義です。タグ修正、追加の可能性あり。

忘却令嬢〜そう言われましても記憶にございません〜【完】

雪乃
恋愛
ほんの一瞬、躊躇ってしまった手。 誰よりも愛していた彼女なのに傷付けてしまった。 ずっと傷付けていると理解っていたのに、振り払ってしまった。 彼女は深い碧色に絶望を映しながら微笑んだ。 ※読んでくださりありがとうございます。 ゆるふわ設定です。タグをころころ変えてます。何でも許せる方向け。

蔑ろにされた王妃と見限られた国王

奏千歌
恋愛
※最初に公開したプロット版はカクヨムで公開しています 国王陛下には愛する女性がいた。 彼女は陛下の初恋の相手で、陛下はずっと彼女を想い続けて、そして大切にしていた。 私は、そんな陛下と結婚した。 国と王家のために、私達は結婚しなければならなかったから、結婚すれば陛下も少しは変わるのではと期待していた。 でも結果は……私の理想を打ち砕くものだった。 そしてもう一つ。 私も陛下も知らないことがあった。 彼女のことを。彼女の正体を。

真実の愛のお相手様と仲睦まじくお過ごしください

LIN
恋愛
「私には真実に愛する人がいる。私から愛されるなんて事は期待しないでほしい」冷たい声で男は言った。 伯爵家の嫡男ジェラルドと同格の伯爵家の長女マーガレットが、互いの家の共同事業のために結ばれた婚約期間を経て、晴れて行われた結婚式の夜の出来事だった。 真実の愛が尊ばれる国で、マーガレットが周囲の人を巻き込んで起こす色んな出来事。 (他サイトで載せていたものです。今はここでしか載せていません。今まで読んでくれた方で、見つけてくれた方がいましたら…ありがとうございます…) (1月14日完結です。設定変えてなかったらすみません…)

処理中です...