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8、私の決断
しおりを挟むいよいよ舞踏会に向かいます。
真っ赤なドレスに身を包んだ私は、まるで血まみれのようでした。
「ティアナ、すごく綺麗だよ! さすが、俺の妻だ!! 君と結婚出来て、俺は最高に幸せだ!」
左腕には包帯が巻かれているのに、よくそんな言葉が言えますね。これが幸せな姿なのでしょうか? この人は、狂ってるいます。
私達は馬車に乗り込み、舞踏会が開かれる王城へと出発しました。
久しぶりに外に出ることが出来たけれど、見慣れた風景も、今はもう別世界のように感じます。どうしてこうなってしまったのか……なんて、考えても仕方がありません。
本性を表に出さなかっただけで、最初からエリック様はこういう人だったのですから。
今日、お父様達は来るのでしょうか?
最後に会いたいという気持ちはありますが、出来れば来て欲しくありません。私が死ぬところなんて見せたくない。
私には、今日しかないのです。次はいつ、こんなチャンスが巡ってくるか分かりません。殴られることは耐える事が出来るかもしれませんが、また犯されるかと思うと……
それに、また私のせいで誰かが死ぬかもしれません。そんなの、もう耐えられません。
「もうすぐ着くな。ティアナ、分かっているとは思うが、余計なことを言うなよ?」
「……はい」
安心してください。何も言ったりはしません。私はあなたの前から消えます。
会場へ到着すると、エリック様はピッタリくっついて、私から離れようとはしませんでした。
「あら、腕をどうされたのですか?」
「階段から落ちてしまったのです。妻はそそっかしくて困ります」
当たり前ですが、皆さん、同じ質問をして来ます。普通、こんな状態なら舞踏会は欠席します。踊ることも出来ませんし。
今日は殿下が私に会いたいと仰ったから、どんな状態でも連れて来るしかなかったのです。
殿下のおかげで、エリック様は今の地位にいられるのだから、逆らうことなど出来ません。
殿下に全てをお話して助けを求めたら……そう考えもしましたが、殿下がエリック様の味方についたら? お父様とお母様を危険に晒してまで、自分を守ろうとは思いません。
どうにかして、エリック様から離れなくては……
そんな事を考えながら歩いていると、誰かの肩にぶつかってしまいました。少し体勢を崩してしまった私を受け止めてくれたのは、殿下でした。
「あ、ありがとうございます」
殿下が私に触れてしまいました……
「殿下!? 申し訳ありません!!」
殿下の腕の中から、慌てて私を取り返すエリック様。私の肩を抱く手がすごく痛いです。まさか、殿下を殺そうとは思っていないと思いますが、怒っているのは確かです。
「その腕……どうしたのですか?」
今日、何度目の同じ質問でしょうか。
「階段から落ちてしまったのです。妻はそそっかしくて困ります」
そして、エリック様はまた同じ返しをしています。殿下にも、平然と嘘をつくのですね。
「エリック、しっかり見ていてあげなくてはダメじゃないか」
「申し訳ありません」
叱られているエリック様を、初めて見ました。叱られながらも、私を離そうとはしません。
「少し気分が悪いので、バルコニーで外の風に当たりたいのですが、よろしいでしょうか?」
エリック様と離れるのは、今しかないと思った私は、エリック様にではなく、殿下に伺いました。
「殿下に失礼じゃないか!」
「そうですか。分かりました。行ってください。
エリック、君には話があるから残ってくれ」
殿下がエリック様を引き止めてくれたおかげで、私は解放されました。そして、バルコニーへと歩いて行きます。
お父様とお母様は、今日は来ていませんでした。こんな姿を見せずにすみました。
本当に、親不孝な娘でごめんなさい。もう一度生まれ変わったら、またお父様とお母様の子に生まれたいです。
バルコニーに辿り着いた私は、エリック様の方を向きました。殿下と話しながらも、私のことを見張っているようです。バルコニーの柵を背にして立ち、私は笑顔を浮かべ、そのままバルコニーから身を投げました。
落ちる瞬間、エリック様がこちらに向かって走り出したのが見えました。もうあなたに捕まる事はありません。
私は真っ逆さまに、落ちていきました。
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