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仮面の男
しおりを挟む「え……?」
あまりに突然の出来事に戸惑う。目の前に差し出された右手、その右手の男性の顔を見ると、仮面をつけていた。
「さあ、踊りましょう!」
戸惑っているセシディの腕を掴み、ホールへと連れていくと、セシディの右手を握り、左手を自分の肩へと乗せ、ゆっくりと踊り出す。
周りにいる生徒達は、何が起こったのか理解出来ず、目を丸くしたまま突っ立っている。
「あの……どうして仮面を? 今日は、仮面舞踏会ではありませんよ?」
男性にゆっくりリードされながら、セシディは疑問を口にした。
「この方が、都合が良かったので。正体がバレるわけにはいかないので、お許しください。」
正体がバレる……? この学園の生徒ではないのかしら? でも、どうして私なんかをダンスに誘ったのかしら?
「きっと、私をご存知ないのですね。私なんかと踊ったりしない方がいいですよ。」
「知っていますよ。『氷のセシディ』嬢。だからなんだと言うのですか? ご自分の事を、私なんかなどと言うのはやめてください。あなたはとても、素敵な方ですよ。」
何も言葉が出て来ません。私の事を知っていて、それでも素敵だと仰ってくれた。
先程の、シリルの話も聞いていたはずなのに……
曲が終わる頃、セシディと仮面の男性のダンスを目を丸くしたままぼーっと見ていた生徒達が、徐々に我に返り出していた。
「こんな所に、これ以上いる必要はありません。帰りましょう。」
仮面の男性はそう言うと、セシディの腕を掴み、会場から連れ出した。そして、馬車へと乗せると……
「今日は、あなたと踊る事ができ、本当に楽しかった。また、近いうちに会いましょう。」
そう言って、名前も告げずに去っていった。
あの方は、なんだったのでしょう? でも、あの方のおかげで、辛い気持ちがすっかりなくなったようです。感謝しなくてはいけませんね。
それに、初めてダンスをする事が出来ました。
その頃、会場の中では……
「……これは、どういう事!? あの男は、一体何なの!? お姉様はどこ!?」
激怒しているシリルをよそに、他の生徒達も、そしてダンカンも、先程のセシディと仮面の男性の美しいダンスに魅了されていた。
「なんて美しい……もう一度みたかった……」
「もう! ダンカン様! まだお姉様に、未練があるのですか!?」
「そ、そんなわけないだろ!? 私はシリル以外に興味はない! あんな陰険で人を見下す女に、未練などあるはずがない!」
「こんなはずじゃなかったのに……。ダンカン様、私……悔しいです。お姉様が反省して、謝罪して下さると思っていたのに、逃げるなんて……」
「そんなに落ち込むな。今度は、私の邸でパーティーを開こう。私の両親や君の両親、貴族達の前で謝罪させよう!」
「本当ですか?」
「当たり前だ! 君の為なら私はなんだってする!」
ダンカンはシリルに、1ヶ月後にパーティーを開くと約束をした。
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