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新しい名前

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 「お嬢様、朝食の用意が出来ております。食堂へどうぞ。」
 
 翌朝、エイミーに案内され、朝食をとりに食堂へと向かった。そこに、ホリード公爵の姿はなく

 「ホリード公爵は、いらっしゃらないのですか?」

 「旦那様は、朝食をとることはございません。」

 お礼を言いたかったのですが、残念です。

 「じゃあ、この食事は、私の為だけに用意してくれたのですか? 余計な手間をかけさせてしまって、ごめんなさい。」

 私だけの為に、こんなに沢山用意していただいて、申し訳ないです。

 「そんな事ありません! これは、私達の仕事ですから、お気になさらないでください。」

 見ず知らずの、記憶もない私に良くしてくださる皆さんに、感謝しております。
 お世話になってばかりではダメですね。私も何かしなくては。
 食事をしながら、自分に何が出来るのか考えました。私には、文字通り何もありません。何が出来るのかも分かりませんし、迷惑をかけないようにしなくてはなりません。で、思い付いたのは、邸の掃除でした。

 「エイミーさん、メイド服を貸していただけませんか?」

 「メイド服を……ですか? お嬢様の服は、クローゼットに用意してありますよ?」

 「お世話になっているので、何かお手伝い出来たらと思いまして。」

 「その必要はない。役に立たない人間に、ウロチョロされては邪魔だ。余計な事はせずに、大人しくしていろ。」

 話が聞こえたのか、ホリード公爵に叱られてしまいました。やはり、邪魔になってしまうのかな。ホリード公爵は、すぐにその場から去ろうとした。
 そうだ、お礼を言わなくちゃ!

 「あの、ホリード公爵! 助けて下さり、ありがとうございました!」

 すると、ホリード公爵は足を止め、
  
 「別に助けたわけではない。たまたま、死にそうなお前を見つけ、あのまま見捨てたら目覚めが悪いと思っただけだ。」

 ……それは、助けてくれてますよね?
 
 「それでも、お礼が言いたかったのです。私のワガママですので、どうかお気になさらず。」

 「……変な女だな。そういえばお前、名が分からないんだったな。『ティア』でいいか。」

 「ティア……ですか?」

 「お前を拾った時、泣いていた。だから、お前を、ティアと呼ぶ事にする。」

 涙……ですか。
 素敵だけど、悲しい名前。
 でも、名前をつけてもらえて嬉しい!

 「名前をつけていただけるなんて、思ってもみませんでした! ありがとうございます!」

 「名がないと不便だから、適当につけただけだ。いちいち大袈裟だな。」

 この日から私は、ティアという名前になりました。思い出さなければ……そう思ってはいるのですが、私の記憶が戻ることはなく、1ヶ月が経ちました。
 ホリード公爵は相変わらず冷たく、まだ笑顔を見たこともありません。でも、出て行けとは言われない。本当はお優しい方なのだと、そう思っていたのですが……

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