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42、それぞれの道

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 無事にチャリティーパーティーが終わり、たくさんの寄付金が集まった。一番下の子が、成人するまでは十分な額だ。
 施設は学園と寮が併設され、学園ではこの国の子供達も学ぶことが出来る。学問だけでなく、剣術、料理、縫製、鍛治など、職業に役立つことも教わることが出来る。子供達の中に、未来の騎士団長が誕生するかもしれない。

 「アニーは、騎士になりたいんですって。劇を見て、モニカのようになりたいって言っていたわ。憧れているそうよ」

 モニカのおかげで、女性の騎士がたくさん誕生することになりそうだ。
 
 「私が誰かの憧れの存在になれるなんて、思ってもみなかった。陛下とセリーナに出会えて、私は本当に幸せよ」

 私がグランディ王国に嫁げば、モニカは私の護衛から外れることになる。寂しいけれど、モニカはスフィリル帝国に必要な人間だ。

 「私も、モニカに出会えたことに感謝してるわ。モニカを護衛にしてくれた、叔父様にもね。叔父様に気持ちは伝えないの?」

 私がレイビス様と婚約したことで、臣下たちから后を迎えるようにうるさく言われていると叔父様がボヤいていた。
 
 「この気持ちは、一生伝えるつもりはないわ」

 愛のカタチは、人それぞれ。
 モニカは伯爵令嬢で、有能な騎士でもある。
 伯爵令嬢の自分が、后候補になることなど出来ないと思っているのだろう。自分が想いを伝えたら、叔父様に迷惑がかかると分かるから、気持ちを伝えないと決めた。

 「モニカがそう決めているのなら、もう何も言わないわ」

 きっとモニカは、一生結婚しないつもりなのだろう。

 「純愛ね……」

 話を聞いて、シェリルが涙ぐみながらモニカを抱きしめた。
 相手に迷惑をかけるから気持ちを伝えないと決めたモニカが、ハンナ様に重なって見えたのかもしれない。
 
 「シェリルは、ルギウス殿下が好きなのでしょう? 素直にならないと、愛想尽かされちゃうわよ」

 私達三人は、これから別々の道を行くことになる。
 シェリルはグルダの王妃になり、モニカはスフィリル帝国の騎士、そして私はグランディ王国の王太子妃になる。
 
 「昔は、素直で可愛かったんだけどな」

 「うるさいですよ、お兄様! 私は何時でも可愛いわ!」

 モニカに抱きつきながら、レイビス様に反論する。
 確かにシェリルは素直じゃないけれど、そこも可愛いと思う。

 卒業まであと一ヶ月となり、別れのことは考えずに学園生活を楽しむことにした。
 休みの日にはアニー達に会いに行ったり、叔父様と過ごしたり、四人で帝都を見て回ったりと充実した一ヶ月を過ごした。
 そして、卒業する日が訪れた。

 「セリーナ様と、お別れだなんて悲しいです」
 「半年が、あっという間でした……」
 
 本当に、あっという間だった。
 最初はどうなるのか不安だったけれど、たくさんの方達と出会い、たくさんの思い出が出来た。
 
 卒業式では、叔父様が号泣していた。皇帝陛下の威厳が損ねると、フォスター公爵に怒られていた。威厳とは、いったい……

 卒業式の夜、叔父様と二人きりで食事することになった。グランディ王国に行ったら、今度はいつ会えるか分からない。
 王宮の食堂に案内されると、叔父様は泣かないように必死に涙を堪えていた。

 「セリーナ、こちらに座りなさい。この席は、姉上の席だったんだ」

 私はお母様が座っていた席に座り、叔父様は昔座っていたお母様の席の向かいの席に腰をおろす。
 すぐに美味しそうな料理が運ばれて来て、私達は食事をしながらたくさんの話をした。
 
 「私の、好きな物ばかりですね」

 私のことを、叔父様が知ってくれているのだと嬉しくなる。

 「セリーナ、父上を憎まないで欲しい」

 叔父様はフォークを置いて、先代の皇帝陛下のことを話し始めた。

 「父上は、とっくに姉上を許していた。幸せなら、それでいいと。素直な方ではなかったから、そう伝えることも出来ずに、姉上は亡くなってしまった。葬儀に参列出来なかったのは、姉上が亡くなったショックで身体を壊してしまったからだ。どれほどセリーナとサミュエルに会いたがっていたことか……」

 私も、お会いしたかった。
 お母様はやっぱり、お祖父様からも愛されていたことを知り、胸がいっぱいになる。

 「お母様はきっと、お祖父様のお気持ちに気付いていたと思います。今頃は天国で、二人楽しくケーキを食べているかもしれませんね」

 何となく、そんな気がした。

 「そうだな。セリーナ、デザートはもういいのか?」

 「食べます!」

 胸がいっぱいになったけれど、デザートは別腹だ。
 この日は、お腹が膨れるほどのデザートを食べた。叔父様も私と同じくらい食べて、ぽっこりしたお腹を見ながら二人で笑った。
 少し食べ過ぎてしまったから、明日からはダイエットをしなければ。

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