〖完結〗幼馴染みの王女様の方が大切な婚約者は要らない。愛してる? もう興味ありません。

藍川みいな

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39、子供達の為に

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 デートの一週間後、叔父様に会いに王宮に来ていた。
 
 「セリーナ! 会いたかった!」

 思いっきり抱きしめられて、息が出来ない。

 「叔父様……苦しいです……」

 叔父様から王宮に来て欲しいと言われた私は、すぐに王宮を訪れた。子供達がどうなるのか、ずっと気になっていたからだ。
 私とモニカ、そして男達を捕らえた現場に居たレイビス様は、会議室へと案内された。
 会議室には叔父様と、叔父様の右腕と言われるフォスター公爵が待っていて、部屋に入った瞬間叔父様に抱きしめられていた。
 フォスター公爵が呆れたように、コホンとわざとらしい咳払いをすると、叔父様は仕方なく私から離れ、イスに座るように言った。

 捕らえた男達は奴隷商人で、何度も他国の小さな町や村を襲い、子供達をさらっていた。商人の証言から、奴隷を買っていた貴族やこれから買おうとしていた貴族も捕らえられた。

 「奴隷商人は、処刑されることが決まった。そして、子供達を買おうとしていた貴族や、今まで買っていた貴族は全財産を没収し、身分を剥奪される。今まで奴隷として扱われていた者や、セリーナ達が救った子供達についてなのだが、彼らには身内が居ないそうだ。国に帰っても、暮らせるあてはない。そこでだ、没収した財産を使って彼らの為の施設をつくろうと思う」 

 叔父様は、子供達が生活でき、学べる施設を作りたいと思っているようだ。
 奴隷として売られた子供達は、何年も虐げられ、わずかな食事で働かされて来た。八歳で売られ、今は十六歳の子もいたそうだ。
 彼らが、普通の生活に慣れるには時間がかかる。
 そもそも、彼らを奴隷として扱って来た貴族のお金なのだから、彼らの為につかっても問題はないだろう。
 すでに叔父様は、子供達の暮らしていた国に書状を出していた。

 「素敵ですね。叔父様、一つやりたいことがあるのですが……」

 私が提案したのは、子供達の為のチャリティーパーティーだった。

 「セリーナのことだから、お金を集めることが目的ではないのだろう?」

 叔父様は、私の考えに気付いてくれた。
 この国の貴族のせいで、子供達は酷い目にあってきた。きっと、この国が大嫌いだろう。
 子供達の為に、貴族全員が何かをするべきだと思った。そして貴族全員が、奴隷として扱われて来た彼らのことを知るべきだ。

 「長い間暮らしていたわけでも、この国で生まれたわけでもありませんが、私はこの国が好きです。お母様の生まれ育った国であり、お母様の愛した国。そして今は、大好きな叔父様の治める国。この国が、さらに素晴らしい国になってほしいです」

 私の想いを伝えると、叔父様だけでなくフォスター公爵まで涙ぐんでいた。
 
 チャリティーパーティーは、二ヶ月後に行われることになった。
 

 「また私だけ置いてきぼり……」

 お茶を飲みながら、シェリルは不貞腐れている。
 今日はお休みで、私達は学食にお茶を飲みに来ていた。
 カフェに行くと、モニカが護衛モードになってしまうので、学食でお茶を飲むのが一番気楽だった。

 「ごめんね、シェリル。ケーキあげるから、許して?」

 「仕方ないから、許してあげるわ」

 十個頼んだケーキの一個をあげると、シェリルは機嫌をなおしてくれた。

 「それにしても、子供達を奴隷にするなんて、本当に許せない!」

 モニカもいつになく、怒っている。
 子供達を奴隷にしていたことも許せないけれど、その前に村や町を襲撃するなんて、人間のすることではない。

 「奴隷商人達の首を、あの場で斬り落としてしまえばよかった」

 モニカなら、本当にやりそう。

 「モニカ……怖い……」

 「いや……そういうセリーナも、あの時怖いことを言っていたぞ?」

 あの時のことを思い出したのか、レイビス様の顔が青くなる。

 「えぇー! 怖いセリーナ見たかったー!」

 シェリルはまた、不貞腐れてしまった。
 こんな風にみんなで過ごせる日も、あと少しだと思うと寂しくなってしまう。

 叔父様が、お父様とサミュエルにもチャリティーパーティーへの招待状を出した。貧乏子爵のお父様には寄付する余裕はないけれど、サミュエルはこの国の貴族になる。寄付金は、公爵家から出すつもりだ。
 
  「セリーナ様ー!」

 シェリルが不貞腐れたから、もう一つケーキを頼んでいると、キルスティン様と生徒会の皆さんが息を切らせてこちらに向かって走って来た。
 
 「どうされたのですか?」

 生徒会の皆さんの中には、副会長のラルフ様の姿もある。ラルフ様は、今は生徒会長を務めている。そして、キルスティン様を口説いているらしい。

 「チャリティーパーティーのことをお聞きしたのですが、私達にも何か出来ないかと考え、生徒達全員でバザーを開くのはいかがでしょうか!?」

 生徒達は生徒達なりに、子供達に何が出来るのかを考えてくれていたことが嬉しい。

 「生徒会の皆さんが、仕切ってくださるのですか?」

 ラルフ様の顔を見ると、大きく頷いた。

 「では、不用品を販売するのではなく、皆さんの手作りの物を売るのはいかがでしょう? 食べ物や刺繍のされたハンカチ、ぬいぐるみやアクセサリーなど、皆さんが一生懸命作った物を売りましょう!」

 バザーは、一般公開されることになった。
 生徒達が心を込めて作った物を自分達で販売して、それをたくさんの方達が買い、子供達の為のお金になる。そのことを、学園長含めみんなが賛成してくれた。
 この国はやっぱり、素敵な国だと思う。

 生徒達はチャリティーパーティーにも出席することになるから、バザーは一ヶ月半後に行われることになった。
 時間がない分、休み時間を使って手作りの商品を一生懸命作っている生徒も見かけて、つい笑顔を浮かべてしまう。
 私は不器用だから、レイビス様とシェリル、そしてモニカと一緒にお肉の串焼きを屋台で売ることに決めた。
 あの屋台で食べた串焼きが美味しかったから、屋台のおじさんに焼き方を教わり、お肉も譲ってもらった。
 そのまま忙しく毎日が過ぎていき、バザーの日が訪れた。
 
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