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37、婚約は突然に
しおりを挟むオリヴィア様が修道院に出発した後、彼女から私とモニカに手紙が届いた。
心から反省したようで、謝罪の言葉が書かれていた。その手紙を読んだ時、オリヴィア様には違った未来があったのではと思えた。
もう二度と元には戻れないけれど、今の彼女は少なくとも自由になれたのかもしれない。
「ケガは、もういいの?」
「すっかり良くなったわ。痛みもない」
そう言いながら、力こぶを見せてくれる。モニカのケガも治り、楽しい学園生活に戻っていた。
「騎士を希望する女性が、ものすごく増えたそうね。モニカのようになりたいと、剣術を習い始めた子も多いとか。カッコよかったものね!」
シェリルは、モニカの力こぶをつんつんしながら褒めまくる。
本当にカッコよかった。
ケガをしているなんて、ほとんどの人が気付かなかっただろう。それほど、動きが美しくて素晴らしかった。
「セリーナ! 俺は? 俺も、カッコよかっただろ?」
レイビス様もカッコよかった。
けれど、恥ずかしいから言わない。
「レイビス様、いらっしゃったのですか? 」
「お兄様はうるさい! 早く食べないと、お昼休みが終わってしまいますよ」
「セリーナもシェリルも冷たい……」
拗ねながらお肉を頬張り、不機嫌そうに私達を睨む。
冷たくするつもりはないのだけれど、レイビス様への気持ちが強くなり過ぎて、どう接したらいいのか分からなくなっていた。
「セリーナは、照れているだけですよ」
モニカは無表情で、レイビス様を慰めている。
剣術大会から、レイビス様に対してのモニカの態度も変わっていた。
「照れていたとは、セリーナは可愛いな」
一瞬で機嫌がなおり、ぐっと顔を近づけてくるレイビス様。顔が近過ぎる……
「公共の場で、顔を近付け過ぎではないかね?」
私とレイビス様の間に、無理やり入ってきた人物は叔父様だった。
「叔父様!?」
ここは学食だ。
なぜこんなところに叔父様が居るのだろうか……
それにしても、叔父様が学食に居るのに騒ぎになっていないのがおかしい。そう思って周りを見渡すと、まるで時が止まったかのようにみんな驚き過ぎて固まっていた。
「まったく、油断も隙もあったものじゃないな! うちのセリーナとの婚約は、まだ許してはいないぞ?」
叔父様はレイビス様を見ながら、『離れろ』と目で語っている。
「陛下! このような場でお会い出来るとは、嬉しい限りです! まだということは、お許しになってくださるのですか!? 感激で、胸がいっぱいでございます! セリーナ様を、必ず幸せにします! 生涯、セリーナ様だけを愛することを誓います!」
叔父様が口を挟む隙もなく、私とレイビス様の婚約が成立した形になってしまった。
「う……そうか、そんなに愛しているのなら、許そう」
叔父様も、認めてしまった。
そして私も、レイビス様の仰ってくれた言葉に胸をときめかせていた。
「「「わあああああぁぁぁぁぁぁ!!」」」
固まっていた生徒達が、婚約と聞いて一斉に大歓声をあげた。
こんな形で婚約することになるとは思わなかったけれど、叔父様に認めてもらえて嬉しい。
「俺達、婚約しましたー!」
嬉しそうにみんなに報告をしているけれど、最初からみんなに聞こえるような大きな声で話していたのだから、すでに広まっている。
「セリーナ様、レイビス殿下、おめでとうございます!」
「幸せなご報告で、私達も幸せな気持ちです!」
こんなに祝福してもらえて、この学園に来て本当に良かったと思う。
「ところで、叔父様はどうしてこちらにいらしたのですか?」
「剣術大会の時は、ゆっくり話すことが出来なかっただろう? 仕事も落ち着いたし、学園でのセリーナも見たくてね」
叔父様は、子供のようにワクワクした顔をしている。
「そうなのですね。ですがそろそろ授業が始まるので、教室に戻らなくてはなりません」
「え……」
先程までワクワクした顔をしていたのに、急にションボリしてしまった。今日の叔父様は、お母様に似ているというよりも、サミュエルに似ていた。
「では、行きますね。あ、叔父様、学食のケーキ美味しいですよ! 良かったら食べてみてください」
「セリーナ? 本当に行ってしまうのかい?」
行って欲しくなさそうにしている叔父様を見ながら、モニカが顔を赤く染めていた。意外な一面を見て、さらに好意を持ったみたいだ。
鈍感な叔父様は、そのことに気付いていない。なんだかモニカが、気の毒に思えた。
叔父様を置き去りにして、私達は教室へと戻った。
「お兄様、やりましたね! 陛下はもっと反対なさる思っていたけれど、お兄様のことを認めてくださっていたのですね! セリーナ、おめでとう!」
教室に入ると、シェリルは興奮気味にそう言った。私とレイビス様のことを、シェリルはずっと応援してくれていたから、よほど嬉しかったようだ。
「なんだか急すぎて、実感がわかないな」
いつかはレイビス様と……そう考えてはいたけれど、なぜか学食で婚約が決まるとは思っていなかった。
「実感させてあげようか?」
レイビス様が私の顎を人差し指でクイッと上げ、じっと瞳を見つめて来た。
「レイビス様……近い……です……」
目を逸らしながらそう言うと、
「俺は、もっと近くてもかまわない」
と、言い返された。
このままでは、心臓が持たない。
「殿下、ここは教室です。いくら婚約したからといっても、節度をわきまえてください。セリーナは、殿下が今まで相手にして来た尻軽とは違うのです。小動物を扱うように、ソフトに扱っていただかなくては困ります。それと、セリーナを泣かせるようなことをされたら、護衛の私が黙っていません。たとえグランディ王国の王太子殿下であっても、容赦なく斬り捨てますのでそのおつもりで」
叔父様が間に入って来た時のように、レイビス様との間にモニカが入って来る。
彼女は、意外と毒舌なのだと知った。
小動物を扱うようソフトにって、どういう意味なのかは分からなかったけれど助かった。
「邪魔ばかり入るな。セリーナ、放課後デートしよう!」
離れる前に、レイビス様はそう言って微笑んだ。
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