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番外編 オリヴィア視点
しおりを挟む幼い頃から、厳しく育てられて来た。
スフィリル帝国の皇族なのだからと、好きなことを全て諦め、お父様が望む娘を演じて来た。
完璧な娘、完璧な皇族、完璧な生徒、完璧な……そう思って生きて来たのに、他国で子爵令嬢として育ったセリーナ様に会った時、私の努力は無意味だったのではないかと思った。
皇族として厳しい教育を受けて来たわけでもないセリーナ様が、グランディ王国のレイビス王太子殿下に愛され、陛下にまで溺愛されていた。
そして何より、マリエル様にそっくりだった。
こんなの、不公平よ……
私は、マリエル様のようになりたかった。
誰からも愛され、尊敬される存在。
それなのにあの瞬間、セリーナ様がマリエル様に見えてしまった。
『オリヴィア様のお考えは、随分と古いのですね。モニカは、すでにれっきとした騎士です。スフィリル帝国は、女性でも皇帝になれる国。男女の区別がない、とても素晴らしい国なのに、皇族であるオリヴィア様がそんなことを仰るなんて悲しいです』
その言葉を聞いた時、どんなに頑張っても私はマリエル様にはなれないのだと悟った。
それでも、これまで頑張って来たことを否定されたくなかった。
モニカを、優勝させるわけにはいかない。
女性が騎士だなんて、絶対に認めない。
ラルフ様が勝つのは分かっていたけど、念には念を入れることにした。
剣に細工をして、モニカの手を使えなくする。
「会長、任せてください! 必ずやり遂げます!」
頭は悪いけど、私の言うことには逆らわないペイジを使うことにした。
ペイジは私が生徒会に入れた。その恩を感じているから、絶対に裏切らない。
「こんなことを頼めるのは、ペイジしかいないわ。いつも助かるわ。お願いね」
「会長~! ぅぅ……」
少し褒めるだけで、感激して涙ぐむペイジは、バカで扱いやすい。
モニカの控え室の剣を、握るとナイフが飛び出る剣とすり替えた。これで、モニカはすぐに負けるだろうと思っていた……
「次はラルフ様とじゃない! どうしてモニカが勝ち残っているの!?」
モニカは、初戦から利き腕の右手を使っていない。だから上手くいったのだと思っていたのに、利き腕じゃない左手を使って勝利し続けている。
「大丈夫ですよ。今までの相手が、弱かっただけです。副会長はお強いのですから、ケガをした手で勝てるはずがありません」
もしかしたら、モニカは両利きだったのかもしれない。だとしても両手剣なのだから、右手はそろそろ限界なはず。
そう思っていたのに、ラルフ様がモニカに負けた。
ペイジを怒鳴りつけても、怒りがおさまらない。
ラルフ様は私の婚約者になるべき人なのに、モニカなんかに負けるなんてありえない!
最年少で騎士の試験に合格して、未来の騎士団長になることがラルフ様の夢だった。その夢を、私も一緒に見たかったのに……
「とにかく、行くわよ」
考えるのは、後にしよう。
今は、一刻も早くあの剣を処分しなければ。
「お探し物は、これですか?」
どうして……どうしてセリーナ様は、私の邪魔をするの?
何もかも、セリーナ様のせいよ。セリーナ様が居なければ、モニカだって剣術大会に出ることはなかった。
「卑劣な手を使って勝つことに、意味などないと分からないのか? そんな勝利を、俺は望んでいない」
セリーナ様に言いたいことを言った後、ラルフ様の呆れた声が聞こえた。
「ラルフ様……今のは、違うのです! 私は何も……」
それ以上、言葉が出なかった。
ラルフ様の為にしたことなのに、私を責めるような目で見ている。
「君は、俺の誇りを穢した」
私は、ラルフ様の誇りを守ろうとしただけなのに……
彼の目は、私を軽蔑している。
いや……いやよ! ラルフ様だけは、失いたくない!
必死にラルフ様に縋り付いたけれど、彼は私を振り払い、去って行ってしまった。
「先程、オリヴィア様は努力して来たと仰っていましたね。努力をしたなら、副会長のお気持ちを理解出来なかったのですか? あなたは、副会長を信じなかったばかりか、彼を侮辱したのです」
私は、ラルフ様のお気持ちを考えていなかった。
セリーナ様を見ると、やっぱりマリエル様にそっくりだった。親子なのだから、似てるのは当然なのかもしれない。私がなれなかった、憧れの存在。
陛下にまで、私のしたことを知られてしまった。
いつから私は、間違いを犯していたのだろうか。
本当は、モニカが羨ましかっただけなの。
だからあんなに、モニカに勝って欲しくなかった。
幼い頃から、騎士になりたかった。
でも、両親は認めてはくれなかった。騎士になりたいと言ったら、『騎士は男がなるものだ。女のおまえがなるものではない』と叱られた。だから、諦めることを選んだ。だって私は、完璧な皇族で、完璧な娘で……
騎士になりたいという思いが消えなかったから、ラルフ様の夢を自分の夢のように感じていた。彼が私の代わりに叶えてくれるのだと、勝手に思っていたのだ。自分の思いを押し付けた結果、ラルフ様に嫌われてしまった。
マリエル様にそっくりなセリーナ様と、私がなりたかった騎士になったモニカ。
私は、何者にもなれなかった。
「全て、私が独断でしたことです! オリヴィア様は、私を庇おうとしてくださったのです! ですから、オリヴィア様は何の関係もありません!」
バカにしていたペイジが、なぜか私を庇ってくれた。私のせいでこんな目にあっているのに、どうしてペイジはこんなに必死になっているの?
「ペイジ、もういい。もういいから、本当のことを話して」
今更何を言っても、私は終わりだ。
それに、庇ってもらう資格なんてない。
「よくありません! オリヴィア様は、私の憧れです! 誰よりも、尊敬しています!」
どうして……
「ペイジ……ありがとう……本当に、ありがとう」
ペイジは、私が一番欲しかった言葉をくれた。
たった一人だけど、私をそんな風に思ってくれる人が居た。
ペイジの言葉で、私は救われた。
これから先なにが起きても、ペイジの言ってくれたことは決して忘れない。
私は、全てを正直に話した。
そして、全てを失った。
貴族に危害を加えた罪で身分を剥奪され、平民として修道院に送られることが決まった。
自分の罪を認め、ペイジは私に従っただけだから減刑して欲しいと願い出たけど……
「これからも、オリヴィア様と一緒ですね!」
ペイジは自ら、修道院に行かせて欲しいと願い出た。本当に、バカなんだから……
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