〖完結〗幼馴染みの王女様の方が大切な婚約者は要らない。愛してる? もう興味ありません。

藍川みいな

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36、優勝は……

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 声の主は、副会長。
 キルスティン様が、副会長をこの控え室へと連れて来てくれていた。
 人は恋する相手を見る時、瞳孔が開くと聞いたことがある。オリヴィア様は、副会長に恋をしていたようだ。

 「ラルフ様……今のは、違うのです! 私は何も……」

 副会長は、最初から全てを聞いていた。
 今更何をいいわけしたところで、手遅れだ。

 「君は、俺の誇りを穢した」

 副会長のオリヴィア様を見る目が、心底軽蔑している。彼女の恋が実ることは、決してないだろう。
 副会長に、オリヴィア様は縋り付いた。

 「そんなことを言わないで! 私は、ラルフ様のお力になりたかっただけです! ラルフ様の夢を、一緒に叶えたかったのです!」

 その方法が、間違っていたことにまだ気付いていない。

 「君が、俺の夢を語るな。失礼する」

 副会長は、オリヴィア様がしたことで二重に傷付いた。モニカに負けただけでも、かなり悔しかっただろう。それなのに、そのモニカはケガをしていたことを知ったのだから、心の中はぐちゃぐちゃだろう。
 
 オリヴィア様を振り払って、副会長は去って行く。その姿を見つめたまま、オリヴィア様は動かなくなった。一緒に居た女生徒は、うろたえながら目に涙をためている。

 「先程、オリヴィア様は努力して来たと仰っていましたね。努力をしたなら、副会長のお気持ちを理解出来なかったのですか? あなたは、副会長を信じなかったばかりか、彼を侮辱したのです」

 ようやく自分の過ちに気付いたのか、ゆっくりと私の顔を見ると、涙を浮かべた。

 「その通りだ、オリヴィア」

 「叔父様!?」

 いつから居たのか、ドアの前に立っていた叔父様に全く気付かなかった。

 「陛下……私……」

 オリヴィア様には、もういいわけする力も残っていない。
 きっとオリヴィア様は、副会長への想いに気付いていなかったのだろう。けれど、失って初めて自分の気持ちを知った。

 「いいわけはいい。自分のしたことの、責任を取りなさい。連れて行け」

 オリヴィア様と女生徒は、兵に連行されて行く。
 知られたくなかった二人に知られ、抵抗する気力もなく大人しくついて行った。

 「叔父様は、どうしてここへ?」

 「モニカは、右利きだ。それなのに左手を使っていたから、何かあったのではと思ったんだ」

 さすが、叔父様だ。 
 
 「モニカのことを、よく見ているのですね」

 「当たり前だ。私がモニカを騎士にし、セリーナの護衛にしたのだからな」

 そういう意味ではなかったけれど……
 叔父様は、案外鈍感かもしれない。

 「そろそろ、決勝戦が始まりますね。行きましょう」
 
 決勝戦は、叔父様と見ることになった。
 叔父様用の観客席に行くと、ちょうど試合が始まるところだった。
 シェリルは座ることも忘れて、二人の試合に魅入っている。
 モニカの応援をすると言ったものの、レイビス様にも勝って欲しいとも思っている。複雑な気持ちは、私も同じだから分かる。

 「え……?」
 「どうして……?」

 試合が始まると、私達は混乱した。

 「どうかしたのか?」
 
 叔父様は、不思議そうに私達を見た。

 「……レイビス様は、左利きです」

 説明は、それだけで十分だった。

 「そうか。彼も、モニカの異変に気付いていたようだな」

 レイビス様は、利き腕の左手ではなく右手を使っていた。
 いつもケンカばかりしているのに、こういうところはレイビス様らしい。
 モニカはケガをしているけれど、両方使える。けれど、レイビス様は完全に左利きだった。利き腕ではないのだから、剣の振り方も少しだけぎこちない。それでも、必死に戦うレイビス様の姿がとてもかっこよく見えた。

 「やっぱり、お兄様らしい」

 シェリルは呆れたようにそう言ったけれど、眼差しはレイビス様を尊敬しているようだった。

 結果は、モニカの優勝。
 グランディ王国の王太子に勝利したモニカは、帝国中の人々から認められる存在となった。
 レイビス様は、決してわざと負けたわけではない。利き腕を使わなかっただけで、勝つ気で戦っていたのだと分かる。何度倒されても立ち上がり、負けないという気迫を感じたからだ。最後の一撃が入るまで、勝負は互角だった。素晴らしい試合だったからこそ、みんながモニカを認めた。
  
 「……仕方ない。認めてやるか」

 叔父様が、小さな声でそう言ったのが聞こえた。 

 「叔父様、私……レイビス様が好きです」

 思わずそう伝えていた。

 「知っている。行ってあげなさい」

 叔父様はお母様と同じ、陽だまりのような笑顔を見せてくれた。
 叔父様と別れて二人のもとに行くと……

 「あんなの、納得がいきません! なぜ、利き腕を使わなかったのですか!?」
 「モニカは利き腕をケガして、左手を使っていた。俺は、ハンデをもらって勝つなんてごめんだ!」

 いつものように、ケンカをしていた。

 「ハンデなんかありません! 私は、両利きなんです! こんなケガ、ハンデになんかなりません!」
 「利き腕でしか戦えない時点で、俺の負けだ。手加減なんかしていない。俺は、勝つ気で戦った。それでも勝てなかったのは、俺が未熟だっただけだ。いつか必ず、モニカに勝ってみせる。それまでは、誰にも負けるな」

 真剣なレイビス様を見て、モニカは納得したようだ。

 「残念ですが、私は負けるつもりはありません」

 その時、二人が分かり合えた気がした。

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