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35、勝負の行方
しおりを挟むモニカは小柄だけれど、その小柄な体型を上手く使っている。それに、女性だからこそのしなやかな動きがとても美しい。
副会長の力一杯上段から振り下ろされた剣を受け止め、スライドしながら受け流す。
「モニカ、大丈夫かな?」
剣と剣がぶつかり合う度に、ケガが痛むはず。
「セリーナが信じなくてどうするの? モニカは、負けない。絶対に!」
モニカを信じてる。
でも、無理をして欲しくない。
矛盾しているけれど、モニカは護衛である前に大切な友達だから。
モニカの痛みを、代わってあげられたらいいのに……
けれど、それは出来ない。だから……
「モニカーーーッ!! 頑張ってーーーっ!!」
代わってあげられないのなら、全力で応援する。
必死で頑張っているモニカの為に、出来ることをやる。
力一杯叫ぶと、私の声が聞こえたのか、モニカの動きがさらに早くなった。
疲れてきたのか、副会長の動きは鈍くなっている。副会長が剣を振り上げた瞬間、モニカは懐に入り、顎の下に剣を突きつけた。
「そこまで! 勝者、モニカ・エリクソン!」
会場中に、歓声が湧き上がる。
ほとんどの人が、副会長が勝つと思っていた。小さな身体で、男性に勝利したモニカに惜しみない拍手が送られている。
「やったわ! ねえ、セリーナ……
え……? 泣いているの!?」
シェリルに言われて、涙を流していることに気付いた。
「こんなにたくさんの人が、モニカのことを認めてくれたのだと思ったら、嬉しくて……。シェリル、どうしよう……涙が止まらない」
まだ決勝戦が残っているけれど、優勝したかのような大歓声がモニカを包み込む。
女性だから騎士にはなれないと言われたあの時のモニカは、もうどこにも居ない。
努力し続けて来たモニカが、ようやくみんなに認められた。
「よしよし」
シェリルが、肩を抱き寄せて頭を撫でてくれる。
「ありがとう。泣いてる場合じゃないよね。そろそろ行こう」
◇◇◇
モニカと副会長であるラルフの勝負がついた時、観客席の後ろにある通路で、オリヴィアは拳を握りしめながら怒りに震えていた。
「なぜラルフ様が負けるの!? ちゃんと仕込んだのよね?」
実行犯である生徒会メンバーの女生徒に、怒りをぶつける。
「もちろんです! 絶対に、右手をケガしているはずです!」
「じゃあ、なぜ負けるのよ!? ケガをしたモニカに、ラルフ様が負けるなんてありえないでしょう!? ラルフ様が女に負けるなんて、あってはならないことよ! 私の婚約者になるのだから、完璧でなくてはならないの!」
オリヴィアの怒りは収まらない。
「……申し訳ありません」
女生徒は、謝ることしか出来ない。
「とにかく、行くわよ」
女生徒と共に、オリヴィアはモニカの控え室へと向かった。目的は、証拠を回収する為だ。
女生徒がノックをして誰もいないことを確認すると、オリヴィアが控え室の中に入る。
モニカが副会長に勝ったことで、女生徒を信用することが出来ずに自らやって来た。
「オリヴィア様、例の剣がありません!」
「どうしてないのよ!? 探しなさい!」
証拠の剣がないことに焦り出す二人────
「お探し物は、これですか?」
オリヴィア様達が中に入るところを見ていた私は、控え室のドアを静かに開けて、ナイフが仕込まれていた剣を二人に見せる。
モニカが副会長に勝利を収めた後、私とシェリルは控え室を見張っていた。副会長の為にしたことだとしたら、二人の試合は必ず見ていると思った。思った通り、試合が終わった後に証拠を取りに来た。
「セ、セリーナ様!? なぜこちらにいらっしゃるのですか!?」
なぜこちらにとは、こちらのセリフだ。
予想外の出来事に、そんなことしか言えないようだ。
「ここは、モニカの控え室です。オリヴィア様がこちらにいらしたのは、この剣を取りに来たからですよね? こんなことをするなんて、オリヴィア様には失望しました」
スフィリル帝国には、認められる為に来た。
私になら、何をされたとしても笑って許せる自信があった。けれど、モニカにしたことは絶対に許せない。
こんな卑劣な真似をするオリヴィア様が、クリスティ様と重なる。
「な……にを仰っているのか、分かりませんわ。私が、何をしたと仰るのですか? 私は生徒会長として、控え室の様子を見に来ただけです!」
いいわけをしながら、目が泳いでいる。
「見苦しいいいわけはやめなさい! あなたは生徒会長としても、皇族としても相応しくありません! モニカがどんな思いで、今日の大会に挑んだと思っているのですか!? 私は絶対に、あなたを許さない!」
私の言葉に、オリヴィア様の表情が変わった。
先程までは誤魔化そうと必死だったけれど、今は攻撃的に鋭い目でこちらを睨んでいる。
「冗談じゃないわ! 他国の貧乏子爵の血が混じっているセリーナ様に、皇族として相応しくないなんて言われたくないわ! スフィリル帝国のことなんて何も知らないくせに、陛下に溺愛されるなんて許せない! 私はセリーナ様と違って、努力して来たの! いきなり現れて、レイビス様も手に入れて、マリエル様にそっくりだなんて……いったいあなたは何なの!?」
まるで癇癪を起こした子供みたいに、オリヴィア様は地団駄を踏みながら言いたいことを言った。
「言いたいことは、それだけですか? 私に、不満があることはよく分かりました。ですが、モニカにしたことと何か関係があるのですか?」
言いたいことがあるなら、直接私に言えばいいだけだ。この件とは、何の関係もない。
「……女性の騎士なんて、私は認めない。最強の騎士は、男性であるべきよ! ラルフ様は、最強になれる。そして、私の婚約者になるの! モニカなんかに、負けてはならないの!」
自分勝手ないいわけに、ため息が漏れる。
副会長の為というよりも、全て自分の為。
「卑劣な手を使って勝つことに、意味などないと分からないのか? そんな勝利を、俺は望んでいない」
その声の主を見て、オリヴィア様の瞳孔が開く。
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