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33、楽しい学園生活
しおりを挟む「セリーナ様は、レイビス殿下のことがお好きなのですね」
レイビス様を見つめる私を見て、キルスティン様が可愛らしい笑顔を向けながらそう言った。
「す、す、好きだなんて……」
顔を真っ赤に染める私を見て、キルスティン様はさらに笑顔になる。
「セリーナ様……可愛い!」
「そう! セリーナは、可愛いのです! キルスティン様は、分かっていますね」
シェリルとキルスティン様は、私の話で盛り上がっている。なんだか、複雑な気分だ。けれど、こんな風にクラスメイトと笑いあえる学園生活も楽しい。
みんなも、私がお母様ではなく別の人間なのだと理解してくれている。お母様のようなカリスマ性は私にはないけれど、私という人間を否定したりはしない。
「そういえば、領地の方は大丈夫なのですか?」
キルスティン様が心配してくれている領地とは、私がこの国で公爵として治めている領地のことだ。
叔父様の信頼出来る侯爵家の方にお任せしてはいるけれど、定期的に報告を受け、指示はしていた。
叔父様に領地をいただいたあの日から、公爵領のことを調べ、私なりに勉強をして来た。
「大丈夫……とは、自信を持って言えませんが、お任せしているテイラー侯爵がとても優秀な方で、いつも助けられています」
広大な土地と領民の多さに圧倒されたけれど、今の所上手くやれている。
「学業と両立なさるのは、大変なことと思いますが、無理はなさらないでくださいね」
キルスティン様は、五人姉妹の長女だそうだ。面倒見が良く、優しいお姉さんなのがよく分かる。
この国はなぜか、第一子は女の子が産まれることが多いそうだ。その為、家を継ぐのは女性が多い。割合でいうと、七割の女性が家を継いでいる。そのことが原因で、家を継がない女性の嫁ぎ先が激戦になっている。
転校初日に、レイビス様はそんな女生徒達から狙われていたらしい。あの日、レイビス様が私にしか興味がないと宣言したことで、あからさまなレイビス様狙いの女生徒が居なくなったようだ。
『お兄様がモテたのは、一瞬だったのね』と、シェリルがからかっていた。
「何だかキルスティン様が、お姉様のように思えて来ました」
お姉様が居たら、こんな感じなのかなと思えた。同じ歳なのだけれど……
「それは、聞き捨てならないわ! セリーナのお姉様は、私でしょう? お兄様と結婚したら、私がお姉様……に、ならないじゃない! 私が、妹だなんて……
お兄様! 弟になってください! セリーナにお姉様と呼ばれたいのです!」
シェリルがなぜか必死になっているところを見て、キルスティン様と顔を見合わせて笑ってしまった。
シェリル、ごめん。シェリルは、お姉様というより妹よ。
剣術大会が翌日に迫り、生徒達がソワソワし始めた。明日の大会に、皇帝陛下がお見えになるという噂が流れ始めたからだ。
「皇帝陛下がお見えになるなら、俺も参加すれば良かった……」
「恥をかくだけだぞ。参加しなくて正解だ」
「陛下に一瞬でも認識いただけるならば、俺は死んでも構わない!」
生徒達の様子を見る限り、叔父様はものすごく頑張って来たのだと分かる。
明日は叔父様にも会えるし、レイビス様とモニカの剣術も見られる。
「お兄様ったら、珍しく真剣な顔をしているわ。モニカも、良い顔をしてる。モニカには悪いけれど、明日はお兄様を応援するからね」
出場する人は、レイビス様やモニカ以外の方も、ピリピリとした空気を纏っている。
レイビス様の真剣な顔が新鮮で、カッコイイと思ってしまった。本人には、恥ずかしくて言えないけれど。
「分かっています。私は、セリーナ様の護衛として全力を尽くすのみです」
モニカは、真面目だな。
私のことより、自分のことを考えて欲しい。
たとえ優勝出来なくても、モニカ以外の護衛なんて考えられない。けれど、モニカに優勝して欲しいとも思っている。
私はレイビス様にもモニカにも、優勝して欲しい。欲張りだけれど、どちらか一人を応援するなんて出来ない。
「レイビス様、モニカ、これを……」
二人には、手作りのお守りを渡した。
手先が器用な方ではないから、時間もかかってしまったし、何より不格好だ。
そんな不格好なお守りを受け取った二人が、感極まって目に涙を浮かべている。
そんなに感動されると、何だか申し訳ない……
「セリーナ……俺は今、最高に幸せだ!」
「セリーナの手作り……こんなに素敵な贈り物をいただけるなんて……」
本当に、申し訳ない……
「そんな不格好なお守りで、こんなに喜んでもらえて良かった」
「気持ちが大事だ! セリーナの真心が込められているのだから、優勝は俺に決まりだな!」
「私のお守りの方が、セリーナの気持ちが込められています! レイビス様は、ついでです。ついで!」
なぜか、またケンカを始めてしまった。
「セリーナ……私には? ねえ、私にはないの?」
シェリルが瞳をうるうるさせながら、詰め寄って来る。
「え? シェリルは、大会に出ないし」
「不公平よ! セリーナへの愛は、二人にも負けていないのにぃ……」
お姉様になりたいと言っていたシェリルが、駄々をこねる子供のように見えた。
この後、『シェリルにも作る』と言うまで、シェリルは駄々をこねていた。
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