〖完結〗幼馴染みの王女様の方が大切な婚約者は要らない。愛してる? もう興味ありません。

藍川みいな

文字の大きさ
上 下
34 / 45

33、楽しい学園生活

しおりを挟む


 「セリーナ様は、レイビス殿下のことがお好きなのですね」

 レイビス様を見つめる私を見て、キルスティン様が可愛らしい笑顔を向けながらそう言った。

 「す、す、好きだなんて……」

 顔を真っ赤に染める私を見て、キルスティン様はさらに笑顔になる。

 「セリーナ様……可愛い!」

 「そう! セリーナは、可愛いのです! キルスティン様は、分かっていますね」

 シェリルとキルスティン様は、私の話で盛り上がっている。なんだか、複雑な気分だ。けれど、こんな風にクラスメイトと笑いあえる学園生活も楽しい。
 みんなも、私がお母様ではなく別の人間なのだと理解してくれている。お母様のようなカリスマ性は私にはないけれど、私という人間を否定したりはしない。

 「そういえば、領地の方は大丈夫なのですか?」

 キルスティン様が心配してくれている領地とは、私がこの国で公爵として治めている領地のことだ。
 叔父様の信頼出来る侯爵家の方にお任せしてはいるけれど、定期的に報告を受け、指示はしていた。
 叔父様に領地をいただいたあの日から、公爵領のことを調べ、私なりに勉強をして来た。

 「大丈夫……とは、自信を持って言えませんが、お任せしているテイラー侯爵がとても優秀な方で、いつも助けられています」

 広大な土地と領民の多さに圧倒されたけれど、今の所上手くやれている。

 「学業と両立なさるのは、大変なことと思いますが、無理はなさらないでくださいね」

 キルスティン様は、五人姉妹の長女だそうだ。面倒見が良く、優しいお姉さんなのがよく分かる。
 この国はなぜか、第一子は女の子が産まれることが多いそうだ。その為、家を継ぐのは女性が多い。割合でいうと、七割の女性が家を継いでいる。そのことが原因で、家を継がない女性の嫁ぎ先が激戦になっている。
 転校初日に、レイビス様はそんな女生徒達から狙われていたらしい。あの日、レイビス様が私にしか興味がないと宣言したことで、あからさまなレイビス様狙いの女生徒が居なくなったようだ。
 『お兄様がモテたのは、一瞬だったのね』と、シェリルがからかっていた。

 「何だかキルスティン様が、お姉様のように思えて来ました」

 お姉様が居たら、こんな感じなのかなと思えた。同じ歳なのだけれど……

 「それは、聞き捨てならないわ! セリーナのお姉様は、私でしょう? お兄様と結婚したら、私がお姉様……に、ならないじゃない! 私が、妹だなんて……
 お兄様! 弟になってください! セリーナにお姉様と呼ばれたいのです!」

 シェリルがなぜか必死になっているところを見て、キルスティン様と顔を見合わせて笑ってしまった。
 シェリル、ごめん。シェリルは、お姉様というより妹よ。


 剣術大会が翌日に迫り、生徒達がソワソワし始めた。明日の大会に、皇帝陛下がお見えになるという噂が流れ始めたからだ。

 「皇帝陛下がお見えになるなら、俺も参加すれば良かった……」
 「恥をかくだけだぞ。参加しなくて正解だ」
 「陛下に一瞬でも認識いただけるならば、俺は死んでも構わない!」
 
 生徒達の様子を見る限り、叔父様はものすごく頑張って来たのだと分かる。
 明日は叔父様にも会えるし、レイビス様とモニカの剣術も見られる。

 「お兄様ったら、珍しく真剣な顔をしているわ。モニカも、良い顔をしてる。モニカには悪いけれど、明日はお兄様を応援するからね」

 出場する人は、レイビス様やモニカ以外の方も、ピリピリとした空気を纏っている。
 レイビス様の真剣な顔が新鮮で、カッコイイと思ってしまった。本人には、恥ずかしくて言えないけれど。
 
 「分かっています。私は、セリーナ様の護衛として全力を尽くすのみです」

 モニカは、真面目だな。
 私のことより、自分のことを考えて欲しい。 
 たとえ優勝出来なくても、モニカ以外の護衛なんて考えられない。けれど、モニカに優勝して欲しいとも思っている。
 私はレイビス様にもモニカにも、優勝して欲しい。欲張りだけれど、どちらか一人を応援するなんて出来ない。

 「レイビス様、モニカ、これを……」

 二人には、手作りのお守りを渡した。
 手先が器用な方ではないから、時間もかかってしまったし、何より不格好だ。
 そんな不格好なお守りを受け取った二人が、感極まって目に涙を浮かべている。
 そんなに感動されると、何だか申し訳ない……

 「セリーナ……俺は今、最高に幸せだ!」
 「セリーナの手作り……こんなに素敵な贈り物をいただけるなんて……」

 本当に、申し訳ない……

 「そんな不格好なお守りで、こんなに喜んでもらえて良かった」

 「気持ちが大事だ! セリーナの真心が込められているのだから、優勝は俺に決まりだな!」

 「私のお守りの方が、セリーナの気持ちが込められています! レイビス様は、ついでです。ついで!」

 なぜか、またケンカを始めてしまった。

 「セリーナ……私には? ねえ、私にはないの?」

 シェリルが瞳をうるうるさせながら、詰め寄って来る。

 「え? シェリルは、大会に出ないし」

 「不公平よ! セリーナへの愛は、二人にも負けていないのにぃ……」

 お姉様になりたいと言っていたシェリルが、駄々をこねる子供のように見えた。
 この後、『シェリルにも作る』と言うまで、シェリルは駄々をこねていた。

しおりを挟む
感想 301

あなたにおすすめの小説

【完結】さよなら私の初恋

山葵
恋愛
私の婚約者が妹に見せる笑顔は私に向けられる事はない。 初恋の貴方が妹を望むなら、私は貴方の幸せを願って身を引きましょう。 さようなら私の初恋。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

【完結】精神的に弱い幼馴染を優先する婚約者を捨てたら、彼の兄と結婚することになりました

当麻リコ
恋愛
侯爵令嬢アメリアの婚約者であるミュスカーは、幼馴染みであるリリィばかりを優先する。 リリィは繊細だから僕が支えてあげないといけないのだと、誇らしそうに。 結婚を間近に控え、アメリアは不安だった。 指輪選びや衣装決めにはじまり、結婚に関する大事な話し合いの全てにおいて、ミュスカーはリリィの呼び出しに応じて行ってしまう。 そんな彼を見続けて、とうとうアメリアは彼との結婚生活を諦めた。 けれど正式に婚約の解消を求めてミュスカーの父親に相談すると、少し時間をくれと言って保留にされてしまう。 仕方なく保留を承知した一ヵ月後、国外視察で家を空けていたミュスカーの兄、アーロンが帰ってきてアメリアにこう告げた。 「必ず幸せにすると約束する。どうか俺と結婚して欲しい」 ずっと好きで、けれど他に好きな女性がいるからと諦めていたアーロンからの告白に、アメリアは戸惑いながらも頷くことしか出来なかった。

【完結】王太子殿下が幼馴染を溺愛するので、あえて応援することにしました。

かとるり
恋愛
王太子のオースティンが愛するのは婚約者のティファニーではなく、幼馴染のリアンだった。 ティファニーは何度も傷つき、一つの結論に達する。 二人が結ばれるよう、あえて応援する、と。

幼馴染がそんなに良いなら、婚約解消いたしましょうか?

ルイス
恋愛
「アーチェ、君は明るいのは良いんだけれど、お淑やかさが足りないと思うんだ。貴族令嬢であれば、もっと気品を持ってだね。例えば、ニーナのような……」 「はあ……なるほどね」 伯爵令嬢のアーチェと伯爵令息のウォーレスは幼馴染であり婚約関係でもあった。 彼らにはもう一人、ニーナという幼馴染が居た。 アーチェはウォーレスが性格面でニーナと比べ過ぎることに辟易し、婚約解消を申し出る。 ウォーレスも納得し、婚約解消は無事に成立したはずだったが……。 ウォーレスはニーナのことを大切にしながらも、アーチェのことも忘れられないと言って来る始末だった……。

一番悪いのは誰

jun
恋愛
結婚式翌日から屋敷に帰れなかったファビオ。 ようやく帰れたのは三か月後。 愛する妻のローラにやっと会えると早る気持ちを抑えて家路を急いだ。 出迎えないローラを探そうとすると、執事が言った、 「ローラ様は先日亡くなられました」と。 何故ローラは死んだのは、帰れなかったファビオのせいなのか、それとも・・・

【完結】失いかけた君にもう一度

暮田呉子
恋愛
偶然、振り払った手が婚約者の頬に当たってしまった。 叩くつもりはなかった。 しかし、謝ろうとした矢先、彼女は全てを捨てていなくなってしまった──。

【完結】真実の愛だと称賛され、二人は別れられなくなりました

紫崎 藍華
恋愛
ヘレンは婚約者のティルソンから、面白みのない女だと言われて婚約解消を告げられた。 ティルソンは幼馴染のカトリーナが本命だったのだ。 ティルソンとカトリーナの愛は真実の愛だと貴族たちは賞賛した。 貴族たちにとって二人が真実の愛を貫くのか、それとも破滅へ向かうのか、面白ければどちらでも良かった。

処理中です...