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番外編 カイン視点
しおりを挟む僕は、どこで間違えてしまったのだろうか。
「カイン様、私達はもう終わったのです。カイン様も、自由になってください」
自由……? 自由とは、いったいなんなのだろうか。
もう元には戻れないのだと、セリーナを呼び出したあの日に分かっていた。
彼女の笑顔は、二度と僕に向けられることはない。
失ってしまったのだと思い知らされて、心に大きな穴がぽっかり空いた。
セリーナは明日、スフィリル帝国へ行くと聞いた。
近くに居ることさえ、出来なくなってしまった。
「俺は、セリーナと一緒にスフィリル帝国に行く」
自信満々に、そう言えてしまうレイビス殿下が羨ましい。
自業自得……それは、分かっている。
学園に入学した二年間、僕はクリスティのことばかり優先してきた。
クリスティを愛していたとか、そんなんじゃない。クリスティに、恋愛感情は一切なかった。
入学して再会したクリスティは、幼い頃とは別人のように落ち込んでいて、弱々しくて、僕が守らないと消えてしまいそうに見えた。
最初は、セリーナもクリスティのことを心配していた。セリーナは心が優しく、さらに惚れなおした。こんなに素敵な婚約者がいて、本当に幸せを感じていたんだ。だがいつからか、セリーナが変わってしまった。
『婚約者は、私なのに……』そう言ったセリーナに、腹が立った。そんなセリーナに、『君は心が狭いのだな……』と僕は言っていた。
僕は、セリーナを傷付けたことさえ気付いていなかった。
クリスティが弱々しく見えたのは、演技だということにも気付かない愚かな僕は、セリーナを傷付け続けていたんだ。
失って初めて、自分の過ちに気付いた。
だけど、遅かった。彼女の気持ちは、すでに僕から離れていた。
セリーナはいつも、僕に一目惚れしたと言ってくれた。でも本当は、僕も彼女に一目惚れしていた。
セリーナと婚約したくて、必死で父を説得した。
好きで、好きで、好きで……大好きでたまらなくて、何よりも大切だった。
セリーナは美し過ぎるから、他の男が放っておかない。いつか誰かにとられてしまうのではと、毎日怯えていた。
だから、『君の顔を他の男に見せたくない』と彼女を束縛してしまった。彼女はその日から前髪を伸ばし、化粧をしなくなった。
セリーナは僕の為にそこまでしてくれたのに、僕は彼女を傷付けることしかしてこなかった。
いつだってセリーナは、僕を理解してくれると思っていたんだ。彼女に甘え、彼女なら許してくれると……
最低最悪の男だ、僕は。
こうして見ると、やっぱりセリーナは美しい。
容姿だけでなく、心まで。
そうか……僕は、最初から間違えていたんだ。
彼女を縛り、自由を奪っていた。
僕は、彼女にあんな風に幸せな顔をさせてあげられなかった。
大好きなセリーナを、忘れることは僕には出来そうにない。
今日で、彼女の顔を見ることさえ出来なくなる。だから、その笑顔を目に焼き付ける。
セリーナが幸せならそれでいい……そう思える程、僕は強くない。
明日、君が出発したら、僕も旅に出よう。
君が居ないこの学園にも、この国にも今は辛くていられない。
父には迷惑をかけてしまうけれど、このままここに居たら、僕はセリーナを失った悲しみで生きて行けそうにない。
何年、何十年かかるか分からないけど、必ず戻ると手紙を出した。
いつか……いつかもし、また君に会えたら、君の幸せを心から願えるようなそんな男になりたい。
今はまだ、君の笑顔をこの目に焼き付けて、君を愛することを許して欲しい。
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