〖完結〗幼馴染みの王女様の方が大切な婚約者は要らない。愛してる? もう興味ありません。

藍川みいな

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29、旅立ち

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 クリスティ様の誕生パーティーから、数週間が経った。
 国王様はルギウス殿下に譲位を決め、ルギウス殿下がグルダの国王になることが決まった。
 王妃様とサイモン殿下がクリスティ様のしたことを知っていて隠していたとし、それぞれ廃妃、廃王子となった。大切にすることと甘やかすことは違うのだと、なぜ分からなかったのか……
 王妃様も、そのように育てられて来たのだろう。
 ルギウス殿下は父親似で、幼い頃から王太子としての厳しい教育を受けて来たけれど、サイモン殿下は王妃様似で、王妃様に甘やかされて育ったそうだ。その二人に甘やかされて育ったクリスティ様が、あのようになってしまったのも無理もない。
 王妃様の実家であるランドルク公爵家は、三大貴族からその名を消した。
 寮長は、学園からもグルダ王国からも追放されることになる。寮長にとっては、庶子だとバカにされることはなくなり、自由を手に入れることが出来るのだから、そう悪くないのかもしれない。
 
 「全てが終わって、学園も平和になったわね。ここで、セリーナに初めて会った時のことを思い出すわ」

 今日も四人で、お昼を食べている。
 クリスティ様が居なくなり、シェリルの顔が穏やかになった。

 「まさか、シェリルがルギウス殿下と婚約すると言い出すなんてね」

 シェリルはグランディ王国の国王様に、婚約の許しをいただく為に一度グランディに帰るそうだ。
 
 「どうしてもと頼み込んで来たから、仕方なくよ」

 ルギウス殿下が国王に即位する前に、グランディ王国の国王様に二人で会いに行く。
 クリスティ様のことで、シェリルはこの国を恨んでいると思っていたけれど、ルギウス殿下の話をする時のシェリルの表情は恋する乙女だ。仕方ないと言いながら、嬉しそうにしているシェリルが可愛い。
 それだけ、ルギウス殿下は素敵な方なのだろう。

 「レイビス様は、どうなさるのですか?」

 「俺は、セリーナと一緒にスフィリル帝国に行く」

 私は今日で、この国を出てスフィリル帝国へと行く。そして半年間、スフィリル帝国の学園に通うことになっている。
 スフィリル帝国のことを、私は何も知らない。そんな私が、帝国の公爵ということに違和感がある。少しでも帝国のことを学んで、認めてもらう為だ。

 「本気ですか?」

 正直心細かったから、一緒に来てくれるのは嬉しい。それに、レイビス様と離れたくない気持ちもあった。

 「セリーナは、半年も俺と離れて平気なのか?」

 「平気です!」

 私が答える前に、モニカが答える。

 「モニカには、聞いていない。俺は、皇帝陛下に認めてもらう為にスフィリル帝国に留学する!」
 
 そう宣言したレイビス様と一緒に、スフィリル帝国へ行くことになった。
 叔父様は、すでにこの国を発っている。
 一緒にスフィリルにと言われたけれど、その前にお父様とサミュエルに会ってから出発したかった。

 翌日、私達は学園を出発した。
 最初の二年間は、いい思い出なんて一つもないけれど、レイビス様に出会い、シェリルと親友になり、モニカと友達になって、いつの間にか楽しい思い出も出来ていた。
 馬車の窓から遠ざかって行く学園を見ながら、楽しかったことを思い出していたのだけれど……

 「モニカは、護衛だろう? なぜこの馬車に乗っているんだ?」
 「外よりも、馬車の中が危険と判断したからです!」
 「セリーナと二人きりの時間を楽しみにしていたのに、邪魔をするな!」
 「そんな不純な考え方をしている方と、二人きりにはさせません!」

 馬車に乗り込んでから、二人はずっとケンカをしている。スフィリル帝国までは、馬車で一ヶ月程かかる。まさか、ずっとこの調子なのだろうか……
 思い出に浸る時間さえ、与えてくれない。
 結局、シェリルやルギウス殿下と、途中まで一緒に行くことになり、後ろの馬車に二人は乗っている。
 レイビス様、シェリル、ルギウス殿下の護衛が加わり、かなりの人数での移動になってしまった。

 「二人は、仲がいいですね」

 ふと、そんな言葉が出ていた。
 ケンカする程仲がいい……そんなふうに思えた。

 「「良くない!!」」

 息もピッタリで、おかしくなって笑ってしまった。

 「ふふっ」

 私が笑うと、二人はキョトンとした顔をした。
 モニカはいつもレイビス様にケンカ腰だけれど、嫌いではないのだと分かってきた。
 
 結局、あの後ずっと二人はケンカしたまま、ブランカ子爵邸へと到着した。
 今日はここに、一泊することになる。

 「ようこそ、いらっしゃいました。どうぞ、お寛ぎください」

 お父様は、私が友人を連れて来たことが余程嬉しかったようで、上機嫌で迎えてくれた。
 私は自分の部屋を使い、四人は客室で休んでもらうことになった。
 
 「お父様、少しよろしいですか?」

 夕食を終えた後、お父様の部屋を訪ねた。
 お父様と直接話すのは、お母様がスフィリル帝国の皇女だったことを聞いて以来だ。

 「ああ、私も話したかった。こちらに来て、座りなさい」

 ソファーに座るお父様の隣に腰をおろすと、先にお父様が話し始めた。

 「おまえがスフィリル帝国に行くのは、サミュエルの為か?」

 お父様には、話さなくてもお見通しだったようだ。コクンと頷くと、お父様はそのまま続ける。

 「おまえは、レイビス殿下と想いあっているのだとすぐに分かったよ。ブランカ子爵家のことは、気にするな。弟のロイドも居るし、何とかなる。おまえが、したいようにしなさい」

 いつだってお父様は、私のしたいようにしなさいと言ってくれる。

 「ありがとうございます。……お母様は、お父様と出会えて、幸せだったと思います。私が覚えているのは、いつも陽だまりのような笑顔のお母様だけです。幸せでなかったのなら、あのようには笑えないと思います」

 お父様はお母様を不幸にしたのではと、自分を責めてきた。でもきっと、お母様は最高に幸せだったのだと思う。

 スフィリル帝国で認められたいのは、公爵の爵位をサミュエルに譲る為だ。私もサミュエルも、スフィリル帝国のことはほとんど知らない。
 きっと私達は、すぐには受け入れてもらえないだろう。
 サミュエルが望まないなら、無理にとは言わない。ただ、選べる道を示したい。

 お父様とサミュエルにお別れの挨拶をして、私達はまた馬車でそれぞれの目的地に向かう。

 ◇ ◇ ◇

 スフィリル帝国の帝都にある、クラウド学園。
 グルダの学園と同じ全寮制の学園で、グルダの学園の三倍の大きさはある。

 「お聞きになりました? この学園に、マリエル様のご息女が転校して来るそうよ」
 「聞きましたわ! どこかの小さな国の、貧乏子爵令嬢なのでしょう? そんな方が、この国の公爵になるとか……納得いきませんわ!」
 「小さな国の貧乏子爵令嬢……この国が、そんな貧乏令嬢の来るところではないと思い知らせましょう」

 クラウド学園では、セリーナの話題で持ちきりになっていた。

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