〖完結〗幼馴染みの王女様の方が大切な婚約者は要らない。愛してる? もう興味ありません。

藍川みいな

文字の大きさ
上 下
28 / 45

28、さようならクリスティ様

しおりを挟む


 クリスティ様の答えは、分かっている。
 
 「毒……杯……?」

 死を連想させれば、クリスティ様は目の前の死よりも生きる地獄を選ぶ。
 自分の魅力で、ルツォリオ陛下などどうにでもなるかもしれないと考えているだろう。

 「……嫁ぎます!」

 思った通りだった。
 残念だけれど、ルツォリオ陛下を誘惑することは不可能だ。悪い評判の中で、唯一良い評判……ルツォリオ陛下は、王妃様だけを愛している。
 女性をオモチャとしか思っていないルツォリオ陛下が、王妃様だけは大切にしているのだ。
 そして、側妃は子を成すことさえ出来ない。毎日与えられる健康の為と称した薬が、妊娠することが出来ない身体にする。
 ルツォリオ陛下とお会いしたのは、それらのことを全て陛下から確認し、クリスティ様のしたことも全て伝えた上で妻に迎えてもらえるかを確認する為だった。

 「ルツォリオ陛下、クリスティ様、ご結婚おめでとうございます」

 二人の結婚式は、行われることはない。
 
 「どうして、クリスティがこんなことに!? 陛下、クリスティを助けてください!」

 ボボノア王国の護衛兵がクリスティ様を連れて行こうとしたところで、王妃様が取り乱した。
 取り乱す王妃様を、必死になだめようとする国王様とルギウス殿下。サイモン殿下は、何も出来ずにうろたえている。
 クリスティ様は、毒杯を飲みたくはないからか、大人しく護衛兵について行く。

 「クリスティ様、私達に言うことはないのですか?」

 シェリルが、クリスティ様を呼び止める。
 
 「……申し訳ありませんでした。お二人の死を、望んでいたわけではありませんが、私がしたことが原因だと分かっていました。全て、私の責任です……」

 心から反省していないのはわかっているけれど、自ら謝ったことで、シェリルもレイビス様もそれ以上何も言わなかった。

 「こんなこと、許されないわ! あなた、セリーナと言ったわね!? あなたは、この国の子爵令嬢なのでしょう!? そのあなたが、王にでもなったつもり!? クリスティを返してよ! 返しなさいよ!!」

 王妃様が叫びながら私に近付こうとした時、パンッという大きな音が、会場に響き渡った。取り乱す王妃様の頬を、国王様が思い切り叩いていた。

 「いい加減にしなさい! クリスティは、それだけのことをしたのだ!」

 王妃様は、なぜ自分が殴られたのか理解出来ないという顔をしている。まるで、クリスティ様を見ているようだ。
 王妃様は、ランドルク公爵家の人間だった。つまり、寮長の腹違いの姉だ。
 王妃様とクリスティ様を見ていたら、少しだけ寮長に同情する。
 
 「私の姪を侮辱するとは、許せませんね」

 叔父様は、この場で王妃様を処刑してしまいそう……

 「陛下、王妃様のことはこの国のことです。国王陛下にお任せしましょう。先程の発言は、子を想う親の気持ちを考えれば、仕方がないことなので大目に見てください」

 真っ先に、自分の命を差し出すと決断した国王様なら、相応の罰を与えてくれるだろうと思う。

 「……分かった」

 叔父様も分かってくれたところで、前を向いて挨拶をする。

 「お騒がせしてしまい、申し訳ありませんでした」

 頭を下げてから、壇上をおりる。
 壇上の下では、カイン様が待っていた。

 「本当に、すまなかった!」

 「頭をあげてください。私は、カイン様の大切な存在ではなかったというだけです」

 「それは、違う!!」

 違わない。
 もしも私が、カイン様にとって本当に大切な存在だったなら、蔑ろにしたりは出来なかったはずだ。
 カイン様の優先順位は、いつだってクリスティ様だった。たとえ恋愛感情からではなかったとしても、カイン様の中で守りたい存在だったのはクリスティ様だ。

 「カイン様、私達はもう終わったのです。カイン様も、自由になってください」

 カイン様が私に付きまとうことは、二度とないだろう。
 そのまままっすぐ、レイビス様とシェリル、そしてモニカのもとへとゆっくり歩いて行く。三人の前で足を止めると、シェリルが思い切り抱きついてきた。

 「セリーナ……ありがとう……」

 シェリルの復讐は、終わった。

 「私……セリーナに、話さなければならないことがあるの……」

 シェリルは抱きついたまま、思いつめたようにそう言った。

 「うん、知ってる」

 「……え?」

 私の返事を聞いて、驚いて離れる。
 
 「知ってるよ」

 そう言って、シェリルに笑顔を向ける。

 「どうして……?」
 
 不思議そうに、私の顔をじっと見つめる。

 「だって、親友だもの」

 シェリルの瞳から、大粒の涙がこぼれ落ちる。
 シェリルが、私を利用する為に近付いたことには気付いていた。

 「いつから、気付いていたの?」

 「わりと、最初の方かな。私のお母様が、スフィリル帝国の皇女だったと教えてくれた時からなんとなくね。確信したのは、ハンナ様とシオン様の話を聞いた時」

 シェリルは、クリスティ様に復讐する為に私に近付いた。私の素性を知った時から、計画していたのだろう。

 「ごめんなさい! 本当に、ごめんなさい!! どんな罰でも、受ける覚悟は出来ているわ!」

 「罰なんて、必要ないわ。私を利用する為に近付いたのだとしても、一緒に過ごしたシェリルは本当のシェリルだったと思うから。それに何より、私はシェリルに救われたの。私にとってシェリルは、かけがえのない親友よ」

 クリスティ様の誕生パーティーに、叔父様が出席すると噂を流したのもシェリルだ。
 レイビス様とのデートの帰りの馬車で、彼が言っていた『誰かを信じて、裏切られることもあるかもしれない』と言っていたのは、シェリルのことだ。
 私が叔父様の姪だと知ったあの日に、レイビス様もシェリルの考えていることが分かったのだろう。
 
「私……ごめ……セリーナ……ごめんなさい……」

 そのままシェリルは、泣き出してしまった。
 シェリルの頭を抱き寄せ、泣き止むまで背中をさすっていた。

 「おい、いい加減離れろ」

 レイビス様が不満そうにそう言うと、シェリルは絶対に離れないといわんばかりに私に抱きついた。

 「おーまーえーなー! ずるいぞ! だいたい、セリーナもセリーナだ! そんなに簡単に許すなんて甘過ぎるぞ!」

 シェリルに抱きつかれながら、なぜかレイビス様に説教をされる。

 「……最初は、利用するつもりで近付いたのは事実なの。でも、すぐに後悔した。セリーナがあまりに素敵な子で、一緒にいると楽しくて、辛かったことを忘れられた。何度も打ち明けようと思ったけれど、嫌われるのが怖くて話せないまま今日まで来ていた。こんな私を、親友だと言ってくれてありがとう。本当に本当に、大好き」

 
しおりを挟む
感想 301

あなたにおすすめの小説

【完結】さよなら私の初恋

山葵
恋愛
私の婚約者が妹に見せる笑顔は私に向けられる事はない。 初恋の貴方が妹を望むなら、私は貴方の幸せを願って身を引きましょう。 さようなら私の初恋。

立派な王太子妃~妃の幸せは誰が考えるのか~

矢野りと
恋愛
ある日王太子妃は夫である王太子の不貞の現場を目撃してしまう。愛している夫の裏切りに傷つきながらも、やり直したいと周りに助言を求めるが‥‥。 隠れて不貞を続ける夫を見続けていくうちに壊れていく妻。 周りが気づいた時は何もかも手遅れだった…。 ※設定はゆるいです。

【完結】精神的に弱い幼馴染を優先する婚約者を捨てたら、彼の兄と結婚することになりました

当麻リコ
恋愛
侯爵令嬢アメリアの婚約者であるミュスカーは、幼馴染みであるリリィばかりを優先する。 リリィは繊細だから僕が支えてあげないといけないのだと、誇らしそうに。 結婚を間近に控え、アメリアは不安だった。 指輪選びや衣装決めにはじまり、結婚に関する大事な話し合いの全てにおいて、ミュスカーはリリィの呼び出しに応じて行ってしまう。 そんな彼を見続けて、とうとうアメリアは彼との結婚生活を諦めた。 けれど正式に婚約の解消を求めてミュスカーの父親に相談すると、少し時間をくれと言って保留にされてしまう。 仕方なく保留を承知した一ヵ月後、国外視察で家を空けていたミュスカーの兄、アーロンが帰ってきてアメリアにこう告げた。 「必ず幸せにすると約束する。どうか俺と結婚して欲しい」 ずっと好きで、けれど他に好きな女性がいるからと諦めていたアーロンからの告白に、アメリアは戸惑いながらも頷くことしか出来なかった。

【完結】王太子殿下が幼馴染を溺愛するので、あえて応援することにしました。

かとるり
恋愛
王太子のオースティンが愛するのは婚約者のティファニーではなく、幼馴染のリアンだった。 ティファニーは何度も傷つき、一つの結論に達する。 二人が結ばれるよう、あえて応援する、と。

幼馴染がそんなに良いなら、婚約解消いたしましょうか?

ルイス
恋愛
「アーチェ、君は明るいのは良いんだけれど、お淑やかさが足りないと思うんだ。貴族令嬢であれば、もっと気品を持ってだね。例えば、ニーナのような……」 「はあ……なるほどね」 伯爵令嬢のアーチェと伯爵令息のウォーレスは幼馴染であり婚約関係でもあった。 彼らにはもう一人、ニーナという幼馴染が居た。 アーチェはウォーレスが性格面でニーナと比べ過ぎることに辟易し、婚約解消を申し出る。 ウォーレスも納得し、婚約解消は無事に成立したはずだったが……。 ウォーレスはニーナのことを大切にしながらも、アーチェのことも忘れられないと言って来る始末だった……。

一番悪いのは誰

jun
恋愛
結婚式翌日から屋敷に帰れなかったファビオ。 ようやく帰れたのは三か月後。 愛する妻のローラにやっと会えると早る気持ちを抑えて家路を急いだ。 出迎えないローラを探そうとすると、執事が言った、 「ローラ様は先日亡くなられました」と。 何故ローラは死んだのは、帰れなかったファビオのせいなのか、それとも・・・

【完結】失いかけた君にもう一度

暮田呉子
恋愛
偶然、振り払った手が婚約者の頬に当たってしまった。 叩くつもりはなかった。 しかし、謝ろうとした矢先、彼女は全てを捨てていなくなってしまった──。

【完結】真実の愛だと称賛され、二人は別れられなくなりました

紫崎 藍華
恋愛
ヘレンは婚約者のティルソンから、面白みのない女だと言われて婚約解消を告げられた。 ティルソンは幼馴染のカトリーナが本命だったのだ。 ティルソンとカトリーナの愛は真実の愛だと貴族たちは賞賛した。 貴族たちにとって二人が真実の愛を貫くのか、それとも破滅へ向かうのか、面白ければどちらでも良かった。

処理中です...