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27、クリスティ様の誕生パーティー6
しおりを挟む「私は、欲しいものを手に入れる為に全力を尽くしただけです! 子爵令嬢との恋なんて、上手くいくはずはないではありませんか! 私はただ、シオン様の背中を少し押しただけなのです!」
それは、クリスティ様が決めることではない。
卑怯な手を使い、無実の罪まで着せたあげく、シオン様を脅しておいて、全力を尽くしたとはどの口が言っているのか。そもそも、シオン様を愛していたわけでもなく、欲しかったのはグランディ王国の王太子妃の座。
「クリスティ様には、何を言っても無駄なのですね。欲しいものを手に入れる為には、何をしてもいいと? それが、王女のすることですか? あなたのしたことで、この国が他国に攻められるかもしれないのですよ?」
そんなことを、クリスティ様に言っても無駄だろう。
「私から盗んだこの指輪は、スフィリル帝国の皇族だけがつけることを許される指輪です。その指輪を、あなたはその指にはめた。それは、スフィリル帝国への宣戦布告ととってよろしいですね?」
グランディ王国からも、スフィリル帝国からも、この国は攻められてもおかしくない行いを、クリスティ様がしてしまった。
クリスティ様が事情を分かっていなかったとしても、スフィリル帝国の皇族を侮辱した行為だ。知りませんでしたでは、すまない。
「お待ちください! 皇帝陛下、セリーナ様、レイビス王太子殿下、シェリル王女殿下、申し訳ありませんでした! 全ては、この国の国王である私の責任です! どうか、私とクリスティの命をもって、お許しいただけないでしょうか!?」
国王陛下が、深々と頭を下げながら許しを乞う。
「お父様!? 命をとは、いったいどういうことなのですか!?」
国王陛下の発言に、慌てるクリスティ様。
「おまえは、まだ事の重大さが理解出来ないのか!? 許しを得られなければ、この国は滅ぶ! そんなことも分からなかったのか!?」
国王様の必死な様子に、クリスティ様はようやく状況を理解出来たようだ。
生気が抜けたように、彼女は放心している。自分の死を意識したことで、大変なことをしてしまったのだと気付いた。
この件は、叔父様にもレイビス様とシェリルからも一任されている。グランディ王国の国王陛下には、叔父様が早馬を送り、こちらの判断に任せて欲しいと伝えた。
戦争は、誰も望まない。けれど、対応次第でそうなることを分かっているからこその、グルダ国王の決意だった。
「申し訳ございません、その申し出は受け入れられません。そこまで仰ってくださるなら、こちらに皆様のこれからの処遇をお任せしてはいただけませんか?」
命で償うのは、ハンナ様やシオン様のことを考えれば当然なのかもしれない。けれど、死は逃げでしかない。クリスティ様は、ここまで話しても、全く反省の色が見えない。そんな人間を、簡単に楽になどさせない。一生苦しみ、自分がしたことを悔いながら生きるべきだ。
「……分かりました。全て、お任せいたします」
国王様の覚悟は、受け取った。
「お父様!? 私、死にたくありません! セリーナ様、私達クラスメイトですよね!? どうか、どうかお許しください!」
私の足元で、縋り付くように命乞いをするクリスティ様を見ていると、余計に許せなくなる。
自分は死にたくないけれど、他の方が亡くなったことに対しては謝罪もしない。どこまでも自分勝手で、自分さえ良ければいいという考え方。
どうしてあなたが、王女になど生まれてしまったのか……
「クリスティ・グルダ王女、あなたにはボボノア王国のルツォリオ陛下に嫁いでいただきます」
先日、レイビス様とシェリルに、お会いしたい方がいると話したのはルツォリオ陛下のことだった。
ルツォリオ陛下は、評判通り……いや、評判以上に最低最悪な方だった。
ルツォリオ陛下には、すでに三十八人の妻がいる。最初のメイラ王妃以外は、ルツォリオ陛下にとってはただのオモチャ。
残りの三十七人は、全員どこかの国のやらかし王女だそうだ。
彼女達は離宮に住まわされ、そこには使用人もいない。自分のことは自分でしなければならず、離宮全体の掃除と食事の用意は一番新しい側妃がする。食事といっても、置いてある食材は腐りかけ。離宮から出ることは許されず、陛下の気が向いた時には夜の相手をする。陛下専用の、娼館のようなものだそうだ。
一度離宮に入れば、二度と抜け出すことは出来ない。亡くなった妃は、葬儀もあげられることなく、離宮に埋葬される。
亡くなっても、家族に知らされることさえない。
先程、三十七人の側妃がいるとはいったけれど、生死は定かではない。
全員、国から厄介者扱いされ、死罪になってもおかしくなかった側妃もいる。
ボボノア王国の側妃は、嫁いだ順に番号で呼ばれるそうだ。番号が若い方が、離宮の中の身分が高い。つまり、三十九番目の妻となるクリスティ様は、いじめの対象になるだろう。
王女としての立場を利用してやりたい放題して来た彼女には、最も辛い罰になる。
「い……やよ……!! そんなの、絶対に嫌!!!」
死ぬよりも辛い地獄。嫌なのは、当たり前だ。
「そうですか……では、毒杯を飲みますか?」
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