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26、クリスティ様の誕生パーティー5
しおりを挟む私が壇上に上がると、クリスティ様は怖い顔でこちらを睨んだ。
『なぜあなたが壇上に?』と思っているのだろう。クリスティ様はこの国の王女様で、私は貧乏子爵令嬢。誰もがクリスティ様に味方するものだと思っていたから、やりたい放題して来た。
だから私は、今からクリスティ様よりも上の立場になる。今まで守ってくれたその身分が、更に上の身分に負かされる辛さを味わうべきだと思う。
壇上に上がると、叔父様は私の指に指輪をはめてくれた。
「少し、昔話をしましょう。ご存知の方もいるでしょうが、私には姉がおりました。姉は、他国の子爵と恋に落ち、帝位継承権を放棄して国を去りました。姉は二人の子を産み、十一年前にこの世を去ってしまいました。私がこの国に来た理由は、姉の忘れ形見であるセリーナを、スフィリル帝国の女帝として迎える為です」
会場中が、叔父様の爆弾発言にザワつく。
ずっと私を睨み付けていたクリスティ様も、驚きのあまり、目と口を大きく開いたまま固まっている。
「と言っても、セリーナには帝位継承権を放棄されてしまったのですが……。
これからは、この国の子爵令嬢としてではなく、我が国の皇族であり、公爵としてセリーナをよろしくお願いいたします」
叔父様の口から、私の身分が証明された。
私がスフィリル帝国の皇族だと聞いて、青ざめた顔で驚き戸惑っているクリスティ様の方を向き、彼女の目を見つめる。
「クリスティ様、あなたが今までして来たことは許されることではありません。あなたがしたことで、たくさんの方が辛い目にあって来ました。それなのに、あなたは何も変わらなかった。反省することもなく、また同じことを繰り返しました。覚えていらっしゃいますか? ハンナ様のことを……」
「……申し訳ありません。存じ上げませんわ」
その瞬間、彼女には人としての感情が欠けているのだと悟った。容赦する必要は、何もない。
「まさか、ご自分が陥れた方の名を覚えていないなんて……。それでも、あなたは人間なのですか? 三年前、あなたはグランディ王国のシオン様を手に入れる為に、私を陥れようとした方法と同じ手で、ハンナ様に窃盗の罪を着せましたよね?」
さすがにシオン様のことは覚えていたのか、クリスティ様の顔色が変わった。
「え……シオン殿下は、クリスティ様の婚約者だった方では?」
「確か、シオン殿下はご病気で亡くなられたとか……」
シオン様は、ご病気で亡くなられたのだと誰もが思っていた。私も、その一人だ。
そして、誰もがクリスティ様に同情した。真実を知らずに、『クリスティ様が可哀想』だと。
シェリルも、レイビス様も、どれほど辛かっただろうか。
「そ、そのようなことは、しておりませんわ! あれは、本当に盗まれたのです!」
あれはだなんて、私にしたことは認めるのね。
シェリルが、証拠もなしに濡れ衣だと言うはずがない。それはつまり……
「ハンナ様の持ち物に、クリスティ様の宝石を忍び込ませるように命じられました!」
シェリルは、証言してくれる人を見つけていた。
彼女は伯爵令嬢で、クリスティ様の侍女だ。クリスティ様には、幼い頃から仕えていたのだけれど、ハンナ様とシオン様の死で耐えられなくなり、全てをシェリルに話した。今まで証言しなかったのは、シェリルの指示だった。
「まだ、言い逃れなさるおつもりですか?」
じわじわ追い詰めたところで、クリスティ様が反省することはない。それでも、じわじわと彼女に自分がしたことを思い知らせる。
「わ、私は、そんなことを命じてはおりません! 侍女が勝手にやったことです!」
長年仕えてきた侍女の名前すら、覚えていない。
しかも、侍女が勝手にやったことだという始末。
「黙りなさい!! 言い訳など、聞きたくない!! 先程から聞いていれば、『自分は悪くない』『私は何もやっていない』と言い訳ばかり! いつになったら、クリスティ様は反省するのですか? ハンナ様に罪を着せ、彼女と想いあっていたシオン殿下を、『ハンナ様の罪を許すかわりに、私と婚約してください』と脅したことも分かっています! 自分のせいでシオン殿下が婚約したことを知り、彼女は自らの命を絶ったのですよ!? そして、シオン殿下も……
あなたには、罪悪感というものがないのですか!? 二人がなぜ、そんな結末を迎えなければならなかったのか考えたことはありますか!? あなたには、人の気持ちを理解出来ないのですか!?」
思わず、感情的になってしまった。
会場はシーンと静まり返り、辺りを見渡すと目に映ったのはシェリルの涙する姿だった。
「わ……たし……は……」
クリスティ様の口から、言い訳さえ出なくなった。だからといって、反省したわけでも後悔しているわけでもないだろう。
後悔しているとすれば、私に執着したことに対して。クリスティ様はきっと、『なぜ私がこんな目にあわなければならないの!?』などと思っているだろう。
「クリスティ様、言いたいことはありますか?」
そう聞いたのは、自らシェリルとレイビス様に謝罪して欲しかったから。けれど、彼女の口から出たのは謝罪の言葉ではなかった。
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