〖完結〗幼馴染みの王女様の方が大切な婚約者は要らない。愛してる? もう興味ありません。

藍川みいな

文字の大きさ
上 下
25 / 45

25、クリスティ様の誕生パーティー4

しおりを挟む


 叔父様の質問の意味を、クリスティ様はまだ理解していない。 けれど、指輪の意味を知る人達は血の気が引いたように顔色が悪くなって行く。

 「この指輪は、お母様にいただいた物です。私に、良く似合っていますよね!」

 空気も読むことが出来ないようだ。
 褒められるとでも、思っているのだろうか。
 クリスティ様は、あの指輪が王妃様からいただいた物ではないと分かっている。あの指輪をつけないという選択肢を、彼女には与えていた。
 先日、寮長にクリスティ様の指輪を渡し、彼女に返すように言った。もう一度私の部屋に侵入して、見つけ出したという言い訳付きで。
 自分の指輪があるにもかかわらず、私の指輪をクリスティ様はわざわざつけてきたのだ。
 
 「外しなさい。あなたに、その指輪をつける資格はない」

 叔父様の迫真の演技……いや、演技ではないのかもしれない。あの指輪は、お母様の物。盗んだお母様の指輪を、堂々とはめているクリスティ様に激怒しているのかもしれない。
 地を這うような怒りに満ちた声に、クリスティ様だけでなく皆がかたまる。

 「皇帝陛下! 申し訳ございません! クリスティは未熟で、何をしているのか分かっていないのです!」

 国王様が、必死で頭を下げる。
 ルギウス殿下も、国王様の隣に並び、深々と頭を下げた。
 
 「お父様!? お兄様まで、どうなさったのですか!?」

 クリスティ様も、ようやく国王様の様子に気付いた。

 「私は、答えが聞きたい。その指輪は、どうされたのですか?」

 二度目の質問に、クリスティ様は話し始める。
 
 「この指輪は、クラスメイトのセリーナ様から返していただいた物です。彼女は私の指輪を盗み、あろうことか学園の夜会につけて来たのです!」

 あの夜会の時のことを、ずっと根に持っていたのだと分かる。どうしても私に、窃盗の罪を着せたいようだ。
 
 「お待ちください! 私が、全てお話しします」

 そう言って壇上に上がったのは、寮長だった。
 『なぜ寮長が?』という顔をするクリスティ様をよそに、寮長がクリスティ様の指輪を見せる。

 「この指輪は、クリスティ様の指輪です。学園で夜会が行われた時に、レイビス殿下からセリーナ様宛ての贈り物の中に紛れ込ませるようにと、クリスティ様から命じられました」

 指輪を持ち、真実を語り出した寮長を見て、クリスティ様の表情が変わる。

 「何を言っているの!? だいたい、あなたは招待していないわ! 庶子ごときが、私の誕生パーティーに出席するなんて身の程知らずもいいところよ!」

 この一言で、クリスティ様の本性があらわになった。
 クリスティ様の言葉には耳を貸さず、寮長は続ける。
 顔色一つ変えない寮長を見ると、今までどんな扱いを受けて来たのかが分かる。庶子というだけで、散々バカにされ、蔑まれて来たのだろう。
 
 「学園での夜会に、セリーナ様は紛れ込ませた指輪ではなく、ご自分の指輪をしていきました。ですが、クリスティ様はセリーナ様のつけている指輪を見て、『私の指輪を盗んだ!』と騒ぎ立てたのです。クリスティ様は、セリーナ様を陥れようとしたのですが、その指輪がクリスティ様の物ではないとお気付きになったルギウス殿下によって失敗に終わりました」 

 「もうやめなさい! このようなデタラメを、信用なさらないでください! お父様、やめさせて!」
 
 取り乱すクリスティ様を見る国王様は、怒りからなのか、娘がしたことに対しての罪悪感からなのか、悲しみからなのか、辛そうに顔を歪めている。

 「続けなさい」

 国王様は、続けるように寮長に言う。
 それを見たクリスティ様は、信じられないという顔をして立ちすくんでいる。

 「そのことを根に持ったクリスティ様は、今度は夜会につけていたセリーナ様の指輪を私に盗み出すよう命じて来ました。そして私は、セリーナ様の指輪を盗み、クリスティ様に渡したのです。それが、その指輪です」

 話し終えた寮長は、静かに壇上をおりた。

 「まさか、クリスティ王女殿下がそんなことを……」
 「まあ、怖いわ……」
 「王女がそんなことをするなんて、この国はどうなっているんだ……」

 ようやく、クリスティ様の本性が明るみに出た。

 「セリーナの指輪を、今すぐ外しなさい」

 その話は知っているはずの叔父様が、寮長の話を聞いて更に激怒している。口調は静かだけれど、怒りが滲んでいるのが分かる。
 『セリーナの指輪』そう言ってくれた叔父様に、姪として認められた気がした。
 国王様が無理やりクリスティ様の指から指輪を外し、叔父様に渡す。

 「申し訳ありませんでした!」

 国王陛下が、他国の皇帝陛下に頭を下げるという異様な光景。

 「陛下! セリーナ様は、私の大切な人を奪おうとしていました! ですから、少し懲らしめようとこんなことをしただけです! 悪いのは、セリーナ様です!」

 全力で謝罪している国王様のことなどお構いなしに、自分は悪くないと言い張るクリスティ様。
 火に油を注いでしまったようだ。

 「この指輪の意味を、あなたはまだ分からないようですね。セリーナ、こちらへ」 

 叔父様に呼ばれた私は、ゆっくりと壇上へ向かう。
 ここからは、私の出番だ。

しおりを挟む
感想 301

あなたにおすすめの小説

【完結】さよなら私の初恋

山葵
恋愛
私の婚約者が妹に見せる笑顔は私に向けられる事はない。 初恋の貴方が妹を望むなら、私は貴方の幸せを願って身を引きましょう。 さようなら私の初恋。

立派な王太子妃~妃の幸せは誰が考えるのか~

矢野りと
恋愛
ある日王太子妃は夫である王太子の不貞の現場を目撃してしまう。愛している夫の裏切りに傷つきながらも、やり直したいと周りに助言を求めるが‥‥。 隠れて不貞を続ける夫を見続けていくうちに壊れていく妻。 周りが気づいた時は何もかも手遅れだった…。 ※設定はゆるいです。

【完結】精神的に弱い幼馴染を優先する婚約者を捨てたら、彼の兄と結婚することになりました

当麻リコ
恋愛
侯爵令嬢アメリアの婚約者であるミュスカーは、幼馴染みであるリリィばかりを優先する。 リリィは繊細だから僕が支えてあげないといけないのだと、誇らしそうに。 結婚を間近に控え、アメリアは不安だった。 指輪選びや衣装決めにはじまり、結婚に関する大事な話し合いの全てにおいて、ミュスカーはリリィの呼び出しに応じて行ってしまう。 そんな彼を見続けて、とうとうアメリアは彼との結婚生活を諦めた。 けれど正式に婚約の解消を求めてミュスカーの父親に相談すると、少し時間をくれと言って保留にされてしまう。 仕方なく保留を承知した一ヵ月後、国外視察で家を空けていたミュスカーの兄、アーロンが帰ってきてアメリアにこう告げた。 「必ず幸せにすると約束する。どうか俺と結婚して欲しい」 ずっと好きで、けれど他に好きな女性がいるからと諦めていたアーロンからの告白に、アメリアは戸惑いながらも頷くことしか出来なかった。

【完結】王太子殿下が幼馴染を溺愛するので、あえて応援することにしました。

かとるり
恋愛
王太子のオースティンが愛するのは婚約者のティファニーではなく、幼馴染のリアンだった。 ティファニーは何度も傷つき、一つの結論に達する。 二人が結ばれるよう、あえて応援する、と。

幼馴染がそんなに良いなら、婚約解消いたしましょうか?

ルイス
恋愛
「アーチェ、君は明るいのは良いんだけれど、お淑やかさが足りないと思うんだ。貴族令嬢であれば、もっと気品を持ってだね。例えば、ニーナのような……」 「はあ……なるほどね」 伯爵令嬢のアーチェと伯爵令息のウォーレスは幼馴染であり婚約関係でもあった。 彼らにはもう一人、ニーナという幼馴染が居た。 アーチェはウォーレスが性格面でニーナと比べ過ぎることに辟易し、婚約解消を申し出る。 ウォーレスも納得し、婚約解消は無事に成立したはずだったが……。 ウォーレスはニーナのことを大切にしながらも、アーチェのことも忘れられないと言って来る始末だった……。

一番悪いのは誰

jun
恋愛
結婚式翌日から屋敷に帰れなかったファビオ。 ようやく帰れたのは三か月後。 愛する妻のローラにやっと会えると早る気持ちを抑えて家路を急いだ。 出迎えないローラを探そうとすると、執事が言った、 「ローラ様は先日亡くなられました」と。 何故ローラは死んだのは、帰れなかったファビオのせいなのか、それとも・・・

【完結】失いかけた君にもう一度

暮田呉子
恋愛
偶然、振り払った手が婚約者の頬に当たってしまった。 叩くつもりはなかった。 しかし、謝ろうとした矢先、彼女は全てを捨てていなくなってしまった──。

【完結】真実の愛だと称賛され、二人は別れられなくなりました

紫崎 藍華
恋愛
ヘレンは婚約者のティルソンから、面白みのない女だと言われて婚約解消を告げられた。 ティルソンは幼馴染のカトリーナが本命だったのだ。 ティルソンとカトリーナの愛は真実の愛だと貴族たちは賞賛した。 貴族たちにとって二人が真実の愛を貫くのか、それとも破滅へ向かうのか、面白ければどちらでも良かった。

処理中です...