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25、クリスティ様の誕生パーティー4
しおりを挟む叔父様の質問の意味を、クリスティ様はまだ理解していない。 けれど、指輪の意味を知る人達は血の気が引いたように顔色が悪くなって行く。
「この指輪は、お母様にいただいた物です。私に、良く似合っていますよね!」
空気も読むことが出来ないようだ。
褒められるとでも、思っているのだろうか。
クリスティ様は、あの指輪が王妃様からいただいた物ではないと分かっている。あの指輪をつけないという選択肢を、彼女には与えていた。
先日、寮長にクリスティ様の指輪を渡し、彼女に返すように言った。もう一度私の部屋に侵入して、見つけ出したという言い訳付きで。
自分の指輪があるにもかかわらず、私の指輪をクリスティ様はわざわざつけてきたのだ。
「外しなさい。あなたに、その指輪をつける資格はない」
叔父様の迫真の演技……いや、演技ではないのかもしれない。あの指輪は、お母様の物。盗んだお母様の指輪を、堂々とはめているクリスティ様に激怒しているのかもしれない。
地を這うような怒りに満ちた声に、クリスティ様だけでなく皆がかたまる。
「皇帝陛下! 申し訳ございません! クリスティは未熟で、何をしているのか分かっていないのです!」
国王様が、必死で頭を下げる。
ルギウス殿下も、国王様の隣に並び、深々と頭を下げた。
「お父様!? お兄様まで、どうなさったのですか!?」
クリスティ様も、ようやく国王様の様子に気付いた。
「私は、答えが聞きたい。その指輪は、どうされたのですか?」
二度目の質問に、クリスティ様は話し始める。
「この指輪は、クラスメイトのセリーナ様から返していただいた物です。彼女は私の指輪を盗み、あろうことか学園の夜会につけて来たのです!」
あの夜会の時のことを、ずっと根に持っていたのだと分かる。どうしても私に、窃盗の罪を着せたいようだ。
「お待ちください! 私が、全てお話しします」
そう言って壇上に上がったのは、寮長だった。
『なぜ寮長が?』という顔をするクリスティ様をよそに、寮長がクリスティ様の指輪を見せる。
「この指輪は、クリスティ様の指輪です。学園で夜会が行われた時に、レイビス殿下からセリーナ様宛ての贈り物の中に紛れ込ませるようにと、クリスティ様から命じられました」
指輪を持ち、真実を語り出した寮長を見て、クリスティ様の表情が変わる。
「何を言っているの!? だいたい、あなたは招待していないわ! 庶子ごときが、私の誕生パーティーに出席するなんて身の程知らずもいいところよ!」
この一言で、クリスティ様の本性があらわになった。
クリスティ様の言葉には耳を貸さず、寮長は続ける。
顔色一つ変えない寮長を見ると、今までどんな扱いを受けて来たのかが分かる。庶子というだけで、散々バカにされ、蔑まれて来たのだろう。
「学園での夜会に、セリーナ様は紛れ込ませた指輪ではなく、ご自分の指輪をしていきました。ですが、クリスティ様はセリーナ様のつけている指輪を見て、『私の指輪を盗んだ!』と騒ぎ立てたのです。クリスティ様は、セリーナ様を陥れようとしたのですが、その指輪がクリスティ様の物ではないとお気付きになったルギウス殿下によって失敗に終わりました」
「もうやめなさい! このようなデタラメを、信用なさらないでください! お父様、やめさせて!」
取り乱すクリスティ様を見る国王様は、怒りからなのか、娘がしたことに対しての罪悪感からなのか、悲しみからなのか、辛そうに顔を歪めている。
「続けなさい」
国王様は、続けるように寮長に言う。
それを見たクリスティ様は、信じられないという顔をして立ちすくんでいる。
「そのことを根に持ったクリスティ様は、今度は夜会につけていたセリーナ様の指輪を私に盗み出すよう命じて来ました。そして私は、セリーナ様の指輪を盗み、クリスティ様に渡したのです。それが、その指輪です」
話し終えた寮長は、静かに壇上をおりた。
「まさか、クリスティ王女殿下がそんなことを……」
「まあ、怖いわ……」
「王女がそんなことをするなんて、この国はどうなっているんだ……」
ようやく、クリスティ様の本性が明るみに出た。
「セリーナの指輪を、今すぐ外しなさい」
その話は知っているはずの叔父様が、寮長の話を聞いて更に激怒している。口調は静かだけれど、怒りが滲んでいるのが分かる。
『セリーナの指輪』そう言ってくれた叔父様に、姪として認められた気がした。
国王様が無理やりクリスティ様の指から指輪を外し、叔父様に渡す。
「申し訳ありませんでした!」
国王陛下が、他国の皇帝陛下に頭を下げるという異様な光景。
「陛下! セリーナ様は、私の大切な人を奪おうとしていました! ですから、少し懲らしめようとこんなことをしただけです! 悪いのは、セリーナ様です!」
全力で謝罪している国王様のことなどお構いなしに、自分は悪くないと言い張るクリスティ様。
火に油を注いでしまったようだ。
「この指輪の意味を、あなたはまだ分からないようですね。セリーナ、こちらへ」
叔父様に呼ばれた私は、ゆっくりと壇上へ向かう。
ここからは、私の出番だ。
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