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24、クリスティ様の誕生パーティー3
しおりを挟む「お忙しい中、娘のクリスティの誕生パーティーにお越しいただき、誠にありがとうございます。本日は、素晴らしいゲストがこのグルダ王国に起こしになっております!」
叔父様の到着を、国王様は待っていたようだ。叔父様と共に壇上に上がり、挨拶を始めた。
今日の主役であるクリスティ様の名を出したのはほんの一瞬で、次の瞬間には叔父様の紹介を始めた。国王様は、叔父様がこの国に来た目的を分かっているからか、クリスティ様にはすでに触れようとしない。
それも、仕方のないことかもしれない。ここに来ている方のほとんどが、クリスティ様をお祝いする為ではなく、叔父様目当てだったのだから。
スフィリル帝国はこの大陸において、最も大きな国だ。滅多に国から出ることのない皇帝が、なぜか小国の王女の誕生パーティーに出席している。だから、クリスティ様のダンスに皆注目していたのだろう。
叔父様には、わざと少し遅れて来て欲しいと頼んでいた。
他の方が、指輪に気付くようにしたかったからだ。
「あの噂が、本当だったとは……」
「スフィリル帝国の皇帝陛下……なんて麗しいのでしょう……」
「お近付きになるチャンス!」
各国の方々が一斉に叔父様に注目する。
ルツォリオ陛下に捕まっていたクリスティ様は、何とか陛下を振り払い、不服そうな顔で呼ばれてもいないのに壇上に上がる。
その時、ルギウス殿下が指輪に気付いたようで、クリスティ様を止めようと壇上に上がった。
クリスティ様の手を引いて壇上から下ろそうとするルギウス殿下の手を振り払い、一番目立つ場所に満面の笑顔で立つクリスティ様。
「皆、皇帝陛下に注目していて良かったな……」
「そうですね……。この国の人間として、恥ずかしいです……」
まるで音のない喜劇のようなやり取りに、顔が引きつってしまう。
国王様の挨拶が終わりかけたところで、国王様の目がクリスティ様のしている指輪を捉えた。口を開いたまま、一気に顔が青ざめて行く。
「あ、あ……あ……」
そのまま、国王様は言葉を失ってしまった。
そのことを不思議に思わなかったのか、ここぞとばかりにクリスティ様が挨拶を始めた。
「皆様、本日は私の為にお越しいただき、大変感謝申し上げます。このようにたくさんの方々にお祝いしていただき、感激しております。あの大帝国、スフィリル帝国の皇帝陛下まで私のお祝いに駆けつけていただき、素晴らしい一日になりました」
上機嫌で挨拶するクリスティ様とは裏腹に、国王様とルギウス殿下はこの世の終わりのような顔をしている。
そのことに全く気付かないクリスティ様の隣に、第二王子のサイモン殿下が立った。
「皆様、本日は妹のクリスティの為にありがとうございます。妹はとても気立てが良く、心も容姿も美しいのですが、気品に満ち溢れ過ぎていて、冷たいと誤解されやすいのです。ですから、このようにたくさんの方々から祝っていただけて感慨無量です」
慈しむような目でクリスティ様を見つめながら話す、サイモン殿下。その隣に、同じような目でクリスティ様を見つめる王妃様の姿もある。
「……ちょっと、何を言っているのか分かりませんが、クリスティ様があのようになってしまった原因が分かった気がします」
「サイモンだけでなく、王妃様も指輪に気付いてないな」
「ルギウス様としか交流がなかったけれど、サイモン様とは仲良くなれそうにないわ」
サイモン殿下のあまりに強烈な登場に、壇上を見つめたまま深いため息が出る。甘やかしていたのは、サイモン殿下と王妃様だったようだ。
クリスティ様と同じで、国王様とルギウス殿下が真っ青な顔になっていることに全く気付いていない。自分達のことしか見えないところが、本当にそっくりだ。
国王様はようやく我に返り、クリスティ様を壇上から下ろそうとするけれど、クリスティ様は笑顔のまま壇上に居座る。なんなら、手まで振っている。
クリスティ様を壇上からおろしたとしても、もう遅い。他国の王族の方はすでにあの指輪に気付いているのだから。
「国王陛下とルギウス殿下には、少しお気の毒ですけれど、そろそろお仕置の時間です」
そう私が口にしたのと同時に、叔父様がクリスティ様に近付く。
「クリスティ王女、その指輪はどうされたのですか?」
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