〖完結〗幼馴染みの王女様の方が大切な婚約者は要らない。愛してる? もう興味ありません。

藍川みいな

文字の大きさ
上 下
23 / 45

23、クリスティ様の誕生パーティー2

しおりを挟む


 先程のクリスティ様の発言に気分を害したのか、周りの方々がクリスティ様をチラチラと見ている。自分の国の国王陛下や王族の方々が出席しているのだから、クリスティ様に嫌悪を抱くのも当然だ。

 「クリスティ、僕と一曲踊ってくれないか?」

 ずっと傍らにいたカイン様が、クリスティ様をダンスに誘う。
 あの学園での夜会の後も、カイン様はクリスティ様の側にずっと居た。それは、私に話したことをクリスティ様に気付かれないようにする為。
 クリスティ様の本性を知ったカイン様は、今まで私を苦しませた償いをしたいと自ら申し出た。
 このダンスは、計画通りだ。
 
 クリスティ様は、めんどくさそうにカイン様の誘いを受ける。カイン様には、利用価値がないと思っているのが顔に出ている。
 カイン様には苦しめられたけれど、あれほど大切にしてくれた人に対して酷過ぎる。
 それでも誘いを受けたのは、少しでも私にダメージを与えようと思っているからだろう。

 クリスティ様とカイン様がダンスフロアに立つと、二人にスポットが当たる。今日の主役であるクリスティ様のダンスを見ようと皆が集まり出す。
 ダンスを見せる為に、カイン様がクリスティ様を誘ったわけではない。彼女がしている指輪を、集まっている方々に見てもらう為にダンスに誘った。

 優雅な音楽がゆっくりと流れ、二人は踊り始めた。
 レイビス様と、初めて会った夜会を思い出す。あの日も、私はこうしてダンスをする二人を見ていた。それが辛くなり、一人で楽しもうと料理を食べ始めた。思い出して、顔がニヤケてしまう。

 「今、食べ物のことを考えていただろ?」

 私のニヤケ顔に気付いて、からかうように耳元でレイビス様がそう言った。確かに食べ物のことを考えていたけれど、顔がニヤケたのは違う理由だ。
 あの時のレイビス様は、今とは違う口調だった。食べ物の話をして、楽しかったことを覚えている。その彼が、今は隣に居てくれていることが嬉しくて思わずニヤケてしまった。
 
 「私のお肉を、レイビス様に一つ奪われたことを思い出しました」

 「あれは、美味かった」

 昔のことを思い出して微笑みあっていると、ダンスフロアから視線を感じた。クリスティ様が、こちらを睨んでいる……
 
 クリスティ様、私達のことを気にしている場合ではありませんよ。

 二人のダンスを見守っていた招待客達が、ヒソヒソと話し始める。
 クリスティ様がしている指輪に、気付き始めたようだ。 けれど、それを直接クリスティ様に聞く方は居ないだろう。
 クリスティ様は、自分が注目されているのだと上機嫌でダンスを終えた。
 カイン様には、なるべく国王陛下やルギウス殿下、そして第二王子のサイモン殿下に、クリスティ様が必要以上近付かないようにして欲しいと頼んである。
 ルギウス殿下には、先日の夜会の件があるからクリスティ様からは近付かないだろう。
 サイモン殿下は分からないけれど、少なくとも陛下とルギウス殿下はあの指輪がどういう物かを知っている。
 クリスティ様にはまだ、指輪を見せびらかしてもらわなくては困る。

 カイン様とのダンスを終えたクリスティ様が、こちらに向かってまっすぐ歩いて来る。これは……

 「レイビス様、一曲踊っていただけますか?」

 クリスティ様は、レイビス様をダンスに誘った。

 「誘われましたね……」
 「誘われたわね」
 「誘われてしまいましたね……」

 お気の毒という目で、私達三人はレイビス様を見る。
 普通なら、女性からダンスに誘うことはほとんどない。けれど、今日の主役はクリスティ様。断ることは出来ない……

 「ちょっと待った~! クリスティ王女と踊るのは、この僕さ。レイビス、譲ってくれたまえ!」

 「譲ろう!」

 即答するレイビス様。
 クリスティ様と踊りたいと言い出したのは、ボボノア王国の国王ルツォリオ陛下。

 「助かりましたね……」
 「助かったわね」
 「助かってしまいましたね……」

 「お前ら、俺をからかって遊んでいるだろ……」

 レイビス様は、不機嫌そうに私達を睨みつける。
 クリスティ様がレイビス様をダンスに誘うのは、予想がついていた。クリスティ様に目立ってもらう為には、レイビス様にクリスティ様と踊ってもらう予定だったのだけれど、ちょうどよくルツォリオ陛下が名乗りをあげた。
 ルツォリオ陛下は、悪い意味で目立っているから問題はない。

 「さあ行きますぞ、クリスティ王女。お手を」

 「わ、私は、レイビス様と……」

 言い終わらないうちに、ルツォリオ陛下がクリスティ様の手をがっしりと掴み、ダンスフロアへと引きずって……もとい、エスコートして行った。

 『悪い意味』と言ったのは、ルツォリオ陛下の評判がものすごく悪いからだ。
 
 「ずんぐりむっくりとは、ああいう体型をいうのね」
 
 シェリルは、ルツォリオ陛下を見ながら無表情でそう口にする。 

 「悪口は、良くないわ」

 「そうだぞ、シェリル。ルツォリオ陛下は、俺の救世主だ」

 レイビス様は、クリスティ様とダンスを踊らなくて済んでホッとしている。

 「そろそろ、叔父様が来る時間ですね」

しおりを挟む
感想 301

あなたにおすすめの小説

【完結】さよなら私の初恋

山葵
恋愛
私の婚約者が妹に見せる笑顔は私に向けられる事はない。 初恋の貴方が妹を望むなら、私は貴方の幸せを願って身を引きましょう。 さようなら私の初恋。

立派な王太子妃~妃の幸せは誰が考えるのか~

矢野りと
恋愛
ある日王太子妃は夫である王太子の不貞の現場を目撃してしまう。愛している夫の裏切りに傷つきながらも、やり直したいと周りに助言を求めるが‥‥。 隠れて不貞を続ける夫を見続けていくうちに壊れていく妻。 周りが気づいた時は何もかも手遅れだった…。 ※設定はゆるいです。

【完結】精神的に弱い幼馴染を優先する婚約者を捨てたら、彼の兄と結婚することになりました

当麻リコ
恋愛
侯爵令嬢アメリアの婚約者であるミュスカーは、幼馴染みであるリリィばかりを優先する。 リリィは繊細だから僕が支えてあげないといけないのだと、誇らしそうに。 結婚を間近に控え、アメリアは不安だった。 指輪選びや衣装決めにはじまり、結婚に関する大事な話し合いの全てにおいて、ミュスカーはリリィの呼び出しに応じて行ってしまう。 そんな彼を見続けて、とうとうアメリアは彼との結婚生活を諦めた。 けれど正式に婚約の解消を求めてミュスカーの父親に相談すると、少し時間をくれと言って保留にされてしまう。 仕方なく保留を承知した一ヵ月後、国外視察で家を空けていたミュスカーの兄、アーロンが帰ってきてアメリアにこう告げた。 「必ず幸せにすると約束する。どうか俺と結婚して欲しい」 ずっと好きで、けれど他に好きな女性がいるからと諦めていたアーロンからの告白に、アメリアは戸惑いながらも頷くことしか出来なかった。

【完結】王太子殿下が幼馴染を溺愛するので、あえて応援することにしました。

かとるり
恋愛
王太子のオースティンが愛するのは婚約者のティファニーではなく、幼馴染のリアンだった。 ティファニーは何度も傷つき、一つの結論に達する。 二人が結ばれるよう、あえて応援する、と。

幼馴染がそんなに良いなら、婚約解消いたしましょうか?

ルイス
恋愛
「アーチェ、君は明るいのは良いんだけれど、お淑やかさが足りないと思うんだ。貴族令嬢であれば、もっと気品を持ってだね。例えば、ニーナのような……」 「はあ……なるほどね」 伯爵令嬢のアーチェと伯爵令息のウォーレスは幼馴染であり婚約関係でもあった。 彼らにはもう一人、ニーナという幼馴染が居た。 アーチェはウォーレスが性格面でニーナと比べ過ぎることに辟易し、婚約解消を申し出る。 ウォーレスも納得し、婚約解消は無事に成立したはずだったが……。 ウォーレスはニーナのことを大切にしながらも、アーチェのことも忘れられないと言って来る始末だった……。

一番悪いのは誰

jun
恋愛
結婚式翌日から屋敷に帰れなかったファビオ。 ようやく帰れたのは三か月後。 愛する妻のローラにやっと会えると早る気持ちを抑えて家路を急いだ。 出迎えないローラを探そうとすると、執事が言った、 「ローラ様は先日亡くなられました」と。 何故ローラは死んだのは、帰れなかったファビオのせいなのか、それとも・・・

【完結】失いかけた君にもう一度

暮田呉子
恋愛
偶然、振り払った手が婚約者の頬に当たってしまった。 叩くつもりはなかった。 しかし、謝ろうとした矢先、彼女は全てを捨てていなくなってしまった──。

【完結】真実の愛だと称賛され、二人は別れられなくなりました

紫崎 藍華
恋愛
ヘレンは婚約者のティルソンから、面白みのない女だと言われて婚約解消を告げられた。 ティルソンは幼馴染のカトリーナが本命だったのだ。 ティルソンとカトリーナの愛は真実の愛だと貴族たちは賞賛した。 貴族たちにとって二人が真実の愛を貫くのか、それとも破滅へ向かうのか、面白ければどちらでも良かった。

処理中です...