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23、クリスティ様の誕生パーティー2
しおりを挟む先程のクリスティ様の発言に気分を害したのか、周りの方々がクリスティ様をチラチラと見ている。自分の国の国王陛下や王族の方々が出席しているのだから、クリスティ様に嫌悪を抱くのも当然だ。
「クリスティ、僕と一曲踊ってくれないか?」
ずっと傍らにいたカイン様が、クリスティ様をダンスに誘う。
あの学園での夜会の後も、カイン様はクリスティ様の側にずっと居た。それは、私に話したことをクリスティ様に気付かれないようにする為。
クリスティ様の本性を知ったカイン様は、今まで私を苦しませた償いをしたいと自ら申し出た。
このダンスは、計画通りだ。
クリスティ様は、めんどくさそうにカイン様の誘いを受ける。カイン様には、利用価値がないと思っているのが顔に出ている。
カイン様には苦しめられたけれど、あれほど大切にしてくれた人に対して酷過ぎる。
それでも誘いを受けたのは、少しでも私にダメージを与えようと思っているからだろう。
クリスティ様とカイン様がダンスフロアに立つと、二人にスポットが当たる。今日の主役であるクリスティ様のダンスを見ようと皆が集まり出す。
ダンスを見せる為に、カイン様がクリスティ様を誘ったわけではない。彼女がしている指輪を、集まっている方々に見てもらう為にダンスに誘った。
優雅な音楽がゆっくりと流れ、二人は踊り始めた。
レイビス様と、初めて会った夜会を思い出す。あの日も、私はこうしてダンスをする二人を見ていた。それが辛くなり、一人で楽しもうと料理を食べ始めた。思い出して、顔がニヤケてしまう。
「今、食べ物のことを考えていただろ?」
私のニヤケ顔に気付いて、からかうように耳元でレイビス様がそう言った。確かに食べ物のことを考えていたけれど、顔がニヤケたのは違う理由だ。
あの時のレイビス様は、今とは違う口調だった。食べ物の話をして、楽しかったことを覚えている。その彼が、今は隣に居てくれていることが嬉しくて思わずニヤケてしまった。
「私のお肉を、レイビス様に一つ奪われたことを思い出しました」
「あれは、美味かった」
昔のことを思い出して微笑みあっていると、ダンスフロアから視線を感じた。クリスティ様が、こちらを睨んでいる……
クリスティ様、私達のことを気にしている場合ではありませんよ。
二人のダンスを見守っていた招待客達が、ヒソヒソと話し始める。
クリスティ様がしている指輪に、気付き始めたようだ。 けれど、それを直接クリスティ様に聞く方は居ないだろう。
クリスティ様は、自分が注目されているのだと上機嫌でダンスを終えた。
カイン様には、なるべく国王陛下やルギウス殿下、そして第二王子のサイモン殿下に、クリスティ様が必要以上近付かないようにして欲しいと頼んである。
ルギウス殿下には、先日の夜会の件があるからクリスティ様からは近付かないだろう。
サイモン殿下は分からないけれど、少なくとも陛下とルギウス殿下はあの指輪がどういう物かを知っている。
クリスティ様にはまだ、指輪を見せびらかしてもらわなくては困る。
カイン様とのダンスを終えたクリスティ様が、こちらに向かってまっすぐ歩いて来る。これは……
「レイビス様、一曲踊っていただけますか?」
クリスティ様は、レイビス様をダンスに誘った。
「誘われましたね……」
「誘われたわね」
「誘われてしまいましたね……」
お気の毒という目で、私達三人はレイビス様を見る。
普通なら、女性からダンスに誘うことはほとんどない。けれど、今日の主役はクリスティ様。断ることは出来ない……
「ちょっと待った~! クリスティ王女と踊るのは、この僕さ。レイビス、譲ってくれたまえ!」
「譲ろう!」
即答するレイビス様。
クリスティ様と踊りたいと言い出したのは、ボボノア王国の国王ルツォリオ陛下。
「助かりましたね……」
「助かったわね」
「助かってしまいましたね……」
「お前ら、俺をからかって遊んでいるだろ……」
レイビス様は、不機嫌そうに私達を睨みつける。
クリスティ様がレイビス様をダンスに誘うのは、予想がついていた。クリスティ様に目立ってもらう為には、レイビス様にクリスティ様と踊ってもらう予定だったのだけれど、ちょうどよくルツォリオ陛下が名乗りをあげた。
ルツォリオ陛下は、悪い意味で目立っているから問題はない。
「さあ行きますぞ、クリスティ王女。お手を」
「わ、私は、レイビス様と……」
言い終わらないうちに、ルツォリオ陛下がクリスティ様の手をがっしりと掴み、ダンスフロアへと引きずって……もとい、エスコートして行った。
『悪い意味』と言ったのは、ルツォリオ陛下の評判がものすごく悪いからだ。
「ずんぐりむっくりとは、ああいう体型をいうのね」
シェリルは、ルツォリオ陛下を見ながら無表情でそう口にする。
「悪口は、良くないわ」
「そうだぞ、シェリル。ルツォリオ陛下は、俺の救世主だ」
レイビス様は、クリスティ様とダンスを踊らなくて済んでホッとしている。
「そろそろ、叔父様が来る時間ですね」
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