〖完結〗幼馴染みの王女様の方が大切な婚約者は要らない。愛してる? もう興味ありません。

藍川みいな

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20、レイビス様からの手紙

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 「……私はただ、クリスティ様に命じられただけです」

 謝るよりも先に、自分はただ命令されただけだといいわけをする寮長。この方が同情する気も起きなくていい。

 「たとえ命じられたことだとしても、やらないという選択肢はありましたよね? 学園長に相談するなりすれば、済んだこと。それをしなかったということは、見返りを期待していたのですよね? 
 ああ、嘘はやめてくださいね。あなたの対応は、私達に任されています。協力した方が、賢明ですよ」

 寮長は、三大貴族のランドルク公爵家の人間だ。といっても、寮長は平民の愛人との子……つまり、庶子だ。庶子が家族にどのような扱いを受けて来たかは、容易に想像がつく。三大貴族の公爵家なら、尚更だろう。だからといって、彼女がしたことは間違っている。

 「協力……とは?」

 寮長には、全てを証言してもらう。クリスティ様の誕生パーティーまでは、今まで通り過ごすようにお願いした。それとこれ以上はもうないとは思うけれど、またクリスティ様に何かを命じられた時は報告するように言い、私の部屋に戻った。

 「寮長を、見張っておく?」

 部屋に入った瞬間、モニカがそう言った。

 「その必要は、ないと思う。これ以上罪を重ねたらどうなるかは、彼女も分かっているはず。
 モニカ、顔が怖いわ」

 眉間に皺を寄せるモニカのおでこを、つんつんする。

 「こんなに綺麗な顔をしているのだから、もっと笑わないともったいない。眉間に皺を寄せてばかりいたら、幸せが逃げてしまうわ」

 私のことを考えてくれているのは分かっているけれど、ずっと気をはっている必要はない。クリスティ様が命を狙って来るとも考えにくいし、もう少し肩の力を抜いて欲しかった。

 「……同じことを、陛下にも言われたことがあるの。私はずっと、強くなることだけを考えて生きてきた。女性だからダメだなんて、誰にも言わせない為に。必死でもがいて来たのに、騎士の試験を受けさせてももらえず、女性だから騎士にはなれないと言われた。そんな時、陛下が私を訪ねていらっしゃって、私を認めてくださった。その時陛下に、『眉間に皺を寄せてばかりいたら、幸せが逃げてしまう』と」

 叔父様のことをよく知っているわけではないけれど、なんとなく叔父様らしいと思った。
 
 「モニカってもしかして、皇帝陛下のことをお慕いして……」

 シェリルがそう言うと、モニカの顔が赤くなった。図星だったようだ。

 「や、やめてよシェリル! そんなことないわ!」

 「照れてるモニカが、可愛い……」

 「セリーナまで、からかわないで~」

 顔を真っ赤に染めて照れているモニカを見て、少しだけ仲良くなれた気がした。

 
 そしていよいよ、クリスティ様の誕生パーティーが翌日に迫っていた。
 やれることは全てやり、こちらは準備万端。
 年に一度の誕生日なのに……とは思うけれど、クリスティ様にこれまでして来たことの報いを受けさせるには、この日しかない。

 「セリーナ様、レイビス殿下からお手紙が届いております。ご本人から直接受け取りましたから、ご安心ください」

 前回のことがあったからか、レイビス様は寮長には渡さず、直接メーガンに手渡したようだ。レイビス様から手紙なんて珍しいと思いながら、封を開けて読んでみる。
 手紙には、『授業が終わったら、デートをしよう。噴水の前で待っている』と書かれていた。

 「デート!?」

 驚いて、思わず大きな声が出てしまった。

 「まあ!? デートのお誘いだったのですか? どうなさるおつもりですか?」

 メーガンが急にキラキラした目で、こちらを見て来る。

 「どうって……どうしよう?」

 明日は大切な日だというのに、なぜよりによって今日なのか……
 この前の告白を冗談にしてしまってから、少しだけ気まずかった。

 「行くべきです!」

 「そう……だよね。誤魔化していても仕方がないし、今の気持ちを伝えるいい機会かもしれない」

 色々なことがいっぺんに起こって、気持ちを整理する時間がなかった。
 けれど、レイビス様に惹かれていることだけは分かる。すぐにどうこうとはいかなくても、逃げていたら気持ちがすれ違ってしまうかもしれない。
 行動しなければ何も変わらないのだと、カイン様のことで学んだはず。
 そう決めたら、無性にレイビス様に会いたくなった。彼を想うと、心がきゅ~と締め付けられる。

 
 教室に着くと、まだレイビス様は来ていなかった。

 「キョロキョロして、誰を探しているの?」

 「キャッ……」

 急に目の前にシェリルの顔が現れ、驚いて後ろに飛び退く。レイビス様と同じ顔だからか、必要以上に驚いてしまった。

 「シ、シェリル……おはよう」

 「驚きすぎじゃない? 私の顔を見て驚くなんて失礼ね……あ!」
 
 目を細めて訝しげに私を見ていたシェリルが、急に何かに気付いたように表情を変えた。 

 「私を、お兄様だと勘違いしたのでしょ!」

 シェリルは鋭い。
 
 「だって、そっくりなんだもの……」

 誤魔化しても無駄だと思い、正直に認める。

 「もしかして、デートにでも誘われた?」

 鋭過ぎる……
 私は、コクンと頷いた。

 「もちろん、行くのでしょう?」

 「ダメです」

 返事をする前に、モニカがそう言った。

 「モニカは黙ってて! お兄様は、悪い人間ではないわ。どうしてそんなに嫌うの?」

 「それは……」

 今まで一緒に居て、モニカにもレイビス様が優しい人だと分かっているはず。

 「ねえ、モニカ。私のことを考えてくれるなら、見守っていて欲しい」

 「……分かりました」

 モニカの許可も取れたし、レイビス様とのデートが楽しみになって来ていた。

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