20 / 45
20、レイビス様からの手紙
しおりを挟む「……私はただ、クリスティ様に命じられただけです」
謝るよりも先に、自分はただ命令されただけだといいわけをする寮長。この方が同情する気も起きなくていい。
「たとえ命じられたことだとしても、やらないという選択肢はありましたよね? 学園長に相談するなりすれば、済んだこと。それをしなかったということは、見返りを期待していたのですよね?
ああ、嘘はやめてくださいね。あなたの対応は、私達に任されています。協力した方が、賢明ですよ」
寮長は、三大貴族のランドルク公爵家の人間だ。といっても、寮長は平民の愛人との子……つまり、庶子だ。庶子が家族にどのような扱いを受けて来たかは、容易に想像がつく。三大貴族の公爵家なら、尚更だろう。だからといって、彼女がしたことは間違っている。
「協力……とは?」
寮長には、全てを証言してもらう。クリスティ様の誕生パーティーまでは、今まで通り過ごすようにお願いした。それとこれ以上はもうないとは思うけれど、またクリスティ様に何かを命じられた時は報告するように言い、私の部屋に戻った。
「寮長を、見張っておく?」
部屋に入った瞬間、モニカがそう言った。
「その必要は、ないと思う。これ以上罪を重ねたらどうなるかは、彼女も分かっているはず。
モニカ、顔が怖いわ」
眉間に皺を寄せるモニカのおでこを、つんつんする。
「こんなに綺麗な顔をしているのだから、もっと笑わないともったいない。眉間に皺を寄せてばかりいたら、幸せが逃げてしまうわ」
私のことを考えてくれているのは分かっているけれど、ずっと気をはっている必要はない。クリスティ様が命を狙って来るとも考えにくいし、もう少し肩の力を抜いて欲しかった。
「……同じことを、陛下にも言われたことがあるの。私はずっと、強くなることだけを考えて生きてきた。女性だからダメだなんて、誰にも言わせない為に。必死でもがいて来たのに、騎士の試験を受けさせてももらえず、女性だから騎士にはなれないと言われた。そんな時、陛下が私を訪ねていらっしゃって、私を認めてくださった。その時陛下に、『眉間に皺を寄せてばかりいたら、幸せが逃げてしまう』と」
叔父様のことをよく知っているわけではないけれど、なんとなく叔父様らしいと思った。
「モニカってもしかして、皇帝陛下のことをお慕いして……」
シェリルがそう言うと、モニカの顔が赤くなった。図星だったようだ。
「や、やめてよシェリル! そんなことないわ!」
「照れてるモニカが、可愛い……」
「セリーナまで、からかわないで~」
顔を真っ赤に染めて照れているモニカを見て、少しだけ仲良くなれた気がした。
そしていよいよ、クリスティ様の誕生パーティーが翌日に迫っていた。
やれることは全てやり、こちらは準備万端。
年に一度の誕生日なのに……とは思うけれど、クリスティ様にこれまでして来たことの報いを受けさせるには、この日しかない。
「セリーナ様、レイビス殿下からお手紙が届いております。ご本人から直接受け取りましたから、ご安心ください」
前回のことがあったからか、レイビス様は寮長には渡さず、直接メーガンに手渡したようだ。レイビス様から手紙なんて珍しいと思いながら、封を開けて読んでみる。
手紙には、『授業が終わったら、デートをしよう。噴水の前で待っている』と書かれていた。
「デート!?」
驚いて、思わず大きな声が出てしまった。
「まあ!? デートのお誘いだったのですか? どうなさるおつもりですか?」
メーガンが急にキラキラした目で、こちらを見て来る。
「どうって……どうしよう?」
明日は大切な日だというのに、なぜよりによって今日なのか……
この前の告白を冗談にしてしまってから、少しだけ気まずかった。
「行くべきです!」
「そう……だよね。誤魔化していても仕方がないし、今の気持ちを伝えるいい機会かもしれない」
色々なことがいっぺんに起こって、気持ちを整理する時間がなかった。
けれど、レイビス様に惹かれていることだけは分かる。すぐにどうこうとはいかなくても、逃げていたら気持ちがすれ違ってしまうかもしれない。
行動しなければ何も変わらないのだと、カイン様のことで学んだはず。
そう決めたら、無性にレイビス様に会いたくなった。彼を想うと、心がきゅ~と締め付けられる。
教室に着くと、まだレイビス様は来ていなかった。
「キョロキョロして、誰を探しているの?」
「キャッ……」
急に目の前にシェリルの顔が現れ、驚いて後ろに飛び退く。レイビス様と同じ顔だからか、必要以上に驚いてしまった。
「シ、シェリル……おはよう」
「驚きすぎじゃない? 私の顔を見て驚くなんて失礼ね……あ!」
目を細めて訝しげに私を見ていたシェリルが、急に何かに気付いたように表情を変えた。
「私を、お兄様だと勘違いしたのでしょ!」
シェリルは鋭い。
「だって、そっくりなんだもの……」
誤魔化しても無駄だと思い、正直に認める。
「もしかして、デートにでも誘われた?」
鋭過ぎる……
私は、コクンと頷いた。
「もちろん、行くのでしょう?」
「ダメです」
返事をする前に、モニカがそう言った。
「モニカは黙ってて! お兄様は、悪い人間ではないわ。どうしてそんなに嫌うの?」
「それは……」
今まで一緒に居て、モニカにもレイビス様が優しい人だと分かっているはず。
「ねえ、モニカ。私のことを考えてくれるなら、見守っていて欲しい」
「……分かりました」
モニカの許可も取れたし、レイビス様とのデートが楽しみになって来ていた。
987
お気に入りに追加
7,721
あなたにおすすめの小説


立派な王太子妃~妃の幸せは誰が考えるのか~
矢野りと
恋愛
ある日王太子妃は夫である王太子の不貞の現場を目撃してしまう。愛している夫の裏切りに傷つきながらも、やり直したいと周りに助言を求めるが‥‥。
隠れて不貞を続ける夫を見続けていくうちに壊れていく妻。
周りが気づいた時は何もかも手遅れだった…。
※設定はゆるいです。

【完結】精神的に弱い幼馴染を優先する婚約者を捨てたら、彼の兄と結婚することになりました
当麻リコ
恋愛
侯爵令嬢アメリアの婚約者であるミュスカーは、幼馴染みであるリリィばかりを優先する。
リリィは繊細だから僕が支えてあげないといけないのだと、誇らしそうに。
結婚を間近に控え、アメリアは不安だった。
指輪選びや衣装決めにはじまり、結婚に関する大事な話し合いの全てにおいて、ミュスカーはリリィの呼び出しに応じて行ってしまう。
そんな彼を見続けて、とうとうアメリアは彼との結婚生活を諦めた。
けれど正式に婚約の解消を求めてミュスカーの父親に相談すると、少し時間をくれと言って保留にされてしまう。
仕方なく保留を承知した一ヵ月後、国外視察で家を空けていたミュスカーの兄、アーロンが帰ってきてアメリアにこう告げた。
「必ず幸せにすると約束する。どうか俺と結婚して欲しい」
ずっと好きで、けれど他に好きな女性がいるからと諦めていたアーロンからの告白に、アメリアは戸惑いながらも頷くことしか出来なかった。

【完結】王太子殿下が幼馴染を溺愛するので、あえて応援することにしました。
かとるり
恋愛
王太子のオースティンが愛するのは婚約者のティファニーではなく、幼馴染のリアンだった。
ティファニーは何度も傷つき、一つの結論に達する。
二人が結ばれるよう、あえて応援する、と。

幼馴染がそんなに良いなら、婚約解消いたしましょうか?
ルイス
恋愛
「アーチェ、君は明るいのは良いんだけれど、お淑やかさが足りないと思うんだ。貴族令嬢であれば、もっと気品を持ってだね。例えば、ニーナのような……」
「はあ……なるほどね」
伯爵令嬢のアーチェと伯爵令息のウォーレスは幼馴染であり婚約関係でもあった。
彼らにはもう一人、ニーナという幼馴染が居た。
アーチェはウォーレスが性格面でニーナと比べ過ぎることに辟易し、婚約解消を申し出る。
ウォーレスも納得し、婚約解消は無事に成立したはずだったが……。
ウォーレスはニーナのことを大切にしながらも、アーチェのことも忘れられないと言って来る始末だった……。

一番悪いのは誰
jun
恋愛
結婚式翌日から屋敷に帰れなかったファビオ。
ようやく帰れたのは三か月後。
愛する妻のローラにやっと会えると早る気持ちを抑えて家路を急いだ。
出迎えないローラを探そうとすると、執事が言った、
「ローラ様は先日亡くなられました」と。
何故ローラは死んだのは、帰れなかったファビオのせいなのか、それとも・・・


私ってわがまま傲慢令嬢なんですか?
山科ひさき
恋愛
政略的に結ばれた婚約とはいえ、婚約者のアランとはそれなりにうまくやれていると思っていた。けれどある日、メアリはアランが自分のことを「わがままで傲慢」だと友人に話している場面に居合わせてしまう。話を聞いていると、なぜかアランはこの婚約がメアリのわがままで結ばれたものだと誤解しているようで……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる