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18、やれることをやる
しおりを挟むこの雰囲気をどうしたらいいか悩んでいると……
「ダメです!」
モニカが私とレイビス様の間に入り、なぜか断っていた。
レイビス様も、まさか初対面のモニカに『ダメ』だなんて返されると思っていなかったのか、面食らっている。
「モニカ? どうしたの?」
シェリルを認識していたモニカが、レイビス様を認識していないとは考えにくい。
「殿下、セリーナのどこが好きなのですか? 他の女性にも、同じようなことを仰っていないと証明出来るのですか? 失礼ですが、他の方が見ている前で愛の告白をするような方を信用出来ません」
護衛って、まさかこっちの護衛……?
なんてそんなはずはないだろうけれど。
モニカは真面目だから、レイビス様の軽い感じが苦手なのかもしれない。
「セリーナ以外に、好きだと言ったことはない。俺を殿下と呼んだのだから、何者なのかは分かっているのだろう? グランディでは、俺に浮いた話など一つもないと知っているのではないのか? それに、君には返事を聞いていない」
急に真剣な顔で、モニカにそう答えたレイビス様。さすがに、気分を害したのかもしれない。
「二人とも落ち着いて! モニカ、いきなり失礼よ。レイビス様は冗談で言っているだけだから、これ以上はやめて。レイビス様、モニカはすごく真面目な子なので、冗談が通じなかっただけです。本当にすみません」
冗談だと言いながら、胸がチクリと傷んだ。
レイビス様と過ごすうちに、私の中で彼の存在が大きくなっていた。彼が、冗談で好きだなんて言うはずがないことは分かっていた。
けれど今はまだ、レイビス様の気持ちに応える自信がない。
今度は私が二人の間に入る。
この二人は、相性が悪い気がする。
モニカのおかげで、レイビス様と私のことはうやむやになった。どう対応したらいいのか分からなかったから、レイビス様には悪いけれど少しだけモニカに感謝していた。
お昼休みになると、私達は学食に向かった。
レイビス様とモニカはまだ分かり合えてはいないけれど、レイビス様もシェリルと同じで、モニカが護衛なのだと察しているようだ。
料理を注文して、一番端のテーブルに座った。
注文した料理を自分で運ばなければならないからか、端の方のテーブルにはあまり生徒達が居ない。
「モニカ……座って……」
護衛の任務を忘れない真面目なモニカは、座っている私の後ろに控えている。私の言葉にハッとした顔をした後、私の隣にようやく腰を下ろした。
「で? どうだったの?」
朝からずっと気になっていたからか、シェリルがもう待てないと言わんばかりにそう聞いて来た。
「楽しかった。会ってよかったし、デザートを全種類食べれたの!」
昨日のデザートを思い出して、幸せな気持ちになる。
ご馳走してもらう以外は、節約しなければならないから、お昼はいつも通りAセットとBセットだけだ。
「……それだけ?」
「そうよ。あ、あとモニカが護衛になったわ」
シェリルは、何が聞きたかったのだろうか。私の話を聞いて、大きなため息をついた。
「あはははっ! さすが、セリーナ!
シェリルは、セリーナがスフィリル帝国の女帝になるんじゃないかと思っていたんだ。俺は、セリーナが断ると思っていたけどね」
「え……? それって、私に帝位継承権があると知っていたのですか!?」
「私達、これでも王族よ。それくらいは、予想出来たわ。セリーナのその様子なら、断ったということのようね。悔しいけれど、お兄様の方がセリーナをよく分かっていたみたい」
シェリルが朝から話を聞きたくてうずうずしていた理由は、そのことを聞きたかったからだった。
「どうしてレイビス様は、私が引き受けないと思ったのですか?」
「一番の理由は、セリーナが女帝になったら俺が困るからだ。セリーナは、俺の婚約者になると決まっている」
また自分の顔が赤く染っていくのが分かる。
レイビス様が、日に日に強引になって来てる気がする。
「決まっていません」
ずっと黙っていたのに、そこだけは否定するモニカ。
「決まっている!」
「決まっていません!」
なぜか張り合い出すレイビス様とモニカ。
私の意見は……?
「本題に入りますね。もうすぐクリスティ様の誕生パーティーが行われます。その前に、お会いしたい方がいるのですが……」
クリスティ様の誕生パーティーまで、それほど時間がない。やれることをやると決めた。
メーガンからの情報だと、泳がせている寮長に不審な動きがあった。
きっと、紛れ込ませた指輪を探すように言われたのだろう。あの指輪は、レイビス様が持っている。つまり、部屋を探したところで、見つかりはしない。
メーガンには用事を作り、わざと寮を出るように命じた。部屋に置いてあるのは、お母様の形見の指輪。きっと寮長は、その指輪を盗む。
クリスティ様の様子を見る限り、あの指輪の意味をルギウス殿下から聞いていないのだと分かる。
お母様の指輪を、こんなことに使いたくはなかったけれど、クリスティ様は必ずその指輪を誕生パーティーの日につけるだろう。私に、見せつける為に……
普通ならあんなに慌てるルギウス殿下の様子を目の当たりにしたのだから、そんなことはしないだろう。けれど、クリスティ様はルギウス殿下の様子から、あの指輪が大切な物なのだと認識した。
レイビス様とのことで、クリスティ様は私を排除したいと思っている。それと同時に、あの夜会の仕返しをしたいとも思っている。
だから、クリスティ様は必ず動く。
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